『ガラスノハヘン』
パリン。
何処かで音がした。
振り返ると、ガラスノハヘンがパラパラと空から降って来た。
大きく目を見開く。
ハヘンに何かが大量に移っている。
この星にあたしが生み落とされてからの、記憶全てだ。
あたしが割って来たガラスの全てだ。
駆け抜けて来た日々。
あの衝動。あの青春。あの感覚。
まっさらな青空から急に降って来た。
それはある夏の日だった。
ジリジリと照り付ける真夏の太陽と、雲ひとつない晴れ空。
広がる緑の草原。サワサワと吹き抜ける風。
そして、あたしの瞳にしか移らない
大量の「ガラスノハヘン」。
瞳を閉じる必要は無い。
サンダルにガラスが刺さる心配すら不要だ。
何故ならそれは記憶だからだ。
あたしはハヘンの一部を拾い上げた。
どのハヘンもキラキラと光り輝いて見えた。
音が、色が、温度が、感触が、映像が、
流れ出るように瞬時に次々と映し出される。
あたしは好奇に満ちた瞳で夢中になって其れ等を見渡した。
反感を買おうが憎まれようが
理解者がいなかろうが味方がいなかろうが
あたしはあたしなりの青春を、仲間達と供に全力で駆け抜けて来た。
無鉄砲に。破天荒に。向こう見ずに。
この輝かしい日々も、年月が経てば経験出来なくなるのだろう。
いつの間にか、川縁の方からヒグラシの鳴き声が聞こえて来た。
ー さっきまで真夏じゃなかったのか? ー
あたしは微笑しながら、オレンジに暮れる夕空を見上げ、暫く眺めた。
あたしの夏は、青春は終わりを告げようとしていたー…。