093 本来の姿と不具合
六層までと同じように魔物に見つかる前に射撃で仕留め、数が多くて接近されてもラウリーとレアーナが対処して、七層も進んで行く。
「ね? リーネ、あれって……」
「ん。多分ゴーレムだと思う。どうなってるのか調べてみたい」
「ちょっ、リーネ? 危険かもしれないからそんなことしないでよ」
「うちの戦槌でも、あれとやり合いたくは無いかなー」
「そうなの! 攻撃が効きそうに見えないの」
全身艶の無い金属製の身長が七、八メートルはありそうなゴーレムは重い足音を立てて、双子達の前を横切って行った。
「んー……関節部分壊せば行けると思うんだけど……」
「リーネ、やめとこ?」
残念な様子のリアーネだが、尻尾の毛を逆立てているラウリーの言うことに従って先へと進むのだった。
程なくして下層への階段を発見し八層へ足を踏み入れたが、そこはまた上層とは受ける印象が変わっていた。
「何が違うんだろう?」
「判りそうで判らないもやもやすキャッ!」
八層へと降りて来た階段周辺を歩いているとロレットが躓いた。
「ん? ロット躓いた……あぁっ、床がガタガタなんだ!」
「え? あー……、ほんとだ。おっちゃん、もしかして?」
「あぁ。この先は階段周辺に扉を付けた以外は手が入って無いんだ。だからここからが迷宮本来の姿だ」
「足元、気を付けないとね」
「ん。進もう」
リアーネの示すとおりに迷宮を進んで行く。
迷宮内の壁も切り立ったものばかりではなく、荒々しく掘り抜いた岩肌の様子であったり、亀裂や段差、突端に染み出る水と、受ける印象からして大きな変化があった。
「この辺になると、色んな草も生えてるねー、あれとか食べられるかなー?」
「どれなの? あー、あれは葱っぽいの。持って帰って聞けばいいの」
と、言った具合に早々に魔物を狩って採取をする余裕もあった。
リアーネが前方に魔物が居ると手信号で知らせて来る。
ちょうど二股に別れている場所で、左右どちらからも反応を捉えていた。
魔物の数を考えて三体いる右側へは双子が、五体いる左側へはルシアナ、レアーナ、ロレットの三人で対処しようとサッと別れた。
そろりそろりと近付いて狙撃銃の照準器で捉えられる位置へと足を進める。
ラウリーも合わせる様に後に続き、位置取りが決まれば足を止めて狙いを付ける。
「敵は?」
「ん、猪。大きい。肩までの高さが二メートル近くありそう。……姿を隠す闇の帳よ、虚ろの姿で惑わせよ………『幻惑』」
岩の様にゴツゴツとした鎧をまとった様な猪の魔物、岩鎧猪がゴリゴリと音を立て体を擦り付け合っていた。
パパシュッ! カンッ!
リアーネが魔法を使ったのを確認し後衛三人が射撃を始め、前衛二人が続く様に間を詰める。
「ハァッ! タァッ!」
「セイッ! ヤーッ!」
走り込んだラウリーは、左目に銃弾を受けて倒れる岩鎧猪の横を抜け、その奥に居た岩鎧猪の耳元に突き込み切り払うと、ブギャーーッ! と、鳴いて暴れ始めた岩鎧猪に足を掛けてトンッと距離を取りざまに短剣も抜いて側面へと回り込んで行くむ。
幻目掛けて勢いよく走り込んだ岩鎧猪は壁に追突して目を回し、すかさずリアーネの放つ次弾が叩き込まれた。
ラウリーへと視線を向ける様にぐるりと身を翻した岩鎧猪は、実際の位置を通り過ぎて走り出し、ドガッ! っと、壁にぶつかり体勢を崩したところを両の短剣を突き込むが、いつの間にやら身にまとう岩の厚みが増していて、短剣を弾かれてしまうのだった。
ガァーーッ! ゴッゴッゴッゴッ!
