第二章 20、それぞれ ~咲良~ 龍の背中は固くって、友達以上は恥ずかしくって
それぞれが飛ばされた先で新たな展開を見せていた。
姫子は大蛇=白夜と知り、長年の想いを告白し選ばれし巫女の水の力を開放し得た。
まことも天狗に助けてもらい、風の力を引き出すことに成功し、栞菜もまた気狐らしき女性との出会いにより、鍛冶ガールのお揃いの服を仕上げ、成長の発端を見せた。
唯一、茜だけは足首の負傷に狼狽え、気弱になったことで天馬からのテレパシーは受けたまのの、それ以上の成果を得られないままでいた。
それぞれが自身の運命に翻弄されながらも懸命に立ち向かっていた中、咲良は。
(かったいなぁ……寝心地悪いなぁ。むにゃむにゃ)
何かに抱き付くように咲良は眠っていた。
それは鋼鉄のような固さで寝られたものではなかった。
しかし咲良は寝る。
ゆったりと空中を泳ぐように進むそれは巨大で圧倒的であった。
(ん? この匂いは…………どこかで嗅いだことあるなぁ)
微かな意識の中で、知っている匂いを嗅いだ気がしたが、疲れていた咲良は深い眠りに没入していくのだった。
「起きんかぁー!!」
とある家屋の一室で、突然の怒声にビックリして起きた咲良は錯乱して辺りをキョロキョロと所在なげに見渡したか。
「あれ? あれれ? ガッコ、学校行かなくっちゃ。着替えなきゃだ……あっもう制服か。ボロボロだけど、まぁいっか」
土やら埃にまみれたワイシャツに、千切れたり穴が開いたスカートそのままで眼を擦りながら、どこぞへ出掛けようとする咲良を見て影虎はまたもや怒声を上げた。
「目を覚まさんかっ」
「まぁまぁ。お待ち下され、守護代様」
そう言うと傍らに座っていた老爺が皺のある右手をかざした。気を溜めた右手はうっすらと光り、その気を咲良へ向けて放った。
それを受けた咲良は一瞬しびれたようにビクッとしたが、寝ぼけていた両目は見開き意識を完全に取り戻した。
「ん? ん!? あれ? ここは!?」
「やっと起きたかっ! この大うつけが!」
酷いセリフを吐いた影虎であったが、顔には安堵の表情を浮かべていた。
「ここはワシの家じゃ。そなた丸二日も寝ておったのじゃぞ。初めこそ心配な顔をなさっておった守護代様もついには呆れ果ててのぉ……それで先程の雷が落ちたっちゅうわけじゃ」
事情を説明する老爺をまじまじと見ていた咲良は首を傾げ、腕を組んで胡座をかいて考え始めた。
「どっかで見たことがあるような、ないような…………」
安堵していた影虎はひとまずは無事意識を取り戻した咲良の自由にさせることにした。
性急な影虎にとっては珍しいことである。
「うぅ~ん…………わっかんない! わかりそうなんだけど、わっかんない! 爺ちゃん誰!?」
「名を聞けばわかるじゃろうよ。ワシの名は巌鉄斉じゃ」
「…………ん? それってまことさんの爺ちゃんの名前だよ! って、あー!! そっくし、まことさんの爺ちゃんにそっくりなんだ!!」
謎が解けたような爽快感を露にした咲良は四つん這いに身を乗り出した。
引き千切れたスカートからチラッと覗かせる際どい太ももに影虎は赤面する。
「はっはっは! 面白い小娘じゃ。左様、ワシは初代・巌鉄斉じゃ。そなたらを首をなごぉして待っておったぞ」
「初代さんか! そういえばあたし達、こっちに来たら真っ先に会いに行く予定だったんだ…………ごめんね爺ちゃん。影虎君に唆されて先に大蛇さんのとこへ行っちゃったの」
「なっ、唆されたとはなんじゃ! そなたらとワシは鍛長同盟を組み、合意の上で参ったではないか!」
「え~そうだったかなぁ~」
