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第二章 19、瑞神・大蛇に恋い焦がれてます!

通い馴れた獣道を黙々と歩く姫子。

分館まで一気に踏破(とうは)すると前回と同じく休憩を取った。母・葵が持たせてくれたおにぎりを食べながら鍛冶ガールの面々、山吉や長尾の武将連、助さん格さんそして何よりこれから会おうとしている大蛇・白夜のことに想いを馳せる。



白夜と呼ばれた青年と会わなくなってから数年が経ていた。その間に姫子は芽が出て、葉をたけると茎を伸ばし、(つぼみ)をつけるように少しずつ成長していき、今は花が開いたかのように可愛らしく成長していた。

心もまた大人への階段を登り始め、身体もしっかりと発育していた。


丸みを帯びた胸元でそれを表現するならば、まことが爛漫(らんまん)と咲き誇る牡丹(ぼたん)で、茜が端正(たんせい)なダリア、姫子が可憐(かれん)なアマリリスといったところであろうか。



ともかく(いちじる)しい成長を遂げた姫子はその強い意思を持って再度雨生ヶ池(まごいがいけ)目指して出発した。

途中そろそろ終わりの時期を迎えるサギスゲをむしり、その綿毛を飛ばしたりしながら進む。


辿(たど)り付いた池はいつもと変わらず静かで、たまに聞こえるのはヤマセミだろうか、小鳥のさえずりくらいだ。姫子は息つく暇もなくいつもの拝礼の場へ行った。

そこは大蛇との交信を決まってしていた所であり、一行と共に大蛇と会った場所だ。

そこで手を合わせ祈りを捧げる。

するとポツンポツンと雫の滴りと共に澄んだ声が耳許で(ささや)いた。


(よく無事でいてくれたね)

(大蛇様なの? それとも白夜様!?)



目を開けた姫子は池の中心部を見詰めた。

鮮やかな(まばゆ)い光が水中から湖面へと登り、空中に大きな水柱が立つ。

立ち上る水柱が中心で真っ二つに割れ、その中央に水縹(みはなだ)の霊気をまとった大蛇が現れた。

姫子には全てが無音で、そしてスローモーションのように思えた。

姿を現した大蛇はすぐに青白い光に包まれ、形を変えながら小さくなっていき、最後に人の形となった。

包んでいた光が蛍のように散り散りに離れていき、姫子が恋い焦がれた人の姿がそこにはあった。


「白夜様っ!」


姫子は叫びながら緩い湖面に足首まで浸かってにじり寄るとそう叫んだ。

白夜はピチャピチャピチャと無音に近い静かな足音で湖面を歩いて姫子に近付くと涼やかな笑顔を見せた。


「こうして会うのは久しぶりだね。姫子」


白夜はそう言うと、そっと姫子を優しく抱き締める。逆に姫子は強く激しくその華奢(きゃしゃ)な背中に腕を回し、力の限り抱き付いた。頬には輝く宝石のような雫が垂れていた。


「白夜様、姫子は白夜様をお(した)いしていました!」


それは率直であり、他に話したいことも聞きたいことも沢山あったであろうが、今の姫子にはその一言が全てであった。


「僕も大好きだよ」


甘くとろけるような長セリフも、値の張る贈り物もなく、ただただ単純で、それでいてお互いの心に染み渡る。そんな短い言葉の一往復だった。



幼少のみぎり山中で怪我をして立ち往生していた姫子を介抱したのが白夜だった。それから運命の出会いのように姫子は白夜に恋慕(れんぼ)し、白夜も禁忌(きんき)とされていた神と人との交わりの(おきて)を破って、素直で思いやりのある姫子に惹かれ逢瀬(おうせ)を重ねた。



数年を経て久しぶりに再会した白夜は、淡い紺色の小袖姿でスラッとしていた。青がかった黒い髪は長く、癖がなく(つや)やかだった。そして透き通るような青白い肌と水縹の瞳が幻想的で、まるで御伽噺(おとぎばなし)の登場人物であった。


