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第一章 11、再会!新学期は波乱の予感!?

 チュンチュンと元気な雀の鳴き声が外からしていた。

 自宅前の道を車が行き来し、その度にU字溝にふされたグレーチングがカタカタ鳴っていた。

 8月も終わり、今日から9月である。

 クリーニング仕立てのワイシャツに袖を通し、クッキリしたひだのスカートを()くと眉をひそめたのは咲良である。


「ムムッ? ちょっちウエストがキツイような……」


 無理矢理ホックを閉め、一呼吸した咲良はこの夏休みの怠惰(たいだ)な生活を回想する。


 思えば三条マルシェにボランティアとして参加し、様々な人達と出会い、三条マルシェの素晴らしさを実感し、自分も()()出来ないかと決起したまでは良かったのだ。


 しかし肝心要(かんじんかなめ)の何をどうしたらよいのかがサッパリ分からず、毎日のらりくらりと過ごすうちに、すっかり腑抜(ふぬ)けになってしまっていた。


 そして茜の顔を想像すると身の毛もよだつ。

 3日前の夜、彼女から電話があった。


「咲良、ちゃんと夏休みの宿題したんでしょうね?」

「あっえっ? あぁまぁ……」


 と、咲良は口にくわえていた煎餅(せんべい)を慌てて取り除き、のらりくらりと(かわ)していたのだが、茜はおいそれと逃がしてはくれなかった。



「はぁ~そんなことだろうと思ったわよ。明日朝ドラ観終わったら行くからちゃんと宿題の準備しておいてよね!」

「えぇー!? そんな早くに来るのぉ? お、起きれるかな……」


「なぁんですってぇ~!? せっかく心配して手伝ってあげようって優しい友達の好意を無にするっていうの!? 全っ然早くないしっ」


 怖いそして恐い。


 といった具合に茜のスパルタの甲斐(かい)もあって宿題を無事に終わらせることができたのだ。

 咲良は最後にリボンを結ぶと通学用の鞄を肩に下げ、階段を降りていく。

 新たに鞄に付けた火花イヤリングが鞄の金具とあたりあってカラカラと鳴ると何故か自然と笑顔になるようであった。


「行って来まぁす」


 元気いっぱいに玄関で叫ぶと愛用の自転車にまたがり、急いで茜とのいつもの待ち合わせ場所に向かう咲良。



 嵐川橋の(たもと)の信号では、通勤車両が小規模な渋滞を作っている。咲良は青信号になると嵐川橋の中程まで一気に突っ切った。

 既に到着していた茜は今日も()()を見詰めている。


「おはよー待ったぁ?」

「おはよう咲良! ううん、私もさっき来たところよ」


 とりあえず()()を見る2人。



「咲良、なんかあの蜃気楼段々とクッキリしてきてない?」

「そう言われれば……ほんとぉだぁ! ハッキリしてきてるよねぇ! やっぱりなんか昔の建物だよねぇ」

「うん、でもなんで私達にだけ見えるんだろうね……だうして皆には見えないんだろ…………」


 咲良は(うな)るだけで何も答えられないでいた。



「ん? あんたまたスカート短くしたの?」

「あっ、ばれたぁ? 膝上20センチにしてみたの」


 咲良はそういってクルッと一回転すると短いスカートはフワッと揺れ、パンツが見えそうなほどであった。



「あんたねぇ! それで誰を誘惑するつもりよ!?」

「別にー。ただの気分転換よ! 気・分・転・換ー。茜だって短いじゃん!」

「私はあんたほどじゃないわよ」


 茜はそう言ってスカートを少しつまみ上げた。元陸上選手だけあってか健康的な太ももとふくらはぎは綺麗な脚線美(きゃくせんび)である。


「ってもうこんな時間! 急ぎましょ咲良」

「ウム、急ごう!」



 2人はいつもの通学路をスイスイ進む。時間が押し迫っていせいか自然とペダルに力が入る。

 新学期早々、遅刻ギリギリに学校に着いた2人は駐輪場に自転車を停め急ぎ足に生徒玄関に向かう。



 そんな2人をあざとくも見つけ、元気よく挨拶して近付いて来る男子生徒が一人。


「よぉ、はよう! 久しぶりだなぁ!」

「あっおはようー! 久しぶりねー軍司」

「おっはよー軍ちゃーん!」


 長身で凛々しい男子生徒の名前は小滝軍司(こだきぐんじ)、咲良と茜、それにこの少年は同じ2年2組のクラスメートである。

 入学時に意気投合してからこれまでずっと仲良しの3人組なのだ。



「茜、マルシェのボランティアはすまなかったなぁ。急に道場の合宿が入っちまってよ」

「全然! 代わりに咲良に来てもらったし、いい経験できたわ。ねぇ咲良」

「うん! 色んな人とも知り合えたし楽しかったよね! それにしても残念だったねぇ軍ちゃん」


 咲良は意味深な言葉を吐く。


「なっなんだよ咲良! そ、そっか。ならよかったぜ。よぉ2学期初日から遅刻するぞ! 急ごうぜ」


 軍司は立ち話もそこそこに2人を(うなが)して、3人組は急いで自分達の教室へ向かった。



 波乱の新学期の始まりというわけである。



 生徒達は短いHRが終わると始業式のため体育館に移動していく。

 9月になったが相変わらず学校の敷地内に()わっている木々には蝉が鳴きじゃくっており、校内の花壇には早咲きのコスモスが茎を揺らしながら凛々しくも咲き誇っている。



 久しぶりの再会に雑談が絶えない全校生徒が集まる体育館では、校長の長い話で始業式が締めくくられると生徒会からアナウンスが入った。


「始業式後、10月に行われる体育祭について生徒会からお知らせがあります、しばらく着席願います」


 一年があっという間であり、今後はその体育祭で忙しくなりそうだと、咲良と茜は時間の経過の早さと一大イベントに思いを馳せたか。



「お待たせしました、それでは今年度の体育祭について生徒会長からお話があります、()()()会長、よろしくお願いします」


 なんだかんだと雑談よろしくステージなどまともに見ようとはしなかったはずの2人は、聞き覚えのある鍛冶町という苗字を聞いた瞬間に身体をひくつかせ、ステージの辺りを目を細めてキョロキョロしだした。

 そんな2人を軍司は不思議に思ったが、校内一と呼び声高い生徒会長のお出ましに気を取られた。


 ステージの脇に詰めていた生徒会役員の中からすっくと立ち上がり長めのストレートの髪をなびかせながら、一人の女子生徒が颯爽(さっそう)と登壇していく。


「颯爽と歩くって……デジャブー?」

「んん~前にもこんなことがあったような……」


 2人はそう言い合って、目を()らすことなく全校生徒と対面する生徒会長に注視していく。



「皆さんおはようございます、二学期も引き続き勉学に部活動に全力で取り組んで参りましょう! それでは今年度の体育祭について説明していきたいと思います」



 対面してキビキビと喋る生徒会長の顔を見た咲良と茜は思わず立ち上がって生徒会長を指差しながら叫んでしまっていた。



『あーーーーっ!!!!』



 次回 12、再会part2

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