第二章 22、茜ちゃんどうしちゃったの?
バラバラに飛ばされてしまった鍛冶ガール一行は打ち合わせたわけではなかったものの、安否の確認をするためにそれぞれが三条城への道程を急いでいた。
距離でいえば一番近いのはまことだ。目と鼻の先の距離であったが故に一番最初に、しかも風に乗って大空を飛んで三条城へ到着した。
次にその日の内に到着したのは茜と軍司だった。
茜が足首を負傷していたこともあって適当なところで馬を拝借し茜を乗せ、軍司が引いて舞い戻った。軍司はクタクタに疲れていたし、茜の怪我を知ったまことは城の者に治療を頼んだりと慌ただしくしていた。
その前後、雨生ヶ池を共に目指した長尾の軍勢が陸続と帰還してきていた。
どうやら万が一の時には三条城へ戻るよう事前に指示がなされていたようであったか。
次に戻ってきたのは姫子と大蛇・白夜であったが、それは次の日のことであった。
まことはその間、軍を率いて戻った鬼の異名を持つ小島弥太郎と善後策を検討していたが、誰がどこに飛ばされ、いつどうやって戻ってくるかもわからない状況の中、これといった名案も浮かばぬままに日が暮れたのだった。
その夜、柿崎が、舞い戻り、小島に誘われて睡眠を取り体力を回復させた軍司と応急ではあったが治療をした茜と共に夕餉を取ることになった。給仕係りは助作と格兵衛である。
助・格は中浦家の分館にて待機していたので小島に従い戻っていたのだ。
「しかしあわやのところであの巨大な大蛇に救われるとは思わなかったのぉ」
「柿崎殿、それを聞いて驚きましたぞ! しかし殿と山吉殿は何処へ飛ばされたのやら…………」
「そうだよな姫子ちゃんとカンナム先輩、それに咲良と影虎さんは今頃どこでどうしてんだろうなぁ…………」
軍司は箸を咥えたまま天井を見上げた。
「そうよね、栞菜は今ごろどこでどうしてるんだろう…………」
まことも親友のことを心配していた。
茜は相変わらず落ち込んでいて、咲良や栞菜のことは勿論心配だったが、まことが能力を身に付けたことを知って更に沈んでいた。
まことと軍司はそんな茜を気遣って無理に話し掛けようとはせず、そっとしておいた。
未だ帰らぬ仲間に思いを馳せてそれぞれ泥のように眠るのであった。
翌朝、早々に姫子が大蛇・白夜と共に悠々と水の絨毯で戻った。
姫子と白夜は大蛇の誤解を解く為に姫小百合の郷に立ち寄り、一泊して来たのだ。
まこと達はその光景に驚き、姫子から白夜の素性を聞いてそれ以上に驚いた。
「白夜の協力もあって無事、水の力を得ました!」
いつの間にか白夜を呼び捨てにする姫子の話を聞きながらも、それぞれが白夜の端正な出で立ちに釘付けになった。
その後、ズシンズシンと武骨な足音をたてながら白夜に近付いた柿崎は神妙な面持ちで口を開いた。
「大蛇殿! そなた様の力がなければワシらは全滅の憂き目に合っていたことでしょう…………お礼申し上げます!」
と、頭を垂れた。
「いえ。私にもっと力があれば皆さんをまとめて、この城へ逃がすことも出来たのですが」
「そんなことないです、感謝してます! お陰で私は天狗さんと出会い、風の力を身に付けることが出来たんですから!」
「そうっすよ! 多少服が汚れたり怪我をしたって命にはかえらんないっすからね!」
まことの後に軍司はそう言って白夜に礼を述べるとチラッと茜を見た。
茜は姫子が水の力を得たことを聞くと、より一層暗い顔になっていった。
そんな茜を心配して姫子が無理に笑って茜に話し掛ける。
「茜さん、大丈夫ですか? 姫子、もしかしたら治癒出来るかもしれません!」
「ほ、本当かよ? 姫子ちゃん!」
軍司は喜び勇んで詰め寄り、姫子は一歩下がると白夜を見たか。
「た、たぶん…………水の力は癒しの効果もきっとあるはずです。ね? 白夜!」
白夜はニコリと笑うと軽く頷いた。
前後することになるが、全員が感じたことがあった。
