第一章 15、誕生! 越後の国の鍛冶ガール!
5人は立ち上がり、それぞれが持っていた火花のイヤリングを掌に乗せてみた。
「一ノ門さんと大町さんは何色に見えるのですか?」
「あっそうか、みんな見える色が違うんだったっけ? それに姫っち! 一ノ門さんなんて他人行儀はやめて咲良って呼んでね! 私は燃えさかる炎のように赤い火花だな!」
「私は黄色ね、同じくよ姫ちゃん! 茜でいいからね」
姫子の質問に二人はそう答え、優しく微笑んだ。
「むぅ俺にはただの鉄くずにしか見えねんだよなぁ…………不思議だぜ!」
軍司が難しい顔でイヤリングを睨むと、背後に殺気を感じた。
「小滝君、私が精根込めて鍛えたイヤリングを鉄くずとは聞き捨てならないわよ!」
鍛冶関係に関してはシビアであるまことが怒気を含んだ眼差しを向けると、軍司は話を反らすように言う。
「あっいやぁ冗談すよ! へへ、会長も軍司って呼び捨てで頼んますわ!」
「まことの前で鍛冶関連で失言すると怖いめをみると思いなさい! チャンバラ小僧!」
栞菜が見下して不気味な笑みをみせる。
「ぐっカンナム先輩も軍司って呼んでくれてもいっすよぉ…………」
引攣った顔で無理やり笑ってみせた。
「フン。呼び方くらい自由にさせなさいよ、侍もどき」
(かぁ~。俺コイツ嫌い! 女じゃなかったら泣かせてるとこだぞ!)
と、心の中ではそう叫んだが、グッとこらえて明るく返事をした。
「了解っすカンナム先輩……」
しかしまったく意に介さない栞菜を見て歯ぎしりして悔しがった。
その若者らしいやり取りをジッと見ていた権爺であったが、巌鉄斉と目が合うと大きな咳払いをした。
「初対面じゃが、なかなかチームワークが取れそうじゃないか! こっからはワシが仕切らせてもらうぞい、さぁさ座って座って。一ノ門くんは赤、大町くんは黄と。五十嵐くんは銀で中浦くんは青、そしてまことが緑と。どうじゃな? 柊、山吉どん?」
「うん、伝記にも5色のことは書かれているね」
まさに大地裂けんとする時、五人の鍛冶巫女と五体の柱神が重なり合い、五色の輝きを放ちながら各鎮地盤目指して翔び立つ。
彼の地と共鳴するとき、各輝きが鎮地盤に衝突し爆風おきる。その後そよ風が吹き大地の鳴動がやみ豊穣の地、甦らん。
山吉は大きく胸を反らして伝記に書かれている事を皆に伝えた。
「ウム。そこでじゃ。この家宝の神器・黒鐵をぬしらは必ず携えて行くのじゃ! 必ず必要になる時がくるでの」
巌鉄斉とまことが鍛え直し、神々しい光を蘇らせた黒鐵を巫女達は1本ずつ渡された。
「はぁ~なんかすんごい高そうなハンマーね!」
「これ咲良殿、神器の類いの値踏みはいかんぞ!」
山吉に窘められた咲良はアハハと笑って姫子をみる。
姫子はニッコリ笑って返す。
「萬屋のすーさん、例の物を!」
権爺に催促され、今まで年甲斐もなくワクワクドキドキしていた萬屋すーさんは荷物を座卓の上にドサリと置いて興奮気味に話し出した。
「これはウチのメンバーの萬屋・ナオが拵えた腰袋です。それぞれ腰に巻いてみて下さい。最重要アイテムである黒鐵など落としては取り返しがつかないので絶えず腰袋に納めて大切に扱って下さい!」
萬屋すーさんに進められて全員腰に袋を装着し、黒鐵を差し込んでみた。それ以外にも使い勝手がいいように細工が施されたいるようだ。
「これで落とすことはないわね! 便利だわぁこことかも何か入れられそうじゃない? ありがとうございます、すーさん!」
茜が生真面目に礼を述べると残りの4人もそれに倣った。
「すーさん、鎮地盤について何か調べはついたかね?」
「萬屋総動員して探索していますが、三条伝記には詳しい場所は書かれていませんからね……ですがやっとの思いでそれらしき物を1つ見つけてはいます。残りは今後も地道に探していくしかないですね」
「ほう、1つは発見されたか? そなたら萬屋には動いてもらってばかりですまぬのぉ」
「いやいやぁ! 外でもない我らが三条のことですからね、当然ですよ。それにこれからは柊一君も加わってくれますし!」
柊一は山吉らの協力によって三条伝記の解読が終わったので萬屋と合流するということか。
