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第二章 12、それぞれ ~茜・軍司~ 祠はペガサス幻想!

 木漏れ日が射していた。小高い山の裾野(すその)の日陰に横たわる少女が一人。腕やら足には擦り傷や軽い打撲によって(あざ)が少し出来ていた。そして着ている制服もボロボロになっていた。

 木漏れ日の(まぶ)しさに意識を取り戻す少女。体中が痛く、気だるい。

 うっすらと眼を開け、これまでの事を思い出そうとする。



(令和から天文へ……そして今まで経験したことのない危険な思いをしてついに辿り着いた先で、大っきな大蛇と出会ったんだったよね…………)


 回想する中、消え行く意識の中で動揺した咲良が最後に何か叫んだ気がした。


(咲良……咲良! そうだわ、私達は大蛇様に吹き飛ばされて…………)



 かばっと起き上がった茜は激痛に顔面を(ゆが)めた。身体のそこここが痛かったのだが、特に右足首から激痛が脳を刺激する。

 見ると赤く腫れ上がり、かなりの熱を持っていたか。

 茜は右足首を(さす)ながら不意に昔の事を思い返した。



 中学二年生の夏の大会、茜は高跳びの選手として期待されていた。自分自身才能があると信じて疑わず、熱心に練習にも取り組んだ。その自信がいつしか過信に変わっていたことに当時は気付いていなかった。


 そんな茜を本気で応援していたのが咲良だった。

 咲良は応援する傍ら、いつも茜を注意していた。まるで茜の慢心を察していたかのように。

 応援はありがたかったが、咲良から注意を受けると決まって苛立(いらだ)ちを覚えたものだ。


「私は誰よりも練習してきたし、絶対優勝してみせるわ!」

「だからさぁ練習を頑張ってるのはわかってるよ! けど誰よりもーとかはよくないよ! 誰だって一生懸命やってるんだし」


 こんなやり取りをいつもしていた。


 そして目標としていた大会当日、茜の慢心は最悪な結果を招いた。溢れる自信と、これまでにないベストコンディションに一番大事なストレッチを御座形(おざなり)にして競技に挑んでしまったのだ。

 踏み込み時に右足首を(ひね)ってしまい、そのまま棄権することとなる。


 咲良が事あるごとに言っていた意味がようやく茜にも分かったような気がした。過信と慢心、それはこれまでの茜の全てを否定した。

 怪我をした茜に駆け寄り、愁眉(しゅうび)を開いた咲良を見た瞬間、言い表せない怒りが爆発し咲良を拒否してしまった。



(私は努力したのに………いつも応援してくれる咲良の為にも…………なのに咲良に心配されっぱなしじゃない…………)


 怒りの矛先が咲良へ向いたり自分自身へ向いたりしていた。


 それから茜が出した結論は競技を辞めることだった。人に心配を掛けてまで結果は欲しくないと感じたからだ。その時にもっと咲良の言っている事に耳を傾け、脳裏で咀嚼(そしゃく)出来ていたならば、もっと違う答えが出せたかもしれない。


 若さは時に誤った道へ進ませるものなのか。


 そんな事をふと思い出していた茜に、遠くから大きな声で走り寄ってくる人影が見えた。


「はぁはぁはぁ…………やっと気が付いたか、茜! ケガとかはないか? 見たとこ擦り傷とか打撲だけだけど、平気か?」


 心配して駆け寄る者はクラスメートの軍司であった。その彼もまたもボロボロだった。学ランを脱ぎ捨てワイシャツ1枚にズボンにスニーカー。どれも泥で汚れていた。


「私は大丈夫、軍司も制服以外は大した事ないみたいね! 良かった! けどここはどこだろう?」


 軍司はやっとの思いで汲んできた水を茜に渡すと周辺を調べてきたと話し始めた。


「どうやらここらは如法寺(にょほうじ)の辺りらしいぜ! ちょっと行くと寺があったぜ」

「そっか。随分と飛ばされたんだね………」

「あぁ。改めて大蛇の力を思い知ったって感じだよな。何にせよだ。取りあえず寺で汚れを落とさせてもらうか?」

「うん…………」



 茜は返事はしたが一向に動き出そうとしない。軍司は怪訝(けげん)そうな顔付きで更に話し掛ける。


「どうした? なんか元気ねぇぞ? どこか具合わりーのかよ?」

「あ、いや……別に平気だよ。じゃそろそろ行こっか」


 と、立ち上がりかけた茜は足首の激痛に(こら)えきれず尻餅をついてしまった。 


「やっぱりどっかケガしてんじゃねーか! 足か? おいおいかなり腫れてんぞ! こりゃ歩けねぇだろ?」


 軍司はそう言うと背中を向けしゃがんだ。


「ほら! 乗れよ」


 落ち込む茜はコクンと頷くと、しおらしくも素直に軍司の背中の人となった。


 軍司は茜をおぶったことにより、茜の太ももの弾力と体温を感じ、内心ドキドキしながらも今後について色々と話し始める。


「と、取りあえず寺で汚れを落とさしてもらってからどうすっかなぁ。また馬でも借りて三条城に戻ってみっか!?」

「そうだね。私も足を早く治さなくっちゃ。これじゃ役立たずだもんね」


 軍司はシュンとする茜をおぶりながら、この落ち込みようはケガだけの問題じゃなさそうだと感じた。

 2人は如法寺で汚れを取り、茜の足を冷やしながら寺の和尚さんの話を聞いていた。

 何でもこの寺の奥には天馬を(まつ)る古い(ほこら)があり、太古の昔より天馬を(あが)める土地柄なんだとか。



「おい茜、この時代はその土地ごとに神様みたいなのを祀ったり信仰したりしてるみてーだな! どうする? その祠とやらに行ってみるか? 大した距離じゃなさそうだしよ!」


 軍司は茜を気にしてか、いつもに増して明るく振る舞い、五柱神(ごちゅうしん)について少しでも情報を得ようということで行ってみることにした。


「俺は栄町出身だからこの辺の事は全然わかんねぇけど、茜は地元に近いんだろ? なんか知ってることねーのかよ?」


 そう言われて茜は少し考え込み、不意にハッとして何かを思い出した。


「ペガサスだわ!」

「はぁ? ペガサス? 天馬な?!」

「違うわよ! 私と咲良が小学6年の頃、西鱈田(にしたらだ)小学校の3階の教室から見えたのよ! ペガサスが!」

「頭も打ったか?」


 と、軍司にとっては理解不能なことを述べ始めた茜に聞き返したが、茜はポカンと軍司の頭をゲンコツする。


「違うってば! 教室からこの如法寺の山がよく見えるのよ! それでね、秋頃になると山が紅葉して鮮明にペガサスのように染まったのが見えたのよ! 山におっきなペガサスの姿が見えたのよっ」


 目を細めて疑うように軍司が聞く。


「それってまたお前と咲良だけしか見えなかったとか?」

「違う! あの頃はクラス全員見えてたはずよ! そうだわ、あのペガサスはこの辺の山だったんだわ。私達は天馬山(ペガサスやま)って呼んでたっけ…………」


 いずれにせよ、少し元気を取り戻してきた茜にホッと安堵の表情をして、軍司は言った。


(いわ)く付きってか?! ならゼッテー行かねぇとな!」

「ごめんね、頼むわ! 軍司!」

「まっかせなさい! しっかり掴まれよっ」


 自分自身も相当疲れているにも関わらず、男・小滝軍司は(おも)(びと)の為に身体に(むち)打って、天馬の祠目指して茜を背負い歩き始めるのであった。


 次回 13、雷神・天馬は空を駆ける

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