1-6 テオからの問い
ビンゴ大会やテオの職場の人たちや商店街の人たちの余興も終わり、パーティーも終盤となっていた。
終盤になっても、元気にはしゃぐ村の子供たちや、話しながら爆笑しているテオの鍛冶場で働いている面々、酔いつぶれてぐったりしている魚屋の店長など。ユーマはその光景を見ているとなんだか恵まれているなと思っていたが同時に、嬉しさと謎の罪悪感のようなものが混じりあっていた。
そんな複雑な気分を持っているユーマは今回のパーティーの主役であるが、外へ出て村長の家の裏口の階段に座り、夜風に当たっていた。
最近修行ばかりで人との関わり合いが少なかったせいなのか、自分が想像していたよりも熱かったパーティーの活気か熱気にあてられたのか、少し疲れて体にだるさを覚えていたのだ。
「さすがに疲れた。いくら修行してもこんなことで疲れてちゃ、元も子もないな」
ユーマはグラスに入っている水を一気に飲み干した。今日は何故か、異常に喉の渇きがはやいのである。人が集まっているところにいるからだろうか、と彼はそんなことをぼんやり考えていると、後ろから声が聞こえた。
「お水、もう一杯飲みますか、魔王様?」
「はあ、もしかして、からかってる?父さん」
嫌味な口調で裏口のドアから出てきたのは、酒のせいでほんのり顔を赤くしているテオだった。
「今回の主役が疲れて外で休んでいると思って元気づけようとしただけだぞ~?良い父親を持ったなぁ」
テオは酔っているのか、少し声を高めにして話している。ユーマはテオがかなり酒に強いことを知っているため、今の彼の様子を珍しいと感じていた。
「自分で言うなよ……」
「まあまあ、細かいことは気にするな。声をかけたのは、ただお前と2人で話せるかと思ってだな」
そう言ってテオはテンションをいつもの調子にし、大きなジョッキに入っている酒をぐびぐびと飲んでいた。
テオの見た目的にはワイングラスが似合いそうな感じであるが、右手に握っている大きなジョッキは全くもって似合っていなかった。
「で、2人で話す……だっけ。どうしたんだよ、急に」
「ああ、最近は仕事が忙しくて家にいる時間が短かったからな。お前も修行によく行っているし全然話してないなと思ったわけだ」
テオはゆっくりとユーマの横に座り、また喉に酒をとおす。よっこらせと腰を重たくしているところを見ると、この人も身体は老いていくのかとユーマはしみじみ思っていた。
「父さん、そんなに飲んでると体に悪――」
「ユーマ、お前は本当に魔王になるんだよな?」
ユーマが半分冗談のつもりで言った一言は、急なテオの真面目なトーンの言葉に遮られた。
「……いきなりだな」
ユーマはテオの言葉に反応し、態度を隠して少し落ち着いた雰囲気を醸し出していた。その態度を偽装している様子は彼の目を見たら誰もがわかるだろう。
何か遠くのものを見つめるその目を。
「なんだ、答えられない理由なのか? もしかしていやらしい理由!?」
テオはニッコリと笑い、からかうようにユーマの様子をうかがった。そんな彼のうかがいに対してユーマはアホなのかというような驚いた顔をし否定する。
「ちげーよ!?」
「冗談だ。なに真に受けてるんだ」
なんつー父親だよ、とユーマは肩を落とすと、テオの問いに対してやっと答えを口にした。
「当たり前だよ、そのために今まで頑張ってきたんだし」
彼は強さに憧れた。あの魔王の姿に惚れて。彼が魔王を目指そうと改めて思うたびに、激しい炎の中に凛とたたずむあの赤紫色の髪の王が目に浮かぶ。
ユーマは憧れの人物の姿を思い出していると、テオからまた質問をされる。その内容はユーマが想像もできないような内容だった。
「……お前が魔王になりたいのは、勇者を恨んでいるからか?」
「は……?」
テオの顔は酔いから醒めてきたのか、もう赤くなくとても真剣な顔つきをしている。弱めに吹いている風の音がよく聞こえ、一層彼の真剣さを演出しているようだ。
「いや、そんなわけじゃないよ。前にも言ったと思うけど、単純にあの強さに憧れたんだ」
「そうか……」
ユーマの答えにテオは何かを掴んだような顔をした。そしてすぐさま質問をする。
「じゃあ何故強さに憧れる?」
「……」
その言葉を聞いて、ユーマの体は一瞬硬直した。彼の表情に驚いた様子はないが、膝に置いていた手はぎゅっと何かを握りしめているようになっていて、力を緩めずそのままだ。
テオはそれを見逃さず、問い詰める。
「お前は……」
「父さ――」
硬直が治りすぐにユーマは反論しようとするが、またもやテオの言葉に遮られた。
「あの事件、村を襲ったあの出来事の贖罪のつもりなんじゃないのか?」