萌え要素の取捨選択
『3.キャラクターを学ぶ。』その二。
なんだか面白い読み物が多くて、自分のエッセイのことなんてすっかり忘れていました。
他作者さまがたを見習って(?)自分もいつか書いてみたいなあなんて思います。
『ベルリン卓球日記~非リア留学生の異郷適応生存戦略~』
なんてタイトルで。フィクションとノンフィクションの狭間の話を。ニッチすぎるけど書いてて楽しいに違いない……いつか……(遠い目)。
それはそれとして。
オタク向け作品には魅力的なキャラクターが欠かせないのです。
『キャラクターを制する者は、なろう小説を制すんじゃないかー!?』
というのは強調しすぎですが、それでも登場人物は大事です。大事なのですが、その作り方に正解なんてありませんよね。言ってしまえば人それぞれです……
キャラ造形で一番楽な方法は、実際の人物をモデルにするという方法ではないでしょうか。
夏目漱石の『吾輩は猫である』に登場する水島寒月くんは物理学者・エッセイストの寺田寅彦をモデルにしているのでは、と言われていますね。
拙作出して失礼しますが、
『哲学者カント、現代日本で目覚める』
https://ncode.syosetu.com/n5458fn/
という話には哲学者のイマニュエル・カントさんががっつり登場します。この話を書く際、カントの人物像については一切悩みませんでした。ちょー楽でした。だって実在の人物だから。
でも多くの場合、小説書くためには架空のキャラを生み出さなければなりませんよね。
初心者作家の自分はここでちょー頭を悩ませるのです。どーすりゃいいのってなります。
この回では、自分がこれまで読み聞きしてなんとなーく頭に入っていた『キャラクターの作られ方』を文字にして書いてみます。アウトプットです。
たぶん、それほど的外れではないと思います。『みなさんだいたいこんな方法でやってるんじゃあないか!?』って感じです。
でもツッコミや自論展開などございましたら、ぜひ感想欄にて伝えていただければと思っています(強調)。
それでは内容に入っていきます。
予告通り、東浩紀さんの『動物化するポストモダン(2001、講談社現代新書)』のつまみ読みです。
この本の中で、東浩紀さんはオタク向け作品について論じておられます。
論旨は簡単にいうとこうです。↓↓
オタク向けの作品では、オリジナルとコピーの区別があいまいである。
本文から引用します。
『オタク系文化の作品は [……] 無数の模倣や剽窃の連鎖のなかで生み出されているわけだ。(pp.41-42)』
オタク系作品において、完全に新しいものをゼロから創作する作家なんていない。多かれ少なかれあちこちから拝借することで作品は成り立っているのだ、と。そういうことです。
これ、当たり前のことです。
ちょー面白い作品であっても、そのプロットはオリジナルではない。基本のプロットに従ってるだけだったりする。そんなことを前の章でも確認しました。
それと同じことがキャラクターにも言えます。オタク向け作品のキャラクターに関してはさらにその傾向が強いです。
オタク向け作品のキャラクターの特徴。それはいったいなにか。
そこで東浩紀さんが注目しているのは、『デ・ジ・キャラット』という作品です(pp.62-70)。
デ・ジ・キャラット……
98年に登場したメディアミックス作品です。アニメオタクの方なら主要キャラ三名を瞬時に思い描くことができるはずです。できない方はアニメオタクではない(断言)。
この作品、自分はなんとなく覚えています。たしか、小学生の頃。テレビをつけたら猫ミミメイドが目からビームを出していました。夕方の時間帯だったなあ。田舎だし、再放送だったかもしれません。
