第二章 0、天文十三年、流星が降る
ここから第二章となり、天文の戦国時代へと舞台は移ります。
ゴォォゴォォンと大地が鳴り響いていた。
ここ数日不気味な地震が多発し、大気が荒れ、生命に何らかの異常を来し始めていた。
八木ヶ鼻の崖の上をザッザッと1人の老爺が歩く音が聞こえてくる。
満月の光が反射した双眸は鋭く、妖しい光を帯びていた。
そしてかなり手の込んだ立派な拵えがなされた一振の刀を携えていた。
断崖に腰を降ろした老爺は漆黒の闇の中、月明かりに照らされ神々しく輝いていく。
深夜の静寂の中、崖の脇を流れる五十嵐川の水の音と、周辺に生息する隼の鳴き声がたまに聞こえるばかり。
刻み煙草で一息入れると一振の刀に視線を送り、不意に地面に突き刺した。
「さぁ龍口よ、そなたの主の元へ行くのじゃ」
一言呟いた老爺は龍口と呼ばれたその日本刀に両手を翳し、内から湧き出る霊気を刀に送り込んだ。すると刀はみるみる発光しだし、突如一閃となり遥かか彼方へ飛んで行ってしまった。
それはさながら流星のように見えたに違いない。
「むむぅあの方角は栃尾か。はたまたその先か…………」
飛び去った先を見据え、その老爺静かに呟いた。
「再度龍口が、ワシの前に現れた時。運命に選ばれし者と共に来る…………」
そう言って暫く月夜の中、その場に座するのであった。
次回 1、1544年、栃尾城の戦い