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「ユウシャ」と「マオウ」を兼業する方法。  作者: あおいみき
第1章 「魔王志望」ここに在り。
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1-4 勇者候補

 とっておきの口説き文句は一蹴されたが、ユーマは気を取り直してさっさと行ってしまったレラに追いついた。


 彼が何度も謝り、許してほしいという交渉をした結果、「じゃあ、これからはなんでも私の言うこと聞きなさい」という答えが返ってきていた。


 それはこれからずっと、ということではないですよね? のようなニュアンスの言葉をユーマが投げかけようとしたら、彼女は何かを察したのかきつく睨んできた。

 さすがにこれ以上交渉の時間を延ばすと許されない気がしたのか、彼はもういっそ気にしないことにした。最悪そんな約束なかったことにしてしまえばいいのだと思ったのである。


 道が暗い森に差し掛かってきたときにユーマがそんなことを考えていると、レラが彼のスピードに合わせるように歩き、横に並んできた。


「改めて聞くことじゃないとは思うけどさ、ユーマって本当に魔王を目指してるの?」


「逆に今までの僕の生活を見て魔王を目指していないように見えるのか?」


 彼自身、魔王の修行をひたすらやってきたと思っている。

何故なら師匠に組まれた『短期間で魔王の席に座った私が考案したとっておきトレーニング』をちゃんとやってきたのだ。これが魔王の修行に見えないわけがない、そう確信していたのだ。


 しかし次の彼女の言葉によって、確信に亀裂が走った。


「私はユーマが魔王目指してるって知ってるからまだしも……。あんた、きっと村の皆にユーマが勇者候補として選ばれるように修行してる! みたいな風に思われてるわよ」


「……え」


「え、じゃないわよ。まあ、村長とかあんたのことを詳しく知ってる人はわかるかもしれないけど。まず魔王の修行なんて、する人の方が珍しいわよ。ましてや人間が」


 そこは否定できなかった。それは彼もなんとなくは思っている。人間で魔王になったのはザウルさんや師匠を含めて歴史上では5人なのだから。


「そ、それでもさすがに勇者候補の修行とは思われないんじゃ……」


 ユーマの言葉を聞いた後、レラは「それもそうね」と同意はするがそれでも不可解そうに眉を八の字にしながら答えた。


「でも、そこはわたしにもよくわからないわ。確かにこの村の住人の半分くらいはまだ勇者候補に対して良い気持ちは持たないでしょうけど。でも確か何年前かは忘れたけど、勇者候補がこの村で出てたって話だし、それでなんとなくユーマもって思ったんじゃない?」


 ユーマはそのような話は聞いたことがなかった。もしかしたら有名な人物にはならなかったのかなと思ったが、そもそも本当の話かどうかも分からなかったので彼はそのことは置いておくことにした。


「しかし、それはさすがに思い過ごしがすぎるんじゃ」


 彼は村の人たちの考えに肩を落としながらもレラに尋ねた。


「それは私も思うわよ。まあ、ユーマなら余裕で勇者候補までいけると思うけどね、剣の稽古つけてても正直成長の早さには驚いてるわ」


 やれやれとレラは軽いため息をついた。ユーマはそれを見て、指の先で頬を掻きながら弱い声で言う。


「いや、でもレラには勝てなかったからな」


「アンタが苦手な剣術で私に勝とうなんて100年早いわよ」


 彼女はそう言うと、少し胸を張りフフンと鼻を鳴らした。


 実は剣術の修行に関しては、ユーマはレラから稽古をつけてもらっていた。

 彼の師匠は魔法師のため、剣術はもっぱら出来ないのだ。一度だけユーマは師匠に頼み込んでみたが、「私に剣術教えてもらったら今より弱くなるわよ?」と脅されたほどだ。


 レラは家の中でも天才と呼ばれていて、才能だけならアーサーロッド家の中では1番とも言われている。さらに、二年前から実戦も経験しているため、彼が頼みやすい人の中では1番強かった。


「稽古は10か月ぐらいだったけど。あの時はまさか僕の頼みを聞いてくれるとは思わなかったよ、ダメ元だったし」


「べ、別にあんたのためじゃないわよ?」


 レラはごまかすように腕を組みながらプイっと顔をそむける素振りを見せるが、ユーマはそんな姿に目もくれず、稽古を思い出すように語りだしている。


「でも助かったよ。超スパルタだったけどおかげで剣術もかなり上達したし、レラの流派の技まで教わっちゃって。でもいいのか? 僕はレラがいる一派の人間でもないのに技を伝授してもらっちゃって」