「柊一も頼むぞ! ワシの考えが正しければ現代でも鎮地盤の場所を把握しておいたほうがいいと思ってな」
「何か気になる点でもあるの? じいちゃん」
「…………彼の地と共鳴する。とゆう一文がどうしても気になっての」
と、少し沈思したが、進行を権爺に委ねる厳鉄斉。
「これで全ての札は出揃ったというわけだ! 後は準備が出来次第、おぬしらには天文十七年に向かってもらうぞい!」
全員一斉に返事をしたが、迷える男が1人いた。
それに気付いた茜はその迷える仔羊に言い放つ。
「そういえば軍司ってどうするの? 行くの?」
「それは、俺が聞きてぇよ! 行けるんだったら絶対着いてくぜ! お前らの決意を聞いて動かないなんて男がすたるぜ!」
「ウム。お主はこのチームを作った立役者じゃからの! お主が茜殿をボランティアに誘わなければそもそも出会ってはおらなんだ。最もそれがなくても出会う運命であったのだろうがの。じゃが最もスムーズに事が運んだことは確かじゃ。危険ではあるが、巫女らのボデーガードを頼みたい!」
巌鉄斉は軍司に頼み、ボディガードという肩書きに胸踊らせた軍司は、竹刀袋を前に突き出すと力強く返事をした。
「承知!」
「いよいよですな! 姫子殿!」
「はいっ! ここまで辿り着けて本当に良かったです!」
鼻息を荒くして山吉は張り切ったし、姫子は感慨深そうな笑顔で答えた。
「あのぉ、さっきからチームってフレーズが出たけど、せっかくなら5人組のチーム名でも付けてみたらどうでしょうか?」
萬屋すーさんは思い付いたようにそう言い、美少女5人はお互い見合って考えてみる。
「突然言われてもね…………何かある? 栞菜」
「栞菜と愉快な仲間達。どう? 姫子ちゃん」
「それはちょっと……それじゃなんだかおまけみたいで…………そもそもチームってなんですか?」
「あっそうか、チームってゆうのは団体って意味でチーム名はそのまま団体名ってことになるよね。だけど急に言われてもいい名前が浮かばないなぁ。かといって神に選ばれし五人の巫女じゃあ長ったらしいし……咲良なんかないの? このままじゃ栞菜と愉快な仲間達になっちゃうわよ!」
満足げな栞菜をよそに、不服であるまこと、茜、姫子が咲良に視線を注ぐ。
最後に回ってきた名付けのチャンスに咲良はほくそ笑んだ。
「実はあたし取って置きの名前考えてあるんだぁ!」
「勿体ぶってないで早く言いなさいよ!」
「そうだぞ咲良! さっさと言え! 変な名前だったらソッコー却下だかんな!」
「どんな名じゃ? 咲良殿!」
「元気っ子の閃きは気になるところよな? 巌鉄よ」
「ウム」
茜が焦れ、軍司が息巻く。
まことと姫子は固唾をのんで見守り、山吉が巨体を前のめりにし、権爺と巌鉄斉が腕組みをした時、咲良は再び立ち上がると凛とした声で言った。
「鍛冶ガール!」
ほんの少しの静寂の後、まことが喜んで賛成するように声を上げた。
「いいんじゃない! 鍛冶が入ってるところが気に入ったわ!」
「ほほぅ。なかなかいいじゃない。やるわね咲っち!」
栞菜は感心する。
「咲良にしては上出来よ!」
茜は誉める。
「なんか響きが素敵ですッ!!」
姫子もやはり意味はよくわかってはいないが賛成する。
「でかした! 咲良!」
と、最後に軍司が称えた。
「三条に相応しいですね、すーさん!」
柊一はすーさんに同意を求める。
「ウム。これはいけますな! 越後の国の鍛冶ガール。鍛冶どころ三条には打ってつけだ!」
すーさんは何かを企むように同調する。
全会一致で咲良の案が採用され、ここに鍛冶ガールが誕生した瞬間であった。
「みんな集まって!」
咲良に促され、まこと、茜、栞菜、姫子は立ち上がり円陣を組んだ。
「ガールってなんですか? 咲良さん!」
姫子が訊ねると咲良が弾んだ声で答える。
「あたし達のことだよ!」
そう言って咲良は円の中央に手を出すと、それに引き寄せられるように残りの4人も手を伸ばした。
「あたし達で絶対平和を取り戻そう!」
皆で力強く頷き、手を重ね合わせ、咲良は思い切り息を吸うと大声で発生。
「鍛冶ッガール、出動!!」
『おー!!!!』
咲良に呼応して鍛冶ガールの面々は天井高く拳を突き上げ、結成の狼煙を上げるのだった。
次回 終、そして本成寺へ……