第一章 13、激白は冒険の始まりですね?
栞菜はそこが例え人混みであっても躊躇うことなく叫び続けたであろう。
咲良と茜のプロフィールを述べると、さらに声高らかにも人物評を続けた。
「小滝軍司! 剣道の古豪・栄中学校出身。成績は中の下あらため下の中。小学校から剣道一筋、高身長でパッとみは剣道着姿が凛々しく人気はあるが、その粗野な口調や粗暴ぶりから距離を置かれることも。しかしながら仲間思いの一面もあり、友情に熱い所は折り紙付きである。高校の剣道部に所属する傍ら市内にある剣士会・古城館にも出入りしている。全国大会に出る程の実力の持ち主でいつも古城館と刻印された赤樫の木刀が入った竹刀袋を肩に掛けて持ち歩いている」
「ぐっ下の中に訂正されちまった……おい茜、粗野ってなんだ?」
「野性的みたいな意味じゃない?」
「獣じゃん! ププッ」
「なにおう!」
「もう! よしなさいってば!」
3人の人物評を語り尽くした栞菜は満足げに高笑いし、最後にはこう言い放った。
「私の趣味は歴史よ。あなた達のことを調べ尽くせばそれはあなた達の歴史そのもの! 見せてもらったわよ、アンタらの歴史を! オホホホホホホホッ」
「勝手にゴメンね。けど止めても止まらないのよね、この子は…………」
申し訳なさそうにまことは謝罪したが、見ようによってはこれは立派な犯罪ではなかろうか。
「あっいやぁ別にいいんですよ! ほぼ当たってるもん」
「五十嵐先輩の二重人格も垣間見れたしね。アハハハ」
「ごめんね。私はハイテンションになった栞菜をネオ栞菜って呼んでるの。それにあの大福帳は栞菜メモって名付けてあるし、読むときのあのスタイルは栞菜スタイルって呼んでるのよ。面白いでしょ!」
コソコソとまことが3人に耳打ちする。
「プッ! ネオ栞菜! めっちゃしっくり!」
「クスっ。栞菜メモ! 中身が見てみたいわ!」
「ブッ! 栞菜スタイルだってよ! カンナムスタイルかよ!」
3人は爆笑してしまった。
名付け親のまことはフフッと微笑するが、栞菜はそんな4人を尻目に、早くも戦国時代に行った時のことに思いを馳せるかのように独り言に夢中のようだった。
笑いを納めたまことは、3人組にこれから家に来ないかと誘い、その道すがらに色々と話したいことがある旨を伝えた。
咲良と茜は喜んで誘いにのったのは言うまでもなく、ここで会ったのも何かの縁と同じく誘われた軍司は校内の人気者である生徒会長を眩しさげに見て聞き返した。
「えっ俺もいんすか? 会長」
「会長はやめてよ小滝君。これも何かの縁だし遠慮しないで。さぁ! そうと決まれば急ぎましょ」
「ほら行くよー軍ちゃん! どんくさいぞー」
「もたもたしないで行くわよ。優柔不断ねぇ」
「さっさといらっしゃいチャンバラ小僧」
「ぐっチャンバラ小僧だと!? ぬかせカンナムスタイル!」
それぞれに貶された軍司は、どうするか戸惑っていたが、なんとか栞菜にだけは叫びながら言い返すと駐輪場に走って行くのであった。
3人はそれぞれ自転車を引きながらも、まことが語る話しに耳を傾け、時に立ち止まり、時に叫び、時に驚き合って歩を進めて行く。
五十嵐川づたいの土手を歩きながら話を聞き終えた3人は黙り込んだ。それもそのはずである。
突然の激白に頭の整理がつかないのだろう。
「まるでロープレじゃねーか……冒険が始まるってか」
軍司はボソッと呟いたが誰も答える者はなかった。
梅雨が開けてから、珍しく真夏の晴天が続いていた五十嵐川は水位が大分下がっていた。そんな水面を鴨の親子が横断している。一番小さい子鴨が母親と兄弟に追い付こうと必死に泳いでいる姿が見えた。
川の畔で麦わら帽子をかぶり、暢気に釣りをしている浅黒い老人がいて、その周辺に野良猫であろうか、釣った魚欲しさにウロウロしている姿も目に入った。
全身白に所々に黒い斑点があって大きな図体は牛のようにも見える猫だった。
(まるで囲碁かオセロみたい!)
そんな風に思って五十嵐川を横目にしながら咲良はキリッとした表情で一度力強く頷くと、何かを決心したように力を入れて自転車を押すのであった。
運命に手繰り寄せられるかのように今、美少女達は邂逅しゆくのであった。
次回 14、美少女 集結!