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第二章 14、それぞれ ~栞奈~ かりそめの裁縫致します!

現在の魚沼(うおぬま)市と三条市との間に(そび)える烏帽子岳(えぼしだけ)を水源とする五十嵐(いからし)川は第一級の河川であり、信濃川の支流である。

清流は鮎・山女魚(やまめ)(かじか)などを(はぐく)み、秋口には鮭が遡上(そじょう)してくる。



その五十嵐川の途中、同心坂(どうしんざか)の丁度対岸付近にうっすらと炊煙(すいえん)が上がる掘っ建て小屋がある。

粗末な作りの小屋の中は狭い勝手場と八畳程の一室と小さな作業部屋しかなく、中央に囲炉裏(いろり)が切ってあり、一人の少女が寝かされていた。


髪を一つに縛り、地味だが品のある紫の小袖(こそで)を着たうら若い女性は昼餉(ひるげ)の支度を終えるとそっと囲炉裏に近付くと火をおこした。

灰に埋もれていた種火が再び燃え始めたのを確認すると、新たに(まき)()べた。

ある種の妖艶(ようえん)さを(かも)し出す女性は横たわる少女を穏やかに見詰めていた。


その女性は静かに部屋の奥に行くと文机(ふづくえ)周辺に並ぶ反物(たんもの)に目を向け何事か思案した。程なくその思案がまとまったのか針を通し始め、作業に没頭。

どれくらいの時間が流れただろうか、横たわる少女が気怠(けだる)そうに起き上がって周囲を見渡したか。

衣服はボロボロであったが、大した外傷はないようだ。


「気分はどう? 川の(ほとり)で倒れているのを見つけてね、家まで背負って来たのよ」


見知らぬ女性に介抱されていたことに気付いた少女は慌てた口調で話し出した。


「あ、あの……ありがとうございます! 私、五十嵐栞菜って言います。あのぉ私の他には誰も? お姉さんはいったい…………」

「私の名前は千恵、残念ながらあなたしか見つけることは出来なかったわ。丸一日も寝ていたのよ。それにあなたの周りに落ちていた物も拾っておいたわ」


そう言われて大福帳、通称・栞菜メモや眼鏡、それに腰袋に黒鐵と一式整然と置かれていることに気付いた。


「何から何まで…………」

「お腹空いたでしょう? 今雑炊でも(こしら)えましょうね」



ニコッと笑うと勝手場へ向かい支度を始めた。その背中がやけに(はかな)げに栞菜には映った。

手際よく作り、よそってくれた雑炊を栞菜は受け取ると一口ひとくち味わいながら食べ、途中何度か千恵と名乗った落ち着いた雰囲気の美しい女性を見ては礼を述べた。

千恵は黙り込むと、雑炊を口に運ぶ栞菜を見守りながらも、黒鐵に視線を落とした。


「その手鎚。不思議な力を感じるわね。どこで手に入れたの? それにその格好。あなたはどこから来たの?」


静かな問いに箸を休めた栞菜は、事の経緯を語り聞かせた。千恵は目を閉じ耳を傾けていたが話が終わると栞菜に目を向け、白湯(さゆ)を与えた。

栞菜は(いぶか)しがった。自分の語りに当然驚くであろうと思っていたが、千恵は特段驚いた風ではないし、むしろ更に静かに冷静であるかに見えたからだ。


不意に部屋に丸い(もや)っとしたものがゆらゆらと揺れていた。千恵は危険な妖怪ではないと栞菜に教え、妖怪に語りかけた。


「今ね栞菜さんとお話しているの。また後でね」


優しく言うと丸い靄は糸を引くように外に出ていった。


「妖怪と仲良く会話………千恵さんこそ一体…………」

「ウフ、話は大体わかったわ。あなた達はとても勇気があってそして心優しいのね。あなたのお仲間もその格好をしているの?」


と、ボロボロの制服に視線を移した。


「はい。やっぱりこの時代では珍しいみたいで男の人達はみんな私達の脚をジロジロみるんですよ!」


怒り顔をして栞菜は天文セクハラを訴えた。

おかしそうに顔を緩めた千恵は、自身の作業場に視線を向けるとこう言った。


「わかったわ。人助けに来たのに被害を受けては堪らないものね。私があなた達の着物を仕立ててあげるわ。一人ひとりの背丈や体型を教えてくれる?」

「えっ? 千恵さんそんなこと出来るんですか!?」

「えぇ勿論(もちろん)。これが私の生業(なりわい)ですもの。これで生計(たつき)を立てているのよ」


服飾の勉強をしている栞菜が興奮したのはいうまでもない。そしてそれは同時にネオ栞菜降臨ということになるか。


「本当ですか!? なら私も手伝います! 私、被服の勉強をしてるんです!」

「あらそうなの? それは丁度いいわね。じゃあ栞菜さんにも手伝ってもらおうかしら」


張り切った栞菜は眼鏡を掛け、千恵の作業場を見てワクワクした。千恵は食後の後片付けを早々に済ますと興奮する栞菜を見て笑い、自身の作業場へ(いざな)い、会ったその日に意気投合する栞菜と千恵なのであった。



次回 15、耀神・気狐は気高く慈愛に満ちて



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