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 終27 姜月、昇天

 すべてを巻き込んだ黒龍・無縁の神魔転覆の夢は潰え、巌鉄斉による封印の儀によって無縁は新たに生まれ変わるために転生の旅へと出発していった。



 世界を巡察していた龍神達が舞い戻った時には、少女達は共に笑い合い、抱き締め合って喜びを分かち合っていた。

 その瞳にあとから取り留めもなく沸いて出てくる涙を抑えようともせずに。


「やっと終わったかぁ。疲れたぜ」


 早速その歓喜に乗っかって伴峰が悪態をつくと、


「終わりではないわ。これは始まりなのよ」


 と、閃は訂正した。


「えぇ、星の守護者達はこの地に新たな世をお造りになった。それは人も神も魔も平等である新世界……」

「でも彼女達にその自覚と覚悟はあるのでしょうか?」


 問いかける一帆に煌は笑顔を傾けると、


「今は信じるしかないでしょう。様々な協力があったとはいえ、実際に無縁様の野望を打ち砕いたのはあの娘達よ」


 そこで珍しく海鏡が口を開いた。


「私は信じる……」


 おっかなびっくり海鏡を見た龍神達に影虎が近寄る。


「そなたらの力添えなくば無縁には勝てなかった。感謝致すぞ!」

「なんでてめぇはそう偉そうなんだよっ」


 噛み付く伴峰と影虎の掛け合いはもはや名物となりつつあったか。


「はぁ~終わったね! 無事解決! なんでも鍛冶ガールにおまかせあれ!」


 いつもの呑気な咲良に戻ったのを見て、集った者すべてが腹の底から笑い合った。

 

