第一章 10、3色の輝きは絆となりけり
まことは今度も慎重に箱の蓋を開いてみた。
中身は以前まことが火花のイヤリングを作る時に使用した手鎚が五本入っていた。
「お祖父様、これは…………?」
巌鉄斉は、家に代々受け継がれし神器、黒鐵であり、何故五本あるのか疑問に思っていたのだが、スッキリしたと安堵の顔を浮かべ、五人の巫女が各々持つべきモノなのだと宣言した。
一同は自然と納得できた気がした。
五人の巫女、五柱神と五尽くめだったからだ。
「私達が過去へ行く前に黒鐵を鍛え直すということですか?」
と、まことは得心がいったように、目を輝かせて巌鉄斉に問い掛けた。
巌鉄斉は、錆び付いたままの状態では本来の力を発揮はしないであろうと言い、出立の日までに自身とまことで鍛え直すと言い放った。
それに対して栞菜と同じように瞳を輝かせたまことは張り切って返事をしたものだ。
そんな妹の張り切る姿を傍らで微笑んで見ていた柊一が、権爺なる人物と萬屋の面々を呼ぶために退出しようとしたその時であった。
「そういえば言いそびれていたことがあったんだわ!」
と、まことが興奮冷めやらぬといった体で大きな声を弾ませた。
「姫子ちゃん、あなた嵐川橋の上で火花に見えるって言ってたわよね!」
と、言うと最後に残っていたイヤリングを姫子に渡した。
その一言に巌鉄斉はギョッとし、柊一は驚いて足を止めて振り返った。
「ほ、本当か?! 姫子殿」
「姫子さんも火花に見えたんですか!?」
巌鉄斉と柊一が矢継ぎ早に問い掛ける。
戦国時代への妄想もほど程に、そうだったと思い出したように栞菜も身を乗り出した。
「私にもしっかりと火花に見えました! 私は青い火花に見えます」
そう言ってまことからイヤリングを受け取ると、両手で大切に包み込むように持ちながら見詰めていた。
同じようにまことも栞菜も自分のイヤリングを出して見てみる。まことには緑、栞菜には銀、そして姫子には青の火花が見えていた。
巌鉄斉と山吉、そして柊一は見合って深々と頷くと同時に同じことを言った。
『これで5人揃った!』
老いてなお血気盛んとはこのことか、巌鉄斉はがぜんやる気をだして柊一に早く権爺と萬屋を呼べと催促したし、山吉と姫子に少しでも多くを解読してもらい、権爺にはそれを複写。
それを元に萬屋に動いてもらうと一手二手先をも指示しだした。
そして最後にまことを急かした。
「さぁまこと! 早速ワシらは黒鐡の鍛え直しじゃ! 鍛冶場へ行くぞ」
こうなってはただのせっかち爺さんでしかなかった。
「よし、我々も三条伝記を読んでみようぞ!」
山吉が部屋に残る栞菜と姫子を促し、姫子がその三条伝記なる本を開いてみる。
栞菜はさっぱり読めないことは百も承知だったが詰め寄ってみる。
額を擦り付けるように三者は眉間に皺を寄せ合うのであった。
まことと栞菜が姫子と山吉に出会い、過去の緊急事態を知り、決意と期待にワクワクドキドキしていた丁度その頃。
咲良と茜はというと。
「うぇ~ん、全然わかんないよぉ~…………」
「あんた1学期なにやってたのよ!! ほんっとバカなんだから!」
「だぁってぇ~」
「泣いてないでさっさと解きなさいよ!」
夏休みの宿題が終わらない咲良は泣き、世話を焼く茜は鬼の形相で尻をひっぱたいていたのだった。
次回 11、再会!新学期は波乱の予感!?