第1話
ボクとレナンは握手を交わした後、共にアストライアCo.に入っていった。
‘知恵の能力者は右に、力の能力者は左に進め’
中に入ると左右に分かれて進めの指示と共に、大きな扉が2つ存在していた。
「わたしはこっち」
「ボクはこっち」
「お互い頑張ろう」
あっさりとした別れ方をして、お互い別々の扉に手をかけ、力強く押し、そして中に入っていった。
観客席が真ん中のステージを囲むように並び、坂のような斜面を築いている。どうやらここが第一次試験の会場のようだ。
ざっと1万人ぐらいはいるだろうか、緊張感が漂う雰囲気の中、ボクを見てざわつき出す人も見える。
「オイ邪魔だ!俺の前に立つな」
髪が赤く、短めに整えられた前髪、はっきりと見えるその大きな瞳はボクを睨んでいた。
「あ、ごめん」
「簡単に謝ってんじゃねカス!」
『カス……家庭環境のもつれからきているのか、それとも親が話す言葉がそうなのか、単純に苛立っているのか…』
その人の歩く後ろ姿を見て、そんな妄想を膨らませていた時、声をかけられた。
「ハルト君かな」
覗き込むようにしてボクの視界に入ってきたその人は、愛嬌を振りまくように素敵なスマイルをしていた。
「そうです、あなたは」
「ココア・スュクレと申します。あなたをニュースで拝見してから興味を持ちました。私と同じ人かもしれないと思い」
「…同じ人」
「あのニュースは不自然でした。【アドゥcorp.の失却】【力の能力者が知恵に勝ったという見出し】【ハルトと言う名前】これしか書いてない。どこの国の記事を読んでもこれだけしか載っていない。理由が無いんです。どうやって勝ったのか、なぜアドゥは負けたのかが書いてない」
「…」
「一般的に知られなくない内容であった」
「…」
「あなた覚醒したんじゃない」
「…知ってるんですか。覚醒を」
「言ったでしょ。私と同じ人かもしれないって」
『不思議な空気感を持ってる。愛嬌がある顔から、真剣になる顔。使い分けているのか、備わったものなのかはわからないが、コミニケーション力が高く、表情が豊か、会話に合わせて使い分けしている。警戒心がなく初めから壁を作っていないと言わんばかりのあの笑顔は初めての印象としては完璧…』
「私の声は聞こえるか」
試験管の声が会場に響き渡った。
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