 魔族、それに神族らもまた己の過ちを深く反省し、遥かなる昔からの怨嗟(えんさ)怨恨(えんこん)を消し去るべく手に手を取り合う。


 まだまだ時間がかかるであろうが、少しずつ歩み寄るに違いないと咲良をはじめ鍛冶ガールらは列び立つと心からの笑顔を振り撒いた。



 そんな中、急に笑いを納め真面目な表情になった山吉は影虎への報告のつもりで話を始めた。


「そうじゃ、殿にご注進! 我等領民を守るべくこの三条地域の守りを固めていたのですが、一つ気になることが御座いまして」

「どうしたんですか? 山吉さん」


 先に催促したのは近くにいた姫子だ。

 影虎は伴峰との諍いを中断すると山吉に向きなおり、顎をしゃくって続きを促した。


「我が居城でもある三条城が何故か光り輝いておるのです!」


「どういうことっすか!? 山吉さん」

「さてなぁ……ワシにも皆目検討がつかぬのだ、軍司殿」


「なにかありますね、巌鉄様」

「ウム。とにかく城の側まで行ってみようぞ」


 煌と頷き合った巌鉄斉と一行は、ぞろぞろと城に迎いがてら大多数が気になっていたであろう、ある人物について、皆を代表して巌鉄斉に訊ねたのはまことだ。


 神族も魔族も鍛冶ガールに習って三条城を目指す。まるで大軍勢の大行進だ。



「あの初代様、姜月(きょうげつ)とはいったいどなたなのですか?」


 それまで雑談やらワイワイガヤガヤと騒がしかった一団は急に黙り込んで聞き耳を立てた。


 空を移動していた龍神達もまた巌鉄と無縁の若かりし頃の話を興味深げに耳を傾けた。


「ウム。まだワシらが龍神となる前、大昔の話じゃが……」


 いつの間にか全員立ち止まり、車座になって巌鉄斉の話を聞いていた。

 神族魔族の中にはその事情を知るものも少なからずいるとみえて一応に悲しい顔をした。


「ワシと無縁は無二の親友でな。ある時、一人の魔族の姫と知りおうたのだ」





 若い龍族である2人は、いずれは龍神になるために日々研鑽と修行に明け暮れていた。

 互いの理想と希望を語り合い、辛く厳しい修行の最中、田舎の片隅で神族と魔族の小さい(いさか)いが起こった。


 その争いを鎮めてみせたのが魔族の姫であった姜月であった。

 その少女は魔族とは思えぬ程に清らかな瞳を持ち、穏やかで誰にでも分け隔てなく接する可憐な乙女であったとか。


 そんな彼女に巌鉄も無縁もほのかな恋心を抱き、そのうち3人で語り合うことが増えていった。

 姜月はいつも神と魔、そして人が平等に、そして平和な世の中にしたいと理想を鼻唄のように(さえ)ずった。


 そんな理想がいつしか共通の目指すべき夢へと変わる。


 さらに深く険しい修行をこなす二人をいつも難しい書物を読みながら姜月は微笑みながら見守る。

 そんな日々が続いていた。



 だが黄金の日々は儚くも突然の終わりを迎えることとなる。


 運命とはなんと残酷なものか、その日、巌鉄と無縁の両名は神界に戻っていて不在であった。

 青年とはいえ、強い力を持つ神族2人と姜月が行動を別にする時を狙ったかのように騒動が起こる。


 土着の神族らは魔族を忌み嫌い、人々を焚き付け、何の罪もない妖怪を捕縛し異端の者として断罪しようとしていた。それは魔族の姫である姜月を誘き寄せる手段だったのだが、そんなことを知るよしもない姜月は急ぎ赴く。



 無力な妖怪は縛り付けられた傷付けられていることに立腹した魔族は、その妖怪の救助奪還のために立ち上がりまさに一触即発。


 ここに強い力を持つ神族か、あるいは魔族がいたならば公平に裁きを降したのかもしれない。

 だが不幸なことにこの時、下級の両族と人間達しかいなかったのだ。


 そしてその場には怒りと憎しみに囚われ、蝕まれた醜い感情の渦しかなかった。

 互いを淘汰することしかなかったと言っていい。


 それでも姜月は対話での解決をすべく双方の間に入った。


「それぞれが思いを語れば理解し合えるはず!」


 その言葉は魔族側に響き一旦は矛をおさめたのだが、神族ならびにそれに迎合する形となった人間達は改めて下等な魔族の輩に深い嫌悪感を示し、痺れを切らした者が姜月に攻撃を加えた。


 武器を持たぬ魔族の姫に危害を加えた相手を、もはや許すまじとばかりに魔族側も総決起し血で血を洗う凄惨な戦いへと発展していく。


 姜月は額から流れる血を拭いもせず、それでも一人ひとりを宥め諭し無益な殺生を止まらせようと必死に声を大にして叫び続けた。



(あぁなんて私は無力なの…………)



 騒然となったその場で、神仏を心から信仰する若者がキラリと光る匕首(あいくち)を絶望にうちひしがれていた姜月の背面からグサリと押し込んだ。


 身体に電撃が走ったようにビクッとした姜月は、冷たい血が流れる感覚を感じながら悲哀に満ちた瞳を空に向けた。



(あぁ空はこんなに雄大なのに……大地はこんなにも美しいのに……そこに生きる者だけがどうしてこんなに穢れてしまったの?)


 清らかなはずの涙は鮮血と混ざり合い、酷く濁ったもののように姜月には感じられた。


(たなごころ)から受け取れるもの、そして届けられるものは沢山あるのに……」



 いつしか淘汰される者とする者とで終わりを迎えたその場は、文字通りの地獄絵図そのものとなり、姜月は崩れ落ちるようにその場に正座すると、


「い、生きた証を……こめんね。巌鉄、それに無縁…………」




 その後、生き残りの神族は上層部に魔族側からの突然の襲撃に合い、やむ無く応戦、敵方の魔族の姫を討ち取ったは人間の青年であり、神族の責任の及ばぬところと報告したのであった。

 



 次回 終28、浮上! 三条城!!

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