終、虹がかかった先に見えたものにあなたは何を感じますか?
鍛冶ガールらは咲良を押し抱くように集まると、姫子はすぐに全身火傷の咲良の治癒し始め、咲良の落下に伴い、三条城もゆっくりと下降してきていた。
咲良を囲んで、まことが早速口火を切る。
「ただやみくもに押し返そうとしてもダメよ、きっと……」
「じゃあどうすれば……」
「んじゃあ皆で右に押すとか!?」
「なんで右なのよ!? 根拠を言いなさいよ」
「だからぁ右でも左でもどっちでもいいんだけど、地球の引力に引き寄せられてるってことでしょ!? なら押し返すより、横に逸れさせた方が良くない? ってことっしょ!」
教室の一室で放課後のプランを考えるかのように少女らは考えを述べる。
「こういうのはどう? 引っ張る役と押す役との二手に別れるってゆうのは」
茜は閃いたようにポンと手を鳴らすと言った。
「でしたら姫子は引っ張ります!」
「私もよ!」
姫子と茜は引っ張り役を買ってでると、
「じゃあ私達は押す役目ね」
「そういうことね!」
まことは栞菜と共に押し役を担うこととなった。
「あたしはまた城と合体して落下を抑えるよ!」
咲良は抑える役目に、そして四季彩は。
「あなたにも星の力を使ってもらわないといけないわ」
煌の言葉に息を飲む四季彩に重ねて巌鉄斉が付け足す。
「そうじゃ、四季彩おぬしは大地の力。即ちこの青き星、地球の守護者じゃからな。この大地との共鳴はそれを物語っておる」
「そうなんですか!? でもどうやって……」
「時間がないわ! それはあなた自身の感覚でやってちょうだい! 太陽と地球の力が加わればあるいは……」
口ごもった煌を見つつも、咲良は回復してもらい元気に立ち上がった。
「時間がない! 一発勝負! やるっきゃない!」
「やりましょう!」
「えぇ!」
「あたしの本気みせてあげるわ」
「やるしかないわね! ねっ四季彩!」
まことに言われて不安を吹き飛ばした四季彩は立ち上がると拳を握って応じた。
「よし、ならばワシは姫子と茜とそれに五柱神と神族とを引き連れ引っ張る側に回ろうぞ!」
「でしたら私は龍神と魔族とで力を合わせて押す役目を!」
「おっしゃあ! 俺達も押す側と引っ張る側に分散させて力を届けようぜ!」
「小僧! 仕切るな! それはワシが言おうとしていたのだ!」
「柿崎殿、言うてる場合ではござらんぞ」
「小島殿のいわっしゃる通りですぞ! やりましょう」
嵐蔵はそう言うと山吉を見た。
山吉は鍛冶ガールらの元へ近付くと、
「最終決戦、頼んだぞ越後の国の鍛冶がぁる!」
ニコッと笑った咲良は全員を集めると円陣を組み、目一杯息を吸い込んで叫んだ。
「これで終わりにしょう! 鍛冶ッガール!! 出陣!」
『おう!!!!!』
煌はまこと、栞菜と共に漆黒星に向かって左側へと取り付き押し出す準備を始めた。
まことと栞菜がその能力をして漆黒星に直にふれ、煌の念波によって集った龍神がその後ろを押し、最後に魔族全員が一丸となって押すといった具合だ。
巌鉄斉は茜と姫子と共に右手に回ると、雷と水流を漆黒星に打ち込み、その雷と水流の縄を五柱神が握り、その背後に集まった神族らもまたしっかりと綱を握るように身構えた。
咲良は影虎と共に城に乗ると、太陽側に回り全霊力を持って漆黒星の落下の阻止にかかる。
「神ちゃーん! いまだよっ」
「わ、わかりました! やってみせるわ!」
四季彩は黄金の大地と一体となり霊波を漆黒星に放出し、落下を拒むように力を注いだ。
ゴゴゴォと唸りをあげる地球は確かに漆黒星の落下を嫌がっているかに思われた。
「よしっ、全員の力が一つとなったぞ! それ、人間の底力をみせてやれぃ!!」
