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第一章 終 そして本成寺へ ……

 咲良の発案でついに三条の地に鍛冶ガールが誕生した瞬間だった。

 それは年老いた者からすれば瑞々しい若葉の成長の過程に見えただろうし、今の三条を担う萬屋すーさんからすれば頼もしい次代の担い手に見えたことであろう。

 そして同世代を生きる柊一も触発されたに違いない。


「では早速ですが、皆さん行きましょう! 私達の時代へ!」


 勇む姫子は皆を促すように言ったその時、突然奇妙な音がした。


 グゥ~ググゥ。



 一同は不思議な音に耳を傾けてみると、発生源が頬を赤らめて恥ずかしいそうにお腹をなでて口を開いた。


「エヘヘ。お腹減っちゃった…………」

「なっ……もぅ! せっかくの雰囲気が台無しじゃない!」

「かぁぁ、こんな時まで食い気かよ! だから色気がねーんだよお前は!」


 茜が憤慨し、軍司にも呆れられたのは言わずもがな。

 見兼ねたまことが救いの手を差し伸べる。


「そ、そうよね! 旅立つ前に腹拵(はらごしら)えが必要よね! すぐに準備してもらうわね」

「ウム。ここまできたら焦って立ってもしかたなかろう。()いては事を仕損じる。じゃ!」


 一同は鍛冶ガールが旅立つ前に、早めの夕餉(ゆうげ)を取ることとなった。



 突然のことではあったが、人数分のおにぎりと胡瓜(きゅうり)の古漬けが座卓にズラッと並んだ。一同揃って頂きますと声を発っし、それぞれがおにぎりを頬張りながら雑談を始めた。

 どうやら全員腹が減っていたようだ。



「そういえば軍司殿の剣は何流かな?」

「流派? あぁ~強いて言えば()()()流っすかね!」

「なに!? 古城館とな? では長谷川のとこのお弟子さんかね?」


「そうさ! 俺は長谷川先生のとこの門下生っすよ! 権爺さんは師匠と知り合いなんすか?」

「知り合いもなにも。昔からの付き合いでな、いうてみれば悪友じゃよ!」


「権爺殿と長谷川殿とやらがたまたま知古だったとゆうことか? 軍司殿、我らが時代へ参ったらな、一つそなたの剣の腕を見せてもらおうか。ワシが手解きしてしんぜよう!」

「あん? 山さんが? そりゃ腕が鳴るぜ! ヘヘッ是非ともよろしくお願いします!」




「姫っちって何歳なの?」

「姫は十五です」

「じゃあ姫子ちゃんは中3てことかな?」

「ノンノン! 昔は数え年だから。姫ちゃん何月生まれ?」

「如月ですが」


「キサラギってなに??」

「あんた本当にバカね。2月よ! に・が・つ!」

「そう2月よ。ってことは満年齢でゆうと16才ね」

「なに? どーゆうことぉ!?」


 無垢な表情にご飯粒を付けた咲良は両手におにぎりを持ちながらも栞菜に接近し、ウンチクを催促。



「オホン、昔はみな数え年、つまり生まれた時点で1才だったのよ。諸説ありだけど、体内に十月十日いるってことで産まれた時に1才としたとかしないとか。誕生日が2月なら満年齢で16才よ! たぶんね」

