表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/116

 エピローグ 長い旅の終わりに 2、栞菜と千恵

 誰がカンナム先輩よっ!


 あっこれは失礼しました。

 

 栞菜(かんな)です。

 騒動も一段落し、どんどん復興が進む中、私はちょっと落ち込んでるの。

 だって復興支援が終わったらいよいよ私達は令和に帰らなくちゃならない……

 大好きなお千恵さんとのお別れが切ないの。


 そんな私と千恵さんのその後をご覧下さい!




 違和感のあった空と大地の黄色は消え去り、そこここで咲き乱れる紅葉が秋の装いを演出し、時折肌を切り裂くような冷たい風が冬の到来を思わせた。


 栞菜は朝から行っていたボロ着を修繕する作業を一旦止め、三条城内の広い敷地に最寄りの村々から集まったお母さんやお婆さん、はたまたその子供達とワイワイガヤガヤ談笑して肩の凝りをほぐしていた。


 栞菜が驚いたのは、この時代の女性はみんな当然のように針を持ち、服を仕立て、そして修繕もするということだ。


「栞菜ちゃんもミライってぇとこから来たのに縫いが出来るなんてえらいてばぁ!」

「ヘヘン! そんなことないとかあるとか!」


 そう言われる度に満更でもない顔をしたりした。

 実際この時代に来て栞菜の腕はメキメキと上達していた。


「おーい、栞菜ちゃーん! また頼まぁ!」

「あぁ、はいはい!」


 栞菜はおもむろに立ち上がると黒鐵(くろがね)を腰袋から取り出し、魔法の呪文を唱えるように何事か呟いた。

 すると黒鐵は一瞬ポンッとフラッシュしたかと思うと栞菜の背より高いビッグサイズの(かんな)が姿を現した。


 大工の連中が運んできた巨木をその鉋を自在に操り製材してのけた栞菜は、


(栞菜が鉋って何かのギャグ? なんか悪意を感じるのよね)


 と内心思いつつ、何故か萬屋のすーさんのエロ顔を連想すると肌を泡立たせてブルブルっと震えた。



「栞菜、少し時間を貰ったから出掛けましょう」


 そう言いながらしとしとと歩いて来るのは気狐(きこ)・千恵だ。

 栞菜達と共に世界を救った五柱神の一角、妖艶美人と言われた千恵は栞菜の手を握ると閃光と共に消えていった。


「あっここは!」

「なんだか久しぶりな気がするでしょう?」


 着いた先は二人の出会いの地、千恵が暮らしていた同心坂対岸の掘っ立て小屋である。


「あなたに渡しておきたい物があるのよ」


 そう言いながら千恵は掘っ立て小屋へと入っていき、かつて鍛冶ガールの作務衣を(こしら)えた反物の残りを栞菜に手渡した。


「残り僅かだけれど、栞菜が元の世界に戻ってからも何かの役にたつかもしれないと思ってね。ずっと渡そうと思っていたのよ」


 栞菜は反物を押し頂くと、別れの瞬間が頭を(よぎ)り、複雑な表情を浮かべた。


「あ、ありがとう……大切に使うね……」



 ウフッと笑んだ千恵は湯を沸かすと粗茶だが湯飲み二つを用意すると川原へ出て座った。

 栞菜もまたそれに倣うかのように隣に座って五十嵐川の流れを目と耳で感じた。



「私ね、あなた達が天文を去ったら天子ちゃんと一緒に旅に出ようと思うの。日本中の困っている人に手を差し伸べながら微力を尽くしたいと思ってね」

 

 栞菜はハッと千恵の顔を見たが、静かに笑顔を見せる千恵の意思は固いこと気づいた。

 それに千恵の言う人とは人間だけをさしているのではなく、神族から魔族全てを含めての話なのだと理解していた。


 うつむきながらも栞菜は千恵の決断に賛成しつつも浮かない顔を川面に映していた。

 そんな煮え切らない栞菜を横目に、千恵は立ち上がると今まで聞いたこともないような大きな声を出して叫んだ。


「栞菜ぁ! 私はいつもそこにいるわぁーー!!」


 それを聞いた瞬間、栞菜は自身の黒鐵をギュッと握った。


(思い出はそこにしまってあるって言ったでしょ)


「元気を出して! ほら! 浮かない顔をした栞菜は嫌いよ」


 そう言いながらも千恵の目蓋もまた真っ赤に腫れ上がり、笑顔の奥に別れに対する悲しみと切なさが見てとれた。


 二人は長い時間、お互いの匂いを記憶するかのように抱き合った。


 いつの間にか天狗のお仲間、鴉の群が何処からかカァーカァーと鳴き、巣へと帰る時間となった。



「三条伝記は巌鉄斉様に預けておくわ。さぁ私達も残りの時間を目一杯楽しみましょ! 大丈夫、今生の別れとは限らないでしょ? 私達は人間に比べれば長生きよ!?」


 何かを閃いたように拳を上下に振った栞菜は、


「そっか! そうなの!? そうか! なんかそれを聞いたら元気が出てきた気がするよ!」


 それは空元気だったのかもしれないが、とにかく前進する勇気を持ったことは確かだ。


 もしかしたら令和でだって再会することだってあるかもしれない。

 そんな一縷(いちる)の望みを胸に秘め、手を取り合って閃光に身を包み皆が待つ三条城へと戻って行った。



 会えるような気がする!



 とまぁ受け入れることが出来たわけ。

 お千恵さんを悲しませることは出来ないからね。

 本気と書いてマジって読んで再会を密かに期待してるの!

 未来には希望を持たなきゃね!


 それにしても天子ちゃんと一緒に旅に出るとは驚きよね。

 なんか大変そうな気がする……



 さて、次は茜とそんな天子ちゃんの物語よ!


 五十嵐栞菜でした!

 じゃね!



 エピローグ 長い旅の終わりに 3、茜と天子


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