そんな白夜は桃色の整った姫子の頭を撫でながら頬を当て、姫子は白夜の胸に顔を(うず)めて、互いの温もりを確かめ合うかのようにいつまでも抱き締め合った。



しばらくして落ち着いた2人は、池から雨生(まごい)神社に場所を移し、小さい社の境内に腰を落ち着けると様々な話をした。大体は姫子が話し、白夜が聞くといった感じであった。


姫子は未来から来た鍛冶ガールの面々の話を楽しそうにし、白夜はそれぞれの人物像を知った。

そして最後に咲良が引き出した不思議な力のくだりを聞いた時には、白夜は柔らかな顔は真剣な表情になり、姫子と黒鐵(くろがね)とイヤリングを見た。


「姫子も力を引き出さないといけないね」

「うん………だけどどうやったら咲良さんのように自分の力を発揮出来るのかな…………」


確信に迫った話題は重要であり、避けては通れない道でもある。


「姫子は未来へ行って何を感じた?」


急で的外れに思われた白夜の質問に姫子は苦笑して答えた。


「えーっと……天文とは全然違って色々便利になってたし、豊かでした。みんな笑顔で幸せそうで温かかった!」


姫子は咲良達以外の人々との出会いも思い出していた。

十七代・巌鉄斉、その孫にしてまことの兄・柊一、権爺(ごんじい)や萬屋・スーさん。

みんな過去から来た自分と山吉を信じて協力してくれた温かな人達。



「姫子は()のこの世界だけじゃなくて()()のこの世界も守りたいんだろ?」


白夜にそう言われて姫子はハッとした。


(確かにそうだ! 今の世界の災いを食い止めて元の暮らしに戻すってことは未来の営みも守るってことなんだよね!)


大きく(うなず)いた姫子は急に立ち上がると黒鐵を握り締め、意識を集中させた。


「未来の平和で穏やかな人達の笑顔を! そして家族や郷の直向きに生きる人達の生活を守りたい! 黒鐵! 姫子に力をお与え下さい! せっかく出来た素晴らしい友達と絶対に困難を乗り越えたいの!」



純粋な聖女に答えるように黒鐵は水色に発光し始めると、無数の水玉の光を作り、姫子を包み込んだ。そして水の霊気を身にまとった姫子の瞳は水縹色に変わった。

呼応するかのように白夜も水縹の霊気を身にまとい、お互いの力は共鳴した。


「こ、これが()()()秘めたる力なの? 凄い! 心が洗われるように澄み切っていく! 心地いい水の流れを感じる!」


2人は大きくも淀みなく揺蕩(たゆた)うように心を一つに重ね、シンクロしていった。

(みなぎ)る力はゆっくりと凝縮されると姫子の胸の中に静かに消えた。


「姫子の意思の強さに()()()が答えた! これで姫子と心を一つにして立ち向かえる」


笑顔でニッコリ笑った白夜が少し子供っぽく見えた。


「そうだね! そうなんだね!」


と、明るく微笑むと白夜の手を握り神社を囲むブナの大木を見上げるのだった。

巫女の力を手に入れた姫子はみんなを探すために一旦三条城へ戻りたいと白夜に訴えた。もちろん異論のない白夜は助言してくれた。


「ここからだとかなりの距離がある。()に乗って行こうか」


白夜の提案に、小首を傾げた姫子は問い掛けた。


「水に乗って? どうやって?」

「頭の中で想像してごらん。姫子はもう水の力を使えるんだから」


言われた姫子は目を閉じると、自分達が波に乗るイメージを描いた。するとどうだ、瞬時に大粒の水玉が周りを埋め付くし、それは小波(さざなみ)のような絨毯(じゅうたん)に変化した。


「こ、これ姫子が出したの?」

「そうだよ。心と頭で強く想像することで初めて具現化するんだ。力を得た君はなんだって出来るようになったんだよ」

「うん! じゃ行こう、白夜!」



2人は水の絨毯に乗り込むと姫子が心で念じて操作し、遥かブナの大木の頭上まで上昇すると、三条城目掛けて出発するのであった。



 次回 20、それぞれ ~咲良~ 龍の背中は固くって、友達以上は恥ずかしくって

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