重低音の咆哮を上げ、岩のような牙を打ち鳴らしラウリーを狙いすまして突進をする。
しかし『幻惑』の効果から抜け出せていない岩鎧猪は見当違いの方向へと走って行って先と同じく壁にぶつかり目を回すのだった。
「あー、今のうちっ、トーッ!」
ゴツゴツとした岩の隙間から短剣を突き込んで首や目、耳を切り裂き止めを刺した。
その頃にはもう一体の岩鎧猪もリアーネが仕留めているのだった。
「うわおっとー!」
レアーナの声が響いて来て、まだ戦闘が続いていると判れば、奥に魔物が居ないことだけ確認し、レアーナ達の方へと向かう。
カンッ! パシュッ!
ルシアナとロレットの射撃が止めとなってこの場の魔物は一掃された。
「あぁー、リーネ……魔物が変な方に走って行くから、上手く対処できなかったよ。あの魔法は失敗じゃない?」
「そうなの? 射撃する分には問題は無かったの」
「ラーリも大丈夫だったよ?」
「レーアだけじゃない? ボクだって問題なんて無かったよ」
「んー……。次は他の魔法にしてみる」
向かって来た魔物を待ち構え迎撃するようなレアーナの戦闘方法には向かない魔法であったのだった。
それからも何度か岩鎧猪と戦闘になったが先程の様な数は無く、対処も随分と楽にできたのだった。
「あー。猪は大っきいだけで戦闘自体はまだ楽かな?」
「ん。蝙蝠の方が厄介。『静寂』にするだけで倒せるけど、近付いてくるのに気付き辛い」
「あれ、リーネのその魔法でも無理? 結構魔物も捉えてるよね?」
「ん。飛んでるからか動きが不規則だからか、反応が薄くて遠くからは捉えきれない」
「それでも、完全な不意打ちにはなって無いの! 助かってますの」
「ん。この先、反応多数……多すぎ」
十分に警戒しながら進んで行くが、特に何かが居る様子は見られない。しかし、ゴーグルにも視界の隅を塗りつぶす様に魔物の反応が現れていた。
しばらく動かず確かめて行けば、迷宮の壁に反応していることに気が付くのだった。
「何だろこれ? ぬめっとした感じ?」
ゴーグルを持ち上げて確認したラウリーがそんなことを言いだせば、皆が同じ様にゴーグルを上げる。
「ん! 粘菌だ!」
「ほんとなの。はぁーびっくりしたの」
「えっと、危険は無いんだっけ?」
「確か、あれだ。迷宮の掃除をしてくれるんだよ」
「なら平気かな」
ほっとして進み始めた双子達に向かって、蜘蛛の糸が降り注いだのだ。
「わぁっ!」
「ん! 夜闇を払う光輝なるものよ、一時の灯りをもたらせ………『持続光』!」
リアーネが特大の『持続光』の灯りを浮かべると、それに驚いたのか六匹の山蜘蛛が落ちて来た。
ガチャリ。パシュッ! っと、素早くロレットが発砲し、続く様にルシアナと更に遅れてリアーネも射撃を始めた。
それに対して足を蜘蛛の糸で固定されたラウリーとレアーナは近付いてくるのを待ち受けて、間合いに入ればすかさず攻撃。糸が飛んで来たなら、武器で打ち払い何とか体の自由を確保していた。
離れれば後衛の射撃が中り、近付けば前衛が斬撃と打撃で追い払う。しばしも掛からず山蜘蛛の魔物は全て倒すことができたのだった。
「リーネー……」
「ん。純粋なる魔の源よ、穢れの悉を祓えたまえ………『浄化』」
『浄化』の魔法で絡みついていた山蜘蛛の糸はパサリと足元に落ちたのだった。
「もういないよね? この糸って残ってるけど素材になるのかな?」
「びっくりしたの………」
きょろきょろと周囲を見回し魔物が見つからないことに余計に不安になるラウリー達だった。
「まぁ、こんなこともある。弱い魔物で良かったじゃないか。それから糸は素材になるから回収しておけ」
「ん。心底そう思う。これは意外な弱点を発見できた。どうやって修正しようかな………」
リアーネはそう言ったきり、いくつかの魔法を粘菌に向かって使い、メモを書き付けたり魔法陣を作り出しては反応を見たりと、調査をするのだった。
そんな様子をラウリー達は仕方が無いと、お菓子を口にしながら周囲を警戒するのだった。
その後は菊華蝙蝠に辟易しながらも、なんとか九層への階段にたどり着いたのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