姫子は白夜との邂逅を経て以前に増して可愛らしさが際立ち、まさに水も滴るいい女になっていたし、天狗に力を引き出されたまことは、更なる落ち着きと大人の雰囲気を漂わせ、スタイルの良さと相まって美しい女性となっていた。
「よかったなぁ茜! こいつ怪我してからずっと落ち込んでてさぁ…………どう接したらいーかわかんなくってさ!」
軍司はホッとしたように言った。
「そうね、私も心配してたのよ……姫ちゃん、頼める?」
「もちろんです! 茜さん、ちょっと足を見せて下さい」
そう言って姫子が近付いた時、茜は涙目になって睨むような目で姫子を見た。
「ほっといて! 自分の事は自分で何とかするから!」
普段は優しく礼儀正しい茜の豹変ぶりにそこにいた全員が驚いた。
「な、なに怒ってんだよ茜! せっかく姫子ちゃんが心配して治してくれるっつってんのに!」
軍司は少し怒気を含んだ口調で茜を責めた。しかし一段と怒りが増した茜は無言で壁に寄り掛かりながら足を引きずって当てがわれた自分の部屋に戻っていった。
「大町殿はどうされたのじゃ? いつもと全然違うではないか!」
「昨夜の夕餉の席でも暗くうつむいておりましたなぁ」
柿崎と小島は突然の茜の変貌ぶりに首を傾げた。
「あ、あっしが行きますだ! あっしは山吉様にこの方々のお世話を仰せつかってますすけん!」
意を決して助さんはそう言うと茜を追い掛けた。
軍司は深い溜め息を付くと皆を順番に見回すと吐き出すように言った。
「実は俺らが飛ばされた先で天馬の祠ってのがあって、なんか手懸かりがないか調べたんすよ。一瞬白夜さんの時みたく何かを感じた瞬間もあったんすけど、それっきりで結局なんの成果もないまま、ここに戻って来たんすよ。会長も姫子ちゃんも力を手に入れたし、神様を集めたわけだし。焦りもゼッテーあるんじゃねーかなぁと…………」
「天馬? 五柱神の一人なのかな?」
「わかんないっす。けど足の怪我もなんかトラウマみたいなのがあるみたいで、それに加えて手懸かりを得られなかったっつーのが落ち込む原因だと思うんすけどねぇ…………」
「おい小島、虎と馬で落ち込むとはどういうことだぁ?」
「拙者に分かる訳ないでしょう! 虎は強くて馬は弱いから怪我をしたということじゃろうか? 時々不明な言葉を言いますからなぁ」
「白夜、どう思う?」
姫子に聞かれた白夜は考える素振りを見せると私見を述べたか。
「この災いを鎮める神の一人で間違いないとは思います。ですが会えなかったのは、おそらく茜さんの心に迷いが生じていたからでしょう。普段、人々と交わらない私達神族は迷いや暗い気質を酷く嫌うのです。ですから茜さんが自分自身でその虎とか馬とかの迷いを絶ち切り、平常心で向き合えたなら必ずそれに答えてくれる筈ですが……」
「茜個人の問題って訳か…………トラウマね。白夜さん」
軍司は悔しそうに歯を食い縛ったが、白夜への突っ込みも忘れてはいなかった。
「大丈夫よ、茜ちゃんは芯がしっかりした子だもの……」
「こんな時、咲良さんが居てくれればきっと茜さんも元気が出るんでしょうけど………」
そして茜は。
「誰っ!?」
「あっあっ…………助作でさぁ。」
「何か用?」
「あっいや。困ったことがあったら何でもいうてくれ。廊下に控えておりますすけ、あっしは山吉様に世話係に任命されたんだすけに!」
「…………。ごめんね。ありがとう」
「気にせんでくれし……」
「私って嫌な女よね。本当なら力を得て神様を見つけて来たメンバーと一緒に喜ぶのが当たり前なのに…………焦ってばっかりで苛々してばかりで逆にみんなに迷惑かけて…………」
「めん、めんば? いんでねぇか、誰だって人に当たっちまうことだってあるべさ。オラだってしょっちゅう格さんと喧嘩しとるすけん! けんどちゃんと最後は仲直りすんべぇよぉ? 自分が悪いと思ったらしっかり謝るもんだ」
「わかってる…………助さんは優しいね」
頭では分かっていても行動できない茜は、部屋の片隅で踞って悶々と悩み苦しむのだった。
次回 23、龍にまたがる少女