「てことはウチラの1個下だね。咲良わかった?」

「う~ん………よくわかんないけど! 1つ下ってことね」



「のぉ、権よ、先程の話じゃがの」

「なんじゃい、まだ彼の地が気になっておるのかおぬしは」


「ウム。おそらくこの現代のことでなかろうかとワシは思うのだが」

「ほぅ。そうだとしたらなんとする?」

「こちらでも()()をしておく必要がある」


「…………なるほど。お前さんの勘は外れたことがない。それはよく知っとるつもりだ。そうなると新たに協力者が必要じゃな」

「ウム。まず鍛冶道場の村上館長は必須じゃて。それに先程の長谷川先生じゃったかの? 先生にも力添え願おうぞ」


「それはいいが老若男女がよかろうて。せっかく若い衆が頑張ってるんだからの! この爺も協力者を探してみるとしよう」


 老人らはいつでも常に一歩先を見据える老獪(ろうかい)さをみせる。



「ねぇすーさん、実際に萬屋って何人いるんですか? そろそろ僕にも詳細を教えて下さいよ」

「柊一君、いずれ主だったメンバーには会わせるよ! どのメンバーも一癖も二癖もある一筋縄ではいかない曲者ばっかりだから追々(おいおい)ね!」


「相変わらず謎の集団ですね!」

「偏屈者ばっかりで誰も俺のいうことを聞いてくれないのよ! わかる? この悲しみが……この間だって皆でマルシェのイベントの尻相撲でよう! って言ったら一斉に勝手に決めるなぁ! 断固拒否するぅ!! すーさんの思い通りにはならねーぞ! って…………まるで敵だよ。敵」

「はぁ益々謎だぁ…………」


 と、謎の会話の途中で突然権爺がそうかと言って飛び上がった。


「山吉どん、三条伝記には確かに鍛冶巫女と(つづ)ってあったのだね!?」

「確かに。しかしこれだけの書を(まと)める人物が鍛冶巫女とはまた癖のある言い回しをすることに拙者(せっしゃ)も疑問を感じておりましたが…… それがなにか?」



「きっとこうじゃ。天文十七年に鍛冶ガールが行ったとする。自ずと彼女らは鍛冶ガールと、名乗る。じゃがおぬしらの時代に()()()という言葉も横文字も当然ない。そこで著者である()なる人物は、()()()の部分を()()と表現したんではなかろうか!?」


「うーむ、なるほど。それも戻ってから千とゆう人物を探し出してはっきりさせたいところですな!」



 様々な会話をおにぎりと古漬けを食す間に交わした面々は、満腹になると、いよいよ時が来たとばかりに唯一過去と現在を往き来できる山吉と姫子に視線を注ぐ。


 それまで黙って皆の会話を聞いていたまことは待ちきれずにタイムスリップの方法を訊ね、山吉はハッキリとした口調で返答した。


「本成寺じゃ! 本成寺の黒門から天文へ戻れるはず!」

「黒門ですって!? 潜って行くと、もうそこは戦国時代なの?」

「そこでこの輪廻の首飾りが力を発揮してくれます!」


 興奮冷めやらぬ栞菜に姫子は、首に提げた飾りを強く握ってそう言った。


「あぁ美味しかった」

「咲良ちゃん!」


 まことは独りごちた咲良の名を性急に呼ぶと、周りを見渡した咲良は満足に口を拭いて一言。



「じゃ行こっか!」


 と、まるで遊びにでも行くかのように立ち上がり、それに続くように鍛冶ガール、山吉、軍司は本成寺は黒門を目指して出発したのだった。

 それぞれにもはや不安の影は見当たりはせず、送り出す側の人間もそれぞれが様々な考えを巡らしながら見送ったのだった。



 そして、本成寺へ…………



 夕日がなんとも綺麗だった。

 そこここを夕焼け色に染め上げ、小振りな黒門だけを際立たせている。門の中心は空間が(ゆが)んで(ねじ)れているように一行には見えた。



「ここを潜ればそこは私達の知らない世界なのね」


 そう言ってまことがゴクリと唾を飲んだ。


「天文へ戻ったら先ずは初代巌鉄斉殿に会いに行こうぞ!」

「それでは皆さん行きますよっ!」



 手を繋ぎ、心を一つにした鍛冶ガール一行は光輝き出した門内に一歩一歩と足を踏み入れたのだった。



 そして物語の舞台は現代から激動の戦国時代、天文へと移ってゆく。




 次回 第二章 0、満月の天文十三年、流星が降る也

 


これで鍛冶ガールの第一章が終わりとなります。

舞台はいよいよ戦国時代に移ります。これから鍛冶ガールがどのようにして活躍していくのか、新たな登場人物たちと共に何を成していくのか。

まだまだ長い道のりとなりますが、宜しくお願い致します。


萬屋グリヤン

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