「わかってんよぉ、爺さん! 行くぞ、力を送れー!!」
『おう!!!!』
軍司、柿崎、小島、嵐蔵、そして山吉ら人々の気合いの入った念も送られはじめる。
人類の力は今、四方に送られ、不気味な黒い星は数多の色に包まれた。
そして最後に咲良が乾坤一擲の一撃を加える。
それが合図となって四方の力が一気に集中し始めた。
「いくよっ、影虎!」
「おうよ!」
2人は巨大化した和釘を握り絞め、漆黒星に打ち込むと、
『落下をやめなさい!(やめんか!)』
と叫び散らす。
咲良と影虎が思い切り力を込めて落下を阻止し始めたのと同時に四方から合わせたかのように力を入る。
「今よ! それ全力で押し出しなさい!」
「おらぁぁぁ!」
「それなさい!」
「それれってば!」
「……それて!」
『全開ぃぃぃ!!!!』
「我等も全魔力を注ぎ込めい!」
『しゃー!!』
「凄い力で漆黒星が押されてるのがわかります! いっきますよぉ! 茜さん!」
「えぇ! 引っ張るよー! 行くわよ、皆!」
姫子と茜の合図に五柱神は力をフルスロットル、その後ろに並ぶ神族も全力で手綱を引っ張り始める。
「よし、ワシもやるぞ!」
張り切った巌鉄斉は天狗の側で縄を握るとニタッと笑顔を見せ、龍神の力を発揮する。
押す力、引っ張る力、そして人間達から各所に届けられる力。その全てが漆黒星を逸らすためだけに注がれる。
大地地球の力と一対となった四季彩もその力を遺憾なく発揮し、落下を阻止している。
「臨界じゃ! 今じゃ! 咲良!」
「分かってるよ、じいちゃん!」
咲良はもう一度影虎と巨大化した和釘を握り直すと、
『あっちいけぇ!(あっちにいかぬか!)』
と、巨大なバットでも振るかのように姫子と茜側に向かって思い切りスイングした。
後にカキンッと爽快な音がしたとは軍司談であるが、宇宙規模のどデカイホームランは言わずと知れた大場外打となり、十人十色の気を受けた暗黒の星、漆黒星はその軌道を直角に曲げ、ゴゴゴゴゴゴォォォォと凄まじい唸り声を上げつつ、第三惑星を尻目に遥かなる闇に消えていく。
そして三条城からその漆黒星に虹色の橋が掛かり、つい先程まで絶体絶命の窮地に立たされていたはずなのに、何故か何よりも美しく、人々を魅了してやまない、一景観となったのであった。
「おぉついに鍛冶ガールが世界を救ってくれたぞ!」
「やったな! すーさん!」
「うん。頑張ったな咲良ちゃんたち……」
令和の人々も今度こそ本当の平和が訪れたのだと確信をする。
なかったはずの三条城は今、空高く登り、文字通りの虹の架け橋が世界中に見えたからだ。
1人ひとりの力は微細であっても折り重なればどんな色にでも変わる。それを体現してみせた鍛冶ガールに世界は喝采を送る。
「今井日さぁーん! やりましたねぇ! ついに突然現れた隕石を退けましたね!」
「はい! 全世界が見守る中、あの美少女達はやってくれました!」
咲良はいつまでも虹の先を見続ける。
それは嬉しいだとか安心感とか。言葉では言い表せない感情であった。
生きることは何かを成し遂げ、更なる高みに挑むことと知ってはいても、時に立ち止まり過去を振り返り、横に並ぶ友と肩を並べる素晴らしさに、今は浸っていたい。
そう思うからこそいつまでも虹の先を見続けるのであった。
寄り添うはこの地、三条に生まれし鍛冶ガール。
数多の困難を乗り越え、共に成長してきた美少女達は世界の救世主となり、輝く大地をいつまでも照らし続けるだろう。
無縁の野望から始まった一連の天文・令和大騒動はやっとの終わりを迎えた瞬間であった。
鍛冶ガール!
~戦国時代にタイムスリップして世界を救う美少女物語~
完
エピローグ 長い旅の終わりに 1、軍司独白