それが自分とデ・ジ・キャラットとの出会いであり別れでした。
デ・ジ・キャラットはキャラクターありきの作品です。主人公『でじこ』は某アニメショップの宣伝用マスコットキャラとして生み出されました。
キャラの性格も物語も、ぜーんぶ後付け。アニメもちゃんとした物語はないです。小学生の目にもわかるくらいには意味不明でした。
かしこい自分(小学生)はテレビを『そっ消し』しました。個人的にはギャラクシーエンジェルは好きです。
それはおいといて。
もしかしたら、自分がもう少し早く生まれて、思春期中学生くらいでデ・ジ・キャラットに触れていたら。自分もオタク街道まっしぐらだったかもしれません。
なぜか。
それはでじこが当時のオタクをめろめろにしたから。
でじこ(とその周りのキャラ)がちょーかわいい。ただそれだけの理由でデ・ジ・キャラットは流行りました。キャラクターの魅力で売れたのです。
でじこの魅力。かわいさの源。その秘密はどこにあるのか。東浩紀さんは、でじこのキャラクター性を以下のように評しています。↓↓
『でじこのデザインは、デザイナーの作家性を排するかのように、近年のオタク系文化で有力な要素をサンプリングし、組み合わせることで作られている。(pp.65-66)』
東浩紀さんの論述に反対する意見もあるようですが(ソースはあとがきのWiki)、じっさいのところ、議論の影響力は東さんのが上ですなあ。
でじこのルックスは、当時流行していた『萌え要素』の集合体です。アホ毛、猫耳、鈴、緑色の髪、猫しっぽ、メイド服、ケモノ手足、謎の語尾。
作家性というものを排除して、萌え要素の権化として上手にデザインされています。
でじこを例にとって、東浩紀さんはだいたいこのように言います。↓↓
キャラクターとは『萌え要素のデータベース』から作家が任意に取り出した要素の組み合わせだ、と。
一人のキャラが生み出されたり流行したりすると、そのキャラクターはただちに萌え要素に分解され、萌えカテゴリーの一つとして『萌え要素データベース』に登録されます。作家さまは『萌え要素データベース』からお気に入りの要素を取り出して使うことができる。
……萌えってこれだけ書いたのはたぶん人生初めてです。あと東浩紀さんは『萌え要素データベース』じゃなくて単に『データベース』って書いてます。
もちろん萌え要素データベースというものが存在するわけではないです。それは作品に触れる方々の頭の中やインターネット上にぼんやりとあるものです。
萌え要素データベースに©なんてありません。存在しないのだから。
そうして、とあるキャラクターが一度流行すると、その魅力的な部分が萌え要素としてデータベースに登録され、近い要素を持ったキャラクターがどんどん作られていくという現象が起きます。
『レイ (新世紀エヴァンゲリオン) の影響のもとで瑠璃子 (雫) が生まれ、その両者の引用でルリ (機動戦艦ナデシコ) が作られ、さらにそのパロディとしてつばめ (アキハバラ電脳組) がデザインされた、と系譜をたどってみてもそんなに誤りではない。(p.73)』
らしいです。
()内は作品名です。自分がつけました。エヴァンゲリオンに登場する無口キャラ、綾波レイがかわいいので、似たようなキャラが他の作品にも登場するようになった、と。そういうことです。
なろうでいうと、悪役令嬢という要素がこれだけ量産されてるのを見れば納得かと思います。
『小説を読もう!』で『悪役令嬢』ってタイプして検索してみたところ、8068作品が該当しました(2020.1.27)。
悪役令嬢は8000人いる!?!?
「「「(扇子で口元隠しながら)おーっほっほっほっほ」」」×8000!!!
