終30、ワシも私も! 俺もあたしも!
「いっけぇーー!!」
大気圏に突入し始めた漆黒星は黒い炎を吹き出し、確かに地球の、しかも三条を目掛けて落下していた。
もはや地球だろうが宇宙だろうが気にもとめない咲良は、全員の顔を思い浮かべては漆黒の隕石を止めることだけに集中していく。
巨大な漆黒星との激突の瞬間、
「あのねぇ! あんたが落っこちて来たらみんな迷惑するっしょー!!」
と、確かに叫んだ。
ガシッと和釘を隕石に打ち付け、三条城の土台である根元の太陽の破片へと全エネルギーを集中して真下へ放出。
落下する漆黒星と三条城と合体した咲良の壮絶な押し合いへし合いが開始された。
「わわわわわわぁ! やっぱ厳しいか……よしっ、おーい太陽さーん! 手伝ってよぉー!」
流石と言うべきか、太陽の守護天使、咲良の呼び掛けに呼応したかのように、人が及びもつかない熱量を誇る天の川銀河系の恒星、銀河系の全ての星に重力を与える太陽は、その力を遺憾なく発揮、その影響下にある漆黒星は少し落下の速度を落とした。
「くっ、もっと力を……このままじゃまずい……」
もはや神も悪魔もへったくれもなし。
そして眼前で展開される超スペクタクルをただ傍観している鍛冶ガールではなかった。
いや全生きとし生ける者が今、咲良の勇姿に勇気をもらい立ち上がった瞬間でもあったか。
始めに決起したは魔族達だ、代表の合図と共に悪魔、妖怪の大群は漆黒星目掛けて大挙した。
「怯むなぁ! それ、押し戻せぇ!!」
「我らも負けてなるものかっ! 神族全員突撃ー!!」
神族もまた感化されたかのように軒並み全神通力を駆使して漆黒星廃除に向かった。
「むむぅ……またしても我等は指を咥えて見ているしかできないのか……」
拳を握り悔しそうに見上げる柿崎と小島らに古城館の刻印入りの木刀を振りかざした軍司が声を張り上げる。
「おっさんたち! 今俺らに出来ることは全身全霊、咲良に力を送ることだろうがっ」
軍司の大喝に嵐蔵と山吉はニタリと笑うと、
「そうじゃ! 軍司殿の言う通りじゃ!」
「よう言うた、軍司殿! 我等も心を一つにして鍛冶ガールに力を送りましょうぞ!」
「ようし、小島! 我々も若造に負けぬように気合いの入った力を送ろうぞ!」
「柿崎殿、承知! 我らの力は伊達じゃない!」
長尾の軍勢と軒猿衆は一斉に散らばっていき、領民らをまとめあげると手を振りかざし、その思いを咲良に届ける。
煌は新たな作戦行動に移るべく、龍神各人を見渡した。
強い力を持つ漆黒星の恐ろしさに当初は絶望していたが、魔・神・そして人間達の断固たる決意を目の当たりにし、その瞳に属性の輝きを取り戻し、絶大な闘志を滾らせていた。
「煌! 早く指示を出せよ!」
「お姉さま!」
「煌ねぇ!」
「……早く指示を……」
「全員、全力を持って漆黒星の排除に当たる!」
『了解!!!!』
煌を残して銀・青・緑・黄の輝きを振り撒き、ブルーインパルスさながらに漆黒星目掛けて高速で飛んで行った。
「よし、俺も行こう。咲良、待っておれよ」
そして誰よりも冷静に漆黒星を見詰めていた影虎は巌鉄斉と目配せすると、己も赤い彗星の如く一直線に目掛けて弾丸のように消えた。
最後に残った咲良以外の鍛冶ガールらは。
「ねぇあたしらも行こうよ!?」
「そうです! 咲良さんを一人にしてはいけません」
栞菜と姫子を引き留めたのは茜と四季彩だ。
「待って! 巌鉄斉さんに何か考えがあるみたいなのよ」
「そうです! ねぇ? まこと」
茜と四季彩はまことの顔を覗くとドキッとした。
まことの双眸には確かに沸き上がる闘志が垣間見られ、今すぐにでも飛んで行きたい自分の感情を押し殺して我慢しているように見えたからだ。
「よいか、影虎に咲良に一度戻るように手配した。咲良が戻った時こそ、お前達、鍛冶ガールの力を存分に発揮してもらう!」
全ての生きる者の意思により、漆黒星の落下は幾分速度を落としたが、それでもはね除けるどころではなかった。
龍神の力を持ってしてもそれは同じであった。
「斬!」
影虎は咲良の真横で竜口を漆黒星に突き刺すと言った。
「咲良、一旦引け! ここは我等に任せ、お前は鍛冶ガール全員で力を合わせて来い!」
必死に力を込めていた咲良は全身を軽い低温火傷でもしたかのように焦げ付き、湧き出る汗は蒸発し、煙となっていた。
「だって! このままじゃあ……」
「星の守護者たるお前達の力なくしてこの巨大な隕石は跳ね返せぬ! 了見せよ!」
咲良は高温で色がオレンジに染まった和釘をズボッと抜くと、影虎に勇ましい顔で強く頷きをくれ、脱力したようにふわりと落下していった。
「咲良を受け止めてくれよ! 同盟者らよ……」
「ん? 何か落ちてくる!」
「咲良よ、きっと!」
栞菜は咲良の所在を示すように真っ黒になった咲良を明るく照らした。
「私が冷やします!」
姫子は水流を作って咲良を冷却し始め、
「私がキャッチするわよ!」
茜が雷の道を作って天高く跳躍し、咲良をしっかりと抱いた。
「あんた無理しちゃって……!」
「エヘヘ……だってさ……」
「いくわよ!?」
まことはそんな2人を柔らかい風で包み込むと落下速度を緩めた。
「最後に私が!」
四季彩は大地に気を送り込み、落下地点をプリンのように柔らかくし、2人を無事地上に着地させた。
「見事な連携じゃ!」
巌鉄斉は誉めちぎると煌と共に最後の希望たる鍛冶ガールらを見詰めゆくのであった。
次回 終、虹がかかった先に見えたものにあなたは何を感じますか?