第二章 17、翠神・天狗はまことを気に入りまして!
地上に降り立つとまことはワナワナと震え膝を着いて安堵した。
宮天狗と呼ばれた妖怪なのか神様なのかわからない天狗は、まことが知っている現代の天狗とは違い高下駄で難なく歩いてみせ、境内に腰を下ろすとどこから出したのか銀細工が施された煙管に刻み煙草を詰めると器用に火打石で火をつけ、旨そうに一服した。
まことは周囲を見渡すと境内周辺は殺風景に見えたが口には出さず、天狗をジッと見詰めた。
そんな視線を感じてか一服を終えると天狗は静かに語り出した。
「先程も言うた通り、大体の事情は巌鉄斉の爺から聞いておる。そなたら神さんの協力が必要とか?」
「そ、そうなんです! 雨生ヶ池の大蛇さんが協力してくれるということになったのですが……ですが私達を守るために大蛇さんが不思議な力で全員を池から逃がしてくれたんです」
じっとして聞いていた天狗は腕を組んむとボソボソと呟く。
「なる程の。あの蒼大蛇がのぉ。ワシらもバラバラで行動しても太刀打ちできる相手ではないてか………」
「………天狗さん! 天狗さんは神様のお知り合いはいませんか?」
まことは天狗を妖怪と思ってそう言った。
「これこれ娘っこ、何故ワシに合力を頼まぬのだ?」
「えっ? だって天狗さんは妖怪なんじゃ?」
「むっ! ふぉっふぉっふぉっ! そうかワシは妖怪か?! はぁっはっはっはーー!」
急に腹を抱えて笑う天狗を見てまことは目が点になった。
「娘よ、これを見よ」
そう言って天狗は立ち上がると、不意に緑のオーラを漲らせた。それは大蛇の時と同じように神々しいばかりに眩しく、妖気ではなく紛れもない聖なる霊気であった。
「この光は………天狗さんは神様なのですか!?」
「神さんといっても様々じゃよ。まぁ端くれと思ってくれて構わぬがな。しかし流石は神に選ばれし巫女といったところか。少し力を解放しただけで理解しおった。実に賢しい娘じゃ。そなたが未来から来た巫女達の筆頭じゃな?」
天狗は賢いまことを気に入ったのか、急に饒舌になるとそう言ったが、まことはあくまでも自分は鍛冶ガールと名乗った団体の一員であると答えた。
「なんじゃと!? お主のような明敏な者が頭ではないてか!? むむぅ…………」
予想が外れた天狗は唸ったり、まことは遠慮がちながらも質問をしてみる。
「あ、あのぉ…………天狗さん。天狗さんは初代・巌鉄斉様とお知り合いなんですか?」
「ん? んむ。昔っからのな。まぁ悪友じゃよ。ざっとそなたらのことも聞いておる!」
「では私が十七代目・巌鉄斉の孫であることも?」
「な、なんじゃと!? …………そうか! そなたから感じた秘めたる力は巌鉄爺の子孫でもあったからか! なる程なるほど。しかし少しも似とらんの」
天狗は勝手に合点がいくと勝手な事を述べたか。
(変わった神様もいたものね……)
「初代様から大筋の話を聞いている天狗さんは私達に力を貸して下さるのですか?」
「ワシもな、なんとかこの異変を鎮めようと何度か試みたのよ。フフフ、ワシもこの地に土着しておる神の端くれじゃからの。しかし、なんともならん! ワシらのような末端の神ではな。そんな時に悪友である巌鉄爺がそなたらのことを教えてくれたのよ! 待っておったぞ! そなたがワシの相棒か!」
ことの頭脳は目まぐるしく回転していた。そして最後の一言が気にかかった。
「相棒とはどういう意味ですか!?」
もう一服始めていた天狗はまことに向き直ると顔を引き締めた。
「そなたにも力を解放してもらわねばな」
まことは咲良が出した聖なる盾のことを思い出していた。
一連の流れからその事をゆっくり考える暇がなかったが、解放という言葉がそれを思い出させた。
「もしかして巨大な赤い盾のようなものですか??」
と、まことは訊ねた。
「盾? ほう…………そのような形で現れたか。しかし赤とはそなたではあるまい? そなたは緑じゃろうが!」
(?? それってもしかして黒鐵の輝きのこと?! …………そうか! 咲良ちゃんはイヤリング赤く見えるって言ってたんだ! ということは……)
「じゃあ私は緑の力を秘めていると…………?」
「飲み込みが早うて助かるわい。そうじゃ、そなたは緑。つまり風の力を持つ巫女じゃ!」
「でもどうして天狗さんは私が緑だとわかったんですか?!」
口で笑った天狗は、大きな鼻をヒクヒクさせて答える。
「それはなぁ、そなたの持つその手鎚と耳に付けとる飾りがワシには翠緑に輝いて見えるからじゃ。つまりそなたとワシは一心同体となり災いに立ち向かう。と、そういう寸法じゃ」
(そんな裏設定みたいなものがあったなんて! ただ単に大地を鎮める為に使うものではなくって、言わば協力し合う者通しを惹き付けあうセンサーみたいな働きもするってことね!? 便利だわ! 実に便利じゃない!!)
