ある者の夢、そして絶望。
――僕は魔王になりたい。
なりたいと思った理由は……単純。
魔王の姿を見てカッコイイと思ってしまったからである。
部下からは慕われていて、強大な力がある。
たとえ悪いことをしているとしても僕はそのカリスマ性と力に憧れを抱いてしまった。
そんなのは若気の至りで一瞬で目が覚めると親や親戚の何人もがそんなことを言っていたが、18歳になった今でも魔王になりたいと本気で思っている。
そんなに悪いことがしたいのかと言われると、したいとは全く思わない。むしろ他人に対して良いことをするのは気持ちがいいことだ。
まず魔王が絶対に悪いことをするなんて誰が決めたんだ。そんなのはただの決めつけではないか。
実際に僕は良いことをしている魔王だって見たことある。
魔王がなぜそんな一方的に悪いもの扱いされなければならなのか、僕は不思議で仕方がない。
僕は魔王になりたい一心で今まで修行を積んできた。元魔王様に土下座してまでも弟子入りを申し込んだし、毎日魔法の勉強や走り込みも欠かさなかった。苦手だった剣術の稽古にも妥協を許さなかった上に、魔物の言語もマスターして話せるようにもなった。
魔王になれるなら、なんでもやろうと思えた。実際出来ることは努力を惜しまずにやったし、魔王になれるのも夢じゃないと自信も最近になってついてきたところなのだ。
――なのにどうして……
ねっとりとした絶望感が僕の頭に渦巻いていた。この状況を飲み込みたくないという脳からの信号なのか、吐き気も少しあった。
何故僕がこんな状況に陥っているのか本当に謎である。
王様の声がだんだんと遠のいていく気がする。
――何故この僕が『勇者』に選ばれているんだ。