咲良は上目遣いで影虎を見た。
「まぁおぬしらを守りながらの行軍は面倒くさかったがなぁ」
「なっ、なによ! あの変な敵が仕掛けて来るって知ってながら教えなかったのも悪いよ!」
云々と終わりなき口論は続いた。2人は言い合ってはいるが心地よい表情をしている。
そんな小気味良い言葉の応酬に巌鉄斉は顔を和ませて聞き入っていた。
(まるで心が通じ合っているかのようじゃの、この二人は)
そう心の中で感じた巌鉄斉はニヤニヤしながら、そんな2人にボソッと呟いた。
「二人は互いに想い人かの?」
急な振りに咲良と影虎は顔を紅潮させて狼狽えた。
「じっ、爺ちゃん、あたしはこう見えてもロマンチストなのよぉ! 誰がこんな戦臭い人を…………」
「ろまんちえすと? フン! ワシがこのようなたわけ者に思慕するわけがなか、なかろう!!」
否定したが影虎は歯切れが悪かった。
(これは意外じゃな。てっきり娘っ子の方が慕っているのかと思いきや守護代殿の方がより強く想っておるようじゃ)
しかし巌鉄斉の質問は今まで深く考えてこなかった咲良に恋というものをハッキリと意識させた。咲良は急にドギマギすると影虎をチラッと見ては頬を染めた。
「相性は抜群といったところかいの…………そなたらが遅参して来る事を内心では腹立たしく思っておったが、なんのなんの、しっかりとそれぞれが惹き付けおうて結構結構!」
咲良はまたぞろ取り乱して何か言おうとしたが、そんな咲良の頬を大きな手の平で遮った影虎は巌鉄斉に逆に質問した。
「巌鉄斉、ワシは気が付いた時にはもうこの家にいて咲良が横たわっておった。…………実はそれ以前のことがまるで思い出せんのだ。ワシらはどうやってここへ来たのであったか?」
それを聞いた咲良は驚き、巌鉄斉を見た。
「左様か、守護代様は覚えてはおられぬか。そなた様は変化して参ったのじゃが」
おかしな答えに今度は咲良が質問した。
「変化って何に化けてたの?? 狸みたい! ぷぷっ」
「なんじゃとっ! たわけは黙っとれ!」
「まぁまぁ。そなた様は威風堂々たる豪壮な龍に変化して空を泳いで来たのですじゃ。咲どのはその背中にへばりつくようにして眠っておった。ワシの所へ来たらの、元のお姿に戻られ意識を無くされた。とそういう訳じゃ」
「わ、ワシが龍じゃと!? そのようなことがあろうか…………」
影虎は明かされた真実に深く沈思し始め、咲良も驚きを禁じ得なかったのだが不意に考えを巡らすとこう言った。
「そういえば夢の中なのか固い床で寝ていたような気がする! あれ床じゃなくって龍の背中だったわけー? 言われてみれば鉄みたいにガッチガチで…………だけどなんか妙に慣れ親しんだ匂いだった!」
咲良はそう言うとまた四つん這いで影虎に迫り、顔やら身体をクンクンと嗅ぎ出した。
「な、何をする! この不埒な娘め!」
そう言うとまたしても大きな手のひらで咲良の頭を押さえ付けた。押さえ付けられた咲良も負けじと影虎の頬っぺたを細い腕で押した。
「なにすんのよぉ! 影虎の匂いは固い床と同じ匂いだったよ! ってことは影虎は龍に変身してたってことね。これ間っ違いないっ!」
押さえ付けられながらも咲良は勝手に府に落ちた。
納得出来たのか出来ないのか、影虎は更に質問を繰り返した。
「では何故ワシらはそなたの家に辿り着いたのか!」
「ほっほっほっ。種明かしをしようかのぉ」
と、嘲笑った巌鉄斉はある物の方へ目を向けた。
取っ組み合ったままの咲良と影虎はその視線を追い掛け、その先にある物に見入っていくのであった。
次回 21、炎神・恋した龍は滅法強いわけですな!




