終28、浮上! 三条城!!
一同は巌鉄斉と無縁、それに姜月の悲しき過去を聞き終えると、知っていたなら自分は無縁を止める役目を担ったか、それとも無縁に味方したかを反問した。
「そんなことがあったのですね……」
「……ウム。ワシらが駆け付けた時には姜月は息を引き取っておった」
「なんだよそれ! 上層部とかってお偉いさんどもはその嘘っぱちの報告を真に受けたのかよ!?」
軍司はやるせない気持ちを激しく巌鉄斉にぶつけた。
「もちろん出鱈目であることはわかっていたさ。だから真相をワシも無縁も知っておる。その後、生き残りの神族らは厳しく処断されたこともな」
「なんだよそれ! 俺が言いてぇのはそんなこっちゃねーよ!」
「わかっておる! ワシも無縁も長い時間をかけ、姜月が残していった想いを拾い集めていた。そして無縁が出した答えは神魔転覆じゃった……ワシはそれは違うと思い、思い止まらせようとした」
鍛冶ガールらは思わぬ悲しみとやり場のない怒りの衝動にじっとしていられなかった。
「姜月さんのためにも、この世を平等で平和な世界に変えていくしかない!」
咲良の言葉に決意を新たにする。
その先にどんな困難が待ち構えているかも知らずに。
「そんなことがあったのか……」
「やりきれないわよね」
閃は伴峰と呟き合う。
煌も悲しい顔をし、一帆もまた同様に沈思した。
「悲しみは乗り越えるもの……」
海鏡の一言に龍神達は頷くしかなかった。
巌鉄斉の回顧録はそこに居並ぶ者全員に大きな衝撃を与え、同時に様々な思いを抱かせた。
影虎もまた生きる意味を強く求める者として重く受け止め、自分の愛する人を喪うやるせなさに思いを馳せてみる。
そんな複雑な表情を浮かべる影虎を見て山吉もまた今後どうしていくのか気にはなっていた。
(殿は咲良殿とどうするおつもりか……)
そこへ柿崎と鬼小島が馬を早駆けにやって来た。
「殿ぉ! 一大事にござりまするぞぉ」
「三条城が! 大変にござります!」
そんな事情など露知らずの猛将二人は喚き散らしたが全員に無視されてしまった。
「まぁ今の話は皆々頭の片隅にでもしまっておいてくれ」
巌鉄斉はそう言うと一人歩き始めた。
一行は続くようにゾロゾロと歩みを再開。息せき切ってやって来た猛将二人はポカンと置いてけぼりの憂き目に合うと、
「なんじゃ? 今の話とは?」
「さて……何故皆の衆は浮かない顔をしておるのやら」
疑問に疑問を重ねながら一行を追うのであった。
「我らもまた心を一つにし、姜月様の御遺志を受け継いでいかねばならぬ」
魔族の代表はそう皆々に呟くと、悲しみを抱きつつも新たな世界に思いを馳せ、希望と平和への道を神族、それに人間らと突き進もうと決意を固めた。
そしてそれは神族も同様、そして人間達もまた認め合うための努力を怠ってはならないのだ。
「えぇーーー!? なにあれぇ」
信濃川を境に三条城と対峙した一行は驚愕した。なんと城が大地から浮上していたのだ。
城の土垣から下は丸く巨大な岩石が全体を支え、そして徐々に浮かび上がって来たのだと山吉は言う。
「なにこれ!?」
久々のネオを発動した栞菜は、キラキラした瞳でウキウキしながらまことに問い掛けた。
「わ、わからないわよ」
まことは困り顔で茜と姫子を見る。
「ただのお城ではないのでしょうか?」
「う~ん……どう思う四季彩さん」
「皆目検討もつきません……」
咲良は山吉に駆け寄ると、
「ねぇ山吉さん、あの城って山吉さんが造ったの?」
山吉は丸太のような太い腕を組むと咲良の問いに静かに答え始めた。
「いいや、元々はもっと前に当時の領主が築城を始めたと聞いたが、実は曰くがあってな」
「もったいぶらず早う話さんか!」
影虎のいつもの性急さが出たらところで山吉は助作と格兵衛に指示して小舟を用意させた。対岸へ渡りながら話をしようという。
「助さ~ん! 格さ~ん! 久しぶり、元気だったぁ?」
「おぉ咲良さん、それに鍛冶がぁるのみんなも無事だったけ!」
相変わらず人の良い笑顔を振り撒いた2人は、小舟に一行を乗せると櫓を漕ぎながらニコニコした。
「しかし天女にでもなったようらのぉ。なんだかしょおしぃ(方言で恥ずかしいの意)れね」
「ハハハ! 茜が一番だよな! 助さん!」
「おぉ、軍司も無事だったんけ?」
「おうよ」
軍司が胸を叩いたところで中断していた話題に切り替わった。
相変わらず龍神らは空を、鍛冶ガールらは用意された小舟数艘に割り振って乗った。
神族魔族らもぞろぞろとその後をついて来ている。
山吉、影虎、巌鉄斉、咲良にまことは格兵衛の船に。
茜、軍司、天子、それに小島は助さん、栞菜と千恵と柿崎で一艘、姫子と白夜、それに新たに合流した嵐蔵で一艘といった具合に。
「実は築城の遥か以前に隕石が落下してきたとか。その隕石の真上に城を築いたのだそうな」
「隕石!?」
「左様、なかなかの大きさだったとか。永い年月を経て大地と一体化し、地盤はしっかりしていたというわけで、その上に築城したと言うわけなんだ」
「じゃあその隕石が城ごと浮上したということでしょうか?」
「そこが皆目検討がつかぬ。巌鉄斉殿はどう思われますかな?」
「うーむ……」
巌鉄斉は唸りながら浮上城を見上げたが言葉を発しなかった。
「おい天子ちゃん、あまり暴れんなよ! 船が揺れてるだろっ」
「だってさぁおもろいんだもん! キャハ」
「はいはい、いい子だから静かにねぇ」
「なんだか若夫婦のようらねっか」
「助さん! そうかなぁ? デヘヘヘェそうだよなぁ! デヘヘ」
「か、柿崎様!」
「お、おう、なんじゃな?」
「勇猛果敢なあなたを私は見ておりました!」
「おおぅ! そうか? ナハハハハ」
「栞菜は武将さんが好きねぇ」
「お父さん無事でよかった!」
「おぅ! 姫子もな。それに大蛇様も」
「私は姫子の手伝いをしただけですよ」
「?! 姫子?」
「私達、慕い合っているの!」
「…………」
「何か怖いですね……ハハ……」
「なぁんか楽しそうだなぁ」
「羨ましいの?」
「けっ! そんなんじゃねぇよ」
「じゃあ伴ちゃんて呼びましょうか??」
「やかましい! 一帆!」
「いいんじゃないですか? 龍神の結束のためにも」
「ほらぁ煌ねぇもあぁ言ってるんだし!」
「伴ちゃん」
「閃、てめぇ」
「伴ちゃん!」
「一帆、黙れ!」
「……伴ちゃん……」
「か、海鏡が喋った!? なんか最近やたらと話すようになってねぇか?」
「確かに。おそらく鍛冶ガールと出会ったからですね」
「なるほど。おい海鏡、もう一回呼んでくれよ!」
「……伴ちゃん……」
「おぉ! なんか知らんが海鏡が一番いい!」
『なによそれっ!!』
そんなそれぞれの愉しげな会話の中で咲良は、三条城を見上げるのであった。
次回 終29、ラスボスって最後に時限爆弾的な物を残しがちだよな