それは暴論ですが、そういうことにします。それだけ再生産されている。
約8000人いる悪役令嬢の中でオンリーワンになるのは至難の業です。『悪役令嬢+専門知識』とか、『ウケを狙ってパロディとかお下品に』とか、メタ視点に立ってみるとか。
そんなことを試しても、きっともう書かれてますね。それにこーすると悪役令嬢読みたい層から外れることは必至。作品の方向性を見失いかねない。下手をすればジャンルファンからご指導のメッセージを頂くことになります。
ちなみに自分はパロディっぽいのを書いてみましたがもうずっと非公開にしてます。方向性見失ったからです。パロディとして失敗でした。それでもアクセスがあってあまつさえ感想までくるんだからなろうの人はやばいです。
と、話が逸れました。
そんな感じで、オタク向け作品は模倣とパロディの連鎖の中で成り立っています。引用文↓↓
『ある作家が別の作家の作品に影響を受け、それを引用し、ときにパロディにする。そういう発想。(p.73)』
その連鎖が網の目のように広がっています。当たり前すぎて、
『いわれるまでもねぇ、それがオタクってもんよ……』
と思われるかもです。はい。オタク向け作品とは『そういうものだ』と受け入れるしかないです。
キャラクターAが流行すれば、似た要素を持ったキャラB、C、D……Zが生み出されますし、最初(のように見える)キャラAも、それ以前の作品群A´、B´、C´……を土台にしています。
逆に言えば、『それっぽいキャラ』を生み出すのはそんなに難しいことではないかもしれません。
今何がウケているのか、自分はどんなキャラを魅力的だと思うか。しじょうちょうさしつつ、有益な要素を自分のキャラに取り入れれば、きっと『それっぽいキャラ』になるでしょう。
そうすることでキャラクター造形の困難さは軽減するはずですし、運が良ければ読者さまもついてくれるかもしれない。
初心者作家の自分はそれでも頭を悩ませるのですがね……とにかく、そうすることでキャラクターを作ることはできる。たぶんみなさんそうしてる(はず)。
言い方を悪くすると、作家とは『良い萌え要素』と『悪い萌え要素』を選別する装置です。
ここでの『良い悪い』の判断は、各作家さまに委ねられています。悪役令嬢でもいいし、ブタでも百合でも発達障害でもいいです。それは作家様が何を書きたいかに委ねられています。
作家様が『自分の作品にとって有益』と思った要素を取り入れることで、それっぽいキャラはできます。
正直、初心者作家はそれで十分だと思います。これは妥協ではないです。もちろん本気で悩んで書きますが、一方でそれは初心者なりのあれでもあります。練習を兼ねた本番、みたいな?
少しの野心は必要かもですが、いきなり魅力満載萌え萌えキャラを書いてたくさん読まれようとかいうのは無理があります。成功例もあるかもですがそれは一握りです。天才か、入念に下準備をした結果だと思います。
キャラクターの要素をいろいろ考える過程は楽しいですしね!
パッチワークとかニットのダーニングとか、そんな手仕事をしている気分です。自分は。
どの要素をどんな風に取り入れるか。そこに作家さまのクリエイティビティも垣間見れます。
『ほーこの作家さんはこの要素をこんなふうに取り入れるか』
と、読んでても楽しいです。そしてブタや発達障害といった要素は、それだけでなんらかの『オーラ』があると思います。好みは別れるかもですが。
一方で欠点もありますね。
前回も書きましたが、『それっぽいキャラ止まり』になりやすい。オーラを纏わないキャラになりやすい。有名キャラと比較される。
当然です。キャラクターとは既にある萌え要素の集合体に過ぎないのですから。萌え要素データベースから作り出したキャラは、言ってしまえば二番煎じです。そこにオーラを与えて、生き生きとした人間に仕立て上げるには、『それなりのなにか』が必要なのですね。
『それなりのなにか』について、次回書いてみたいと思います。
ちょっと、いやかなり自論が入ります。しかも初心者作家の自論ですので、まあその程度のあれあれです。
あ、完全に新しいキャラを生みだそうだなんて、そんな大それたことは自分は最初っから考えてないです。そんなのは天才さんのやることです。
参考資料
怒涛のクリスマス休暇ーリア充は一日にして成らずー
作者:陸 なるみ
https://ncode.syosetu.com/n4711fz/
まごうことなきリア充小説。勝手に対抗してドイツの非リアはどう生き残るか書いてやろうかと思いました。
SA・ピエンス・ブタ史 ~第八惑星創造戦記~
作者:黒鯛
https://ncode.syosetu.com/n0568fz/
おもしろ卓球小説、じゃなくてブタVRMMO。このジャンルは初めて読んでます。ブタ属性おもしろいです。
♪♪♪♪ サイタマシントシンノ唄 ~クローズド就労で働く発達障害者の苦悩~ ♪♪♪♪
作者:島崎藤村の三毛猫(扁桃体の奴隷)
https://ncode.syosetu.com/n2686fz/
自分の目標であり追っかけの対象である扁桃体の奴隷先生の新作。発達障害百合属性は万人受けはしないかもしれませんが、先生の作品は構成がいつもおきれい。先生が筆をとる限り、自分は追っかける所存。レビュー喜んでくださったようでしあわせです。
デ・ジ・キャラット
https://ja.wikipedia.org/wiki/デ・ジ・キャラット
2020.1.27