第一章 2、三条マルシェはフェスティバル!
「おぉ賑わってる賑わってる!」
咲良と茜は三条マルシェが行われている一ノ木戸商店街へやって来た。
飲食店舗やワークショップ、様々な店と店とが軒を連ねて続いている。
馴れないボランティアを終え、急に空腹感を覚えた2人は、それぞれが目を付けていたホットドックとたこ焼きを買うと、日陰のベンチでマルシェの風景を眺めながら食べ始めた。
団扇をあおぎながら、軽装の男性が甚兵衛姿の男の子を肩車し、その横を百合柄の浴衣を着た女性が可愛らしい浴衣を着た女の子の手を引き、もう一方の手につい先程すくったのであろうか、金魚の入った透明な袋を提げている。
中には3匹入っていた。
スレ違う小学生の集団は、色とりどりの水風船を片手に走り去って行ったし、商店街の歩道の日陰には、年配のおばあさん達がお茶しながら井戸端会議をしている。
そこここに置かれたパラソル付きのテーブルイスには、老人が囲碁やら将棋を指して、肩を怒らしたり、腕組みしていた。
至るところに日焼けした警備員が汗を拭きつつ、棒を振りながらイベントを守っていた。
「なぁんかさぁ。めっちゃ祭! って感じだよね。長閑で自然と笑顔になっちゃうねー」
「えぇ、こんなイベントがある町に住めて私達は幸せよね」
『ねぇ!!』
「このホットドッグうまっ! ひと口どう?」
ひと口頬張った咲良がニヤニヤしながら言う。
「フフフ、あんたの魂胆はお見通しよ! たこ焼も食べたいんでしょー!?」
「ちっ違うよ、この美味を友である君にですねぇ~」
「あらそう? じゃひと口、あむ! 本当だぁおいひぃぃ!!」
「でしょでしょー! んでほら、ひと口あげたんだからほら、ね? 1個ちょーだい!」
咲良はまるでノラ猫のような素早さでたこ焼を1個奪取すると、ポイっと口の中へ放り込んだ。
「ん〜!! このたこ焼もなかなかのお味で!」
「だよねー!」
一仕事終えた後の2人にとってホットドッグとたこ焼は格別だったに違いない。
「咲良、あんたちょっと太ったんじゃない!?」
茜は咲良の太ももを見ると意地悪そうに言った。
「なっ……いきなりなによ! あたしの脚線美は健在っしょ」
そう言うと立ち上がって妙なポーズをとる咲良。
「茜こそまた胸おっきくなってない!? まことさんには負けるけどー」
茜は言われて自分の胸を両手で持ち上げてみる。
「あんまり大きくなんないでほしいよ……。肩が凝るってゆうじゃない? その点、咲良は安心よね」
咲良は自分の胸を見ると呟くように言った。
「まだ発展途上ですよーだ」
雑談を交え、かっ込むように食べ終わった2人は、また道行く人達をみていた。
路上ライブでギターを掻き鳴らしながら叫ぶように歌う中年の男性。
ポーチ作りのワークショップで作り方を教え回っている小太りの女性。
少し離れた場所では熾烈な尻相撲大会なるものが行われていた。
ヘルメット・肘当て・膝当てをした大の大人が5人一組となり、魂と魂をぶつけ合うかのように熱いバトルを行っていた。
どうやら背中に萬の一字を刻んだポロシャツを着たチームが優勝したようだ。
声高らかに勝鬨をあげていた。
熱気ムンムンだが、やはりみんな笑顔だ。
赤熱の太陽が燦々と頭上に居座ろうと、今日のこの地域の気温が全国最高を記録しようと、このマルシェの熱気には勝てないと思わせる程の活況さである。
「三条マルシェかぁ、初めて来たけどいいね!」
「ほんとにね! なんで今まで来なかったんだろ。もったいないことしてきたよね」
「そぉれはいい話を聞かせてもらいましたわぁ!!」
2人が顔を寄せて笑い合ったのと、真後ろから若い女性の張りのある声が聞こえてきたのが同時だった。
2人はビックリして立ち上がり、振り返ってみる。
そこには小柄で黒縁メガネを掛け、緑色の法被を着込んだ20代後半くらいの、なかなか美人な女性が立っていた。
頬にはすぅーっと一筋の汗が流れている。
そして腕には実行委員会と書かれた腕章をしていた。
「ど、どちら様で??」
と、茜が恐る恐る質問する。
「ビックリしたなぁもう!!」
と、咲良が叫ぶ。
すると女性は立て続けに自己紹介し出した。
「私は当三条マルシェの実行委員会の委員長を務めさせて頂いております、白石と言います! 今日はマルシェに来て頂きありがとうございます! どうですか? とてもいい雰囲気でしょう? 活気があって老若男女が集まり、そして笑い合って」
彼女の熱意に圧倒された2人は同じことを言った。
『す、凄くいいと思います…………』
2人は先程までボランティアとして鍛冶道場にいたことを話すと、白石は2人の手をとって感激。
「まぁそれは協力に感謝致しますわ! 三条マルシェと鍛冶道場のコラボは新たな試みでして、どうなるか心配していたのです。あなた方、お名前は?」
「わたしは大町茜です。こっちは幼なじみの一ノ門咲良っていいます」
「です!」
「それは有り難いことです! あなた方のような綺麗な子達がボランティアに参加してくれて嬉しいですわ。改めて深く感謝致しますわ! それでは私は次なるイベントの準備がありますので。ごきげんよう!」
そういうと白石委員長はキビキビと歩いて、人混みに消えていった。
「なんかまた個性的な人が現れたんじゃない? 美人だけど」
「そうね、でも三条を盛り上げたいって気持ちは凄く伝わってきたね! 美人だし」
「それはあるね。そういう人達に支えられてるんだね、三条マルシェ!」
「そういうことよね」
咲良の言葉に相槌を打つ茜。
鬱陶しいほどの蝉の鳴き声と、アスファルトからの照り返しとで少し疲れがでたのか、2人はげんなりしてしまっていた。
いつの間にか少し日が傾いてきているようだった。
次回 3、かづほ屋#イチゴ大福#美味しい#おひとつどうぞ!