第二章 5、登場! 戦国の軍神・長尾影虎!!
鍛冶ガール一行は小早船で対岸へ渡り、立派な造りの三条城を見上げていた。
昭和の初期には競馬場として栄え、平成に入りその歴史に幕を閉じることとなる。
現在の令和の時代においては防災ステーション・ミズベリング三条として遊興施設となっているのだが。
地方の城郭としてはなかなかなの敷地を有する三条城、上越は南に妙高山、東に米山から越後平野へ続く中継地としても栄える。江戸初期には徳川家康の六男・松平忠輝が高田へ移封(国替え)された際もやはり三条の地は江戸とをつなぐ中継地点であった。
そんな時代時代での要衝地であり、戦国時代には堅城があった場所に、今まさに令和の少女達が足を踏み入れようとしていた。
「あれ? ちょっと待って! なんかこの門、見たことない!?」
「確かに……見覚えがあるわね」
「オホンッ、これは私らが潜ってきた本成寺の黒門に違いないわ! 文献では山吉氏の邸宅からの移設だったとかなかったとか。とにかく見たまんま黒門よね」
栞菜スタイルがうんちく。
「そういうことじゃワシらも未来へ行った時には驚きっぱなしじゃったよ。のぉ姫子殿!」
「はい。ですがいちいち驚いていては先へは進めません!」
「おっ姫子ちゃん前向きじゃんか! 立派なもんだな。地元にこんな城が残ってたら、さぞかし観光名所になってたんだろうな!」
一行は門を潜り、番士に迎えられ大書院(客間)へ向かった。勝手知ったる山吉は皆を先導し、ずずいと進んでいく。
「なんかあんまり石垣ねーのな! 土壁みてーな?」
「よくぞ気付いたわ、チャンバラくん! 戦国時代は急拵えの城も多くあり、全国に万を数えるほどあったわけ。そのほとんどが土塁で固めたものだったのよ。立派な石垣やらはもっと先の時代になるとかならないとか!」
ここでも栞菜がうんちく。
広い中庭から大書院へ通って行くと、一人の男が片膝ついて地面に平伏していた。
「おぉこれは嵐蔵殿! 来ておられたのか!」
山吉は知り合いなのか気心しれた口調でその男に話掛けた。
「おぉこれは信濃守様! つい先程到着しましてな、守護代様にお目にかかっていたところです! んっ? 姫子………姫子じゃないか!」
嵐蔵と呼ばれた男は姫子を見つけると驚きと懐かしさがこもった温かい声音で姫子を見詰めた。
「お父さん!」
一同はビックリして双方を見比べてしまった。嵐蔵はヒョロリとした体型で、つり目にやけに高い鼻が印象的であった。
それとは対照的というか、小柄でクリッとした瞳に整った鼻筋の可愛らしい姫子は似てもにつかず、1つくらい似ている所を探そうとみんな努力はしたがついに見つからなかった。
「話は後じゃ。さぁみなこちらへ」
山吉の手招きに湿った土を踏み締めながら一同は大書院の内部が見える位置まで移動した。
「皆の衆、こちらが越後守護代・長尾景虎様じゃ」
長尾影虎。
言わずと知れた後の上杉謙信である。
栃尾城の戦いから数年。まだ子供らしさが残っていた容貌は凛々しく、端正な顔立ちからは漲るような気迫を感じさせた。小具足を付け、床几(折り畳み式の椅子)に腰を降ろした風情はまるで一枚の絵のように荘厳に見えた。
一同が歴史上の有名人との出会いに感動したり驚愕の表情を浮かべるなか、咲良がポツリと呟く。
「ながおかげとらって誰?」
一同一斉に驚き、咲良を見る。
「あんたどんだけバカなのよ! 新潟に住んでて上杉謙信を知らないなんて頭おかしいわよ!」
「そうだぞ咲良! 超がつく有名な戦国武将じゃねーか!」
「咲良ちゃん……流石にフォローできないわ…………」
「上杉謙信は知ってるもん! でもこの人はながおかげとらなんでしょっ!?」
咲良が文句を付ける。
「おっほん! そうよ、長尾影虎、後年の名を上杉謙信。けれど長尾影虎を知らないなんてただのバカよ! 越後を治めた義将、毘沙門天の化身と言われ、有名なエピソードとしては敵に塩を送ったとか送らなかったとか! それにしてもあぁ嬉しいわぁ! 遂に有名な戦国武将と出会えるなんて! しかも軍神・上杉謙信!! 昇天してしまいそうだわぁ」
栞菜スタイルからのネオ栞菜からの昇天をみてもなお、一同は影虎に釘付けである。
「これこれ御前であるぞ! 静かにさっしゃい!」
山吉の一喝で騒ぎは一段落した。山吉は泰然自若の影虎から言葉をもらおうと主君を仰ぎ見た。
「ふぅ~む。なかなか個性的な連中を連れてきたではないか山吉。見れば不思議な格好をしておるし、ワシのことも知っているようじゃな。そこのたわけた娘以外は」
煌々と光る双眸に好奇心に満ちた微笑を覗かせた影虎はそう言い、並ぶ美少女達を順番に見た。
やはり制服は目を引くのか。
「ちょっとぉ、たわけた娘って悪口っしょ!? 影虎くんダメだよぉ初めて会った人をいきなりけなしたら!」
咲良の言葉に一同凍りついたことは言うまでもない。
「こ、これ! 咲良どの! 無礼でござるぞ!」
全員が影虎の威風におののいているのに咲良だけはキョトンとし、馴れ馴れしい口をきく。
「フフンッ。まぁよい! その方らとは後でゆっくり話をしようぞ! その前に山吉、密談じゃ。人払いせよ!」
影虎は咲良の失言には拘らず山吉に厳命し、鍛冶ガール一行は離れ屋に通され、そこで姫子の父親との積もり積もった話をすることになった。
影虎と山吉は大蛇退治に関しての話であろうか、もっともそれを引き留めるつもりの山吉なのだが。
「ちょっとあんたビックリさせないでよ! なんでいきなりタメ口なわけ?」
「そうだぞ咲良! 無礼モノ! とか言われて手討ちにされっかと思ったぜ」
「まぁチャンバラくんも咲良ちゃんと似たり寄ったりだから気を付けてね」
「なにおう!」
「まぁまぁ。だけど流石に影虎さんには敬意をはらったほうがいいかもね。山吉さんは拘らない感じだったから私達もそこまで気にしてなかったけど」
「いやいや、ああ見えて守護代様は砕けたお方ゆえ、大丈夫と思いますぞ。余程の無礼をせぬ限りは!」
嵐蔵の助言に一同はまたぞろ咲良を凝視する。
「わかったよぉ! 無礼はいかん無礼はいかん! と……」
咲良は頭をポリポリ掻くと刷り込むように何度も言った。
戸が開け放たれた離れ屋には柔らかい風が通り、鶯がケキョとさえずり長閑な風情を漂わせている。
「とりあえずこれを飲みなせぇ」
「あっ助さん格さんいたんか!」
甲斐甲斐しくもさっそくお茶を運んで来た足軽2名に馴れ馴れしい軍司。すっかり助さん格さんが定着してしまった。一重に親しみ易いからであろう。
「ワシと格兵衛はおぬしらの世話係を仰せつかったすけん、なんでもいうてくれし」
そう言って前歯のない笑顔を向けたか。
やはり人がいい。
一同は一服つけると姿勢を正して正座。それぞれのボディラインがクッキリとし、聞き耳を立てるように姫子親子の会話に集中していくのであった。
次回 5、離れ屋の会話と大書院の会話と