「そ、それは! お、お父様が言ってたのよ! いずれはうちのむ……あ……ぅ」


 何かを思い出したのかレラは急いで口を両手で塞ぎ、顔を真っ赤にしてオドオドし始めた。


――レラって普段はこういう姿は見せないんだけどな。今日はもう二回目だ、珍しい。


「む……く……ぅ…………」


「む?」


 口を塞いだまま下を向いているレラを彼は覗き込むように見た。


「うっ、うるさいわね! なんでもいいじゃない! いちいち気にするな、この鈍感ノミ虫!」


 手でユーマを振り払い、彼女は顔を真っ赤にして叫んだ。しかし、暗くて視界が悪いせいか当てるつもりのなかったレラの手が彼の額に当たった。


「えぇ……逆切れかよ」


 レラの逆切れにユーマは額をさすりながら少し戸惑いはするも、すぐに話題を切り返す。


「話少し戻すけど、実際、僕は勇者候補なんかに選ばれないと思うぞ?まず僕は魔王志望なんだし。しかもあれって確か実績が必要なんじゃなかったっけ?」


──勇者候補(ゆうしゃこうほ)


 勇者候補とは、世界中の多くの国の長が集まる会議において選定される勇者になりえる可能性を秘めた人物のこと。


 選定される手順はこうだ。まずは強大な強さや大きな実績、才能を見出された人物が国によって推薦される。

 そしてその後に、この世界の象徴と呼ばれる神の樹が「何かしらの基準」によって決定する。その基準はその会議に参加している人物ですら一部しかわからないという。

 そうして神の樹が最終的にOKした人物が「魔王を倒す」という使命を下され、「勇者候補」という存在が完成するという感じだ。


 たまにその神の樹が直々に人物を選定し、勇者候補を決めることがあるらしい。そしてその勇者候補は特別な力や待遇を得られるとか。


「僕、なんか勇者候補って胡散臭い感じがするんだよな。まず神の樹って何だよ……」


 神の樹はユーマたちが過ごす世界を支えている樹だが、実際に見たことのある人物は決して多くない。国の上に立つ人物でもその中で選ばれた者と、勇者候補ぐらいしか姿は見たことがないという。


 そのことがユーマにとって胡散臭いと感じざるを得ない点だった。

「勇者候補を選定するってことはその樹が意思を持っているってことよね、なんだか不思議」


「魔神大戦を生き残った樹だからそんなこともあるのかもな。まあそれでも樹が意思を持っていて、その意思を人間たちに伝えるなんて……普通はおとぎ話でしか聞いたことがない」


 ユーマは怪訝そうに考えていた。なぜ樹なんかに人たちが信仰心をもっているのだろうか。意思があるといっても樹なのに、と。


「……そういえば何個か似たような存在が出てくる物語があったわね、『シルバード・レンの冒険譚(ぼうけんたん)』とか『最弱王と黄金色(こがねいろ)の一匹オオカミ』だったかしら」


 レラは唇に触れながら、過去に読んだ絵本や小説を思い出していた。


「『最弱王』シリーズは懐かしいな~、昔よく一緒に読んでたっけ」


 最弱王シリーズは世界でもかなり有名な物語である。

 戦で負けてばかりいた国の王様が、あと一回でも敗戦してしまえば国が崩壊するという時に、ある妖精を助けることになってそれを機会に様々な劇的な出会いがあり、戦に勝っていく話だ。


 この話の中で、妖精の紹介で王様は意思を持つ樹と出会うことになる。その樹の力と助言によって王様は世界を統一することになる。まさにフィクションじゃなきゃ起きえない物語である。


「そ、そうね」


 レラは恥ずかしそうに答えたが、彼は全く気にしていない。実際森はかなり暗く、あまり表情が見えなかったからであろう。


「あの時のレラはまだこんな凶暴じゃなくて、もっとおとなしくてとても可愛かっ──」


 ユーマが目を瞑りながら懐かしそうにしていると、彼のみぞおちに激しい痛みが走った。

 ユーマは腹を恐る恐る見てみると、拳がめり込んでいた。そのまま腕、肩と順に見ていくと、まるで狼のように獰猛な表情をしたレラの顔があった。


「今は可愛くなくてすいませんね!」


――誰も今は可愛くないとは言ってないのに……。


 そんな言葉を残す間も無く、ユーマは気を失ってしまった。

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