心の中で感嘆するまことはさながらネオ栞菜のように咆哮していた。
「どれ、早速だがそなたの力を引き出そうぞ!」
そう言った天狗は先程と同じように翠色のオーラを解放し始めた。すると黒鐵と火花のイヤリングもそれに共鳴するように輝きを増す。
そして二人は心地よい微風に包まれ始めた。
まことは取り乱しそうな自分を必死に奮い立たせ天狗に問う。
「で、でもどうやって…………」
「願えっ! 念じろっ! 想えっ! 強く。強くなぁ。ただそれだけじゃ。そなたは何を願い、念じ、何を想うか!」
激しい呼び掛けにまことは困惑したが、咲良はどうだったかを思い返してみた。咲良は仲間を守る為に自然と自分の力を引き出していた。
鍛冶ガールのメンバーは全員が同じ意志を持ち、同じ目的の為に結集した仲間だ。
(私だって想いは同じよ! 平和を願い、災いが鎮まるように念じ、仲間を想う! 強く、強く!!)
まことの想念が黒鐵とシンクロしたかのように、翠緑の眩い光がまことを包み込む。そして黒鐵は浅緑に煌々と光り始めた。
「ウム。単純ではあるが明瞭じゃ! それでよいのじゃ。この広い世界、人間がどれだけ栄えようと広大な流れの一つに過ぎぬ。それをよく理解し、森羅万象全ての生命に報謝し、慈愛を持って接するのじゃ! さすればおのずとその力はそなたらを助けてくれる! 忘れるでないぞ!」
「はいっ!こ、これが私の力なの?! 凄く温かくって、なんて快い風のような…………」
「その風の力を使えばなんでも出きる! そう信じるのじゃ。よいな、美しき巫女・まことよ」
天狗に秘めたる力を解放されたまことは、より一層大人びて、美しさも増したようだった。巫女として成長を遂げた証であろうか。
その後天狗に感謝し、まことは一旦三条城に戻ることにした。やはりみんなが心配であったし、落ち合うとしたらやはり三条城しか考えられなかったからだ。
「ほっほっほっ。ほんに見処のある娘じゃそなたは! 城に行くのなら大した距離ではあるまい。どうじゃな? 早速風の力を使ってみては」
「えっ? でもどうやって…………」
「先程おぬしは引き出したではないか。念じてみぃ」
まことは言われるがまま心で念じてみる。
(風よ、集まれ。そして運べ。私を三条城にっ!)
柔らかい風がまことを包むとフワリと宙に浮いた。
まことはフワフワと風になびくスカートを押さえながら天狗に挨拶すると、まるで眷族にでも命令するかのように風に語りかけた。
「す、凄い!! 私、風に乗ってるわ! よし、風よ運べ! 三条城に!」
まことは風と一体となり城を目掛けて飛んで行くのであった。
次回 18、それぞれ ~姫子~ 娘の涙と母の涙と




