092 特性継承と仮の姿
「魔物の少ないのかな? まだ一刻くらいだよね」
ラウリーが時計を見ながら疑問に思うのも仕方なく、本日の探索で五層に降り立つまでにかかったのが一刻程であった。迷宮を最短距離で踏破し魔物に気付かれる前に射撃だけで仕留めてしまっていたのだ。ラウリー達前衛の出番がほぼ無かっただけで、魔物の数自体はさほど変わりないということは、収集した魔石の数に現れていた。
「ボクらのおかげだって! まぁ、先に進もうよ」
「そうなの。迷宮内で何泊もする気は無いの」
「ん。じゃあこっち」
リアーネの指示によって迷宮を進む。
五層の地図を見たうえで進行方向の地図を再現し扉を開けて微修正。魔物の現在地もあらわとなって安全を確認し進み始める。
「前方……魔物同士で戦ってる? 猫さんだ」
「ん。頑張れ猫さん。……よし、勝った」
ふわふわの毛に包まれた丸くも見える猫の魔物が鎧蜥蜴と戦っていたのだった。双子達をチラリと気に掛け、倒して残った魔石に噛り付き満足そうな顔で去って行った。
「あれって、ボクらのこと気付いてるよね?」
「さっき、うちと目が合ったから間違いなく気付いてる」
「襲ってこないの。あ、行っちゃった」
「こんなこともあるんだねー」
「魔物は元になった魔獣の性質を引き継いでいると言われてるからな。俺も岩穴猫とは戦ったことは無い」
前方の奥行きのある広間を覗いて確認すると、七頭の狼の魔物がたむろしていた。体長二メートル程と一回り大きいが見覚えのある真っ白な毛並みは白珠狼に違いない。
「どうする? 行く? 別の道?」
「んー……、ここしか行く道が無い。準備しよう」
そう言って腰鞄から細くて黒い鋼索を取り出し、床上十センチ程の所に張れるように『石変化』で広間の入り口の壁に固定した。
「ん、こっちに引き込む。……迅速果断なリッシャォよ、威と速さをこの身にもたらせ………『敏捷強化』。天を奔る猛き輝きよ、衝撃をもって弾けよ………」
魔法も準備を終わらせたリアーネが頷くのを確認し、まずは後衛三人の射撃が始まる。
パパシュッ! カンッ!
「『雷球』!」
リアーネ達の魔法と射撃が放たれると皆は通路に引き返す。
突然の攻撃に三頭が既に形を崩し始めており、二頭が雷によって著しくぎこちない動きとなっていた。残った白珠狼は怒りを込めて咆哮を上げ光をまとって体勢低く五人へ駆ける。
ガァァァウォォォォッ!!
「ハァッ! とぉ、よっと、エイッ!」
ものすごい速度で飛び掛かってくる先頭の白珠狼は、張られた鋼索に気付かずに前肢を取られて盛大に転がり、慌てた後続の白珠狼の速度が鈍った。
ラウリーは迫った白珠狼を右の短剣で払い除ける様にして躱し、左の短剣で後肢を切りつけ様としたときには、既に間合いを外れていた。
グガァァァーーッ!
すかさず止まって向きを変え冷気を伴う牙で噛みつこうとする白珠狼を、振り向き様に短剣を返し連続して切り払う。
「ウーーリャーーッ!」
すかさず止まって向きを変え冷気を伴う牙で噛みつこうとする白珠狼を、レアーナが棍の端を持ち槍の様に突き込んで、先端に白珠狼を引っ掛けたままぐるりと回転させて床に叩き付けた。
ギャウンッ!
動きの止まった所をレアーナが更に棍を突き込み止めを刺した。
ラウリーは鋼索で転がった白珠狼への間合いを詰めて、起き上がる前に首元に斬撃を放って仕留めるのだった
後に残った動きの鈍い白珠狼二頭は弾丸を受けて形を崩していた。
「「「ふぅーーっ」」」
リアーネが鋼索を、皆が魔石を回収して、行動食という名のお菓子を食べて一息入れてから先へと進んで行くのだった。
それからも何度か魔物と遭遇するが、先程の白珠狼程一度に相手をすることは無く、射撃だけで対処されたのだった。
「やった、六層だよ!」
「ん。降りてから休憩」
「「「異議なし!」」」
「リーネ、この層はどんな感じ?」
「ん。これ」
双子達は六層に足を踏み入れて、リアーネの魔法が描き出した扉の先を見て今までとは違うことに気が付いた。
五層までと同じように整備されてはいるが、その割合は随分と低いと言えるだろう。これまでと同じように東西南北に綺麗に整えられているわけではないということだった。このことにより地図の作成がより困難になるうえに、戦闘のための空間と視界の確保の難度が上がったと言える。
床は水平、壁は垂直に整えられているだけで、通路の幅も一定ではなく長物を使うのにも一層気を付けねばならなくなっていた。
「うわー……、これってリーネが居ないとどれだけ探索に時間が掛かるか判ったものじゃないねー」
「その点、うちらは恵まれてるね」
「まったくなの。オスヴィンさん、これが迷宮のほんとの姿なの?」
「いーや。これでもまだ整備されてる方だ。特に床がな。足元が不安定だと、それだけで戦闘が不利になりかねないからな。まぁ、これだけ整備されてんのは指導迷宮と下級、中級迷宮の一、二層のみだと思った方が良いな」
閉鎖空間で魔物と戦うことに慣れること。次に本来の迷宮へと少しずつ近付けることで探索者の戦いという物がどんなものであるかを知るための場であるのだと説明が続いた。
途中出て来る魔物は、これまで戦ったことのある物ばかりで、通路の陰に隠れての射撃を中心にして危なげなく進むことができていた。
「何の音だろ?」
「ん。キーキー言ってるね」
「ほんとなの。耳障りな音? 鳴き声? なの」
「レーア聞こえる? ボクにはさっぱりなんだけど」
「いや。うちにも聞こえない」
「ん。何か来る! 早い。不規則」
そう言ってリアーネは銃を構え、遅れて皆も体勢を整える。
バサリと翼を翻し高所から目の前に迫ってくる大きな影を捉えた頃には、眼前に爪が迫ってくるところだった。
ラウリーは咄嗟に体ごと傾けて躱し様に短剣の斬撃を放ったが、不規則な軌道で飛ぶ魔物に当てることはできなかった。
レアーナも同様に躱しながらに手に持った棍を振り回し、間合いの変化に対応できなかったのか魔物に一撃食らわせて、地面に落とすことができた。
対して後衛三人は近すぎることもあり、射撃を諦め魔法の準備を進めていた。
「猛々しく荒ぶる風よ、空の断層を引き裂け………『衝撃波』!」
「天を奔る猛き輝きよ、衝撃をもって弾けよ………『雷球』なの!」
「ん。拘束されし風の澱みよ、その悉くを腕に抱け………『静寂』」
ルシアナとロレットが魔法を放つのを見届けてからリアーネが魔法を放った。
ルシアナの『衝撃波』により全ての魔物が一瞬硬直して体勢を崩し、ロレットの『雷球』によって、二匹の魔物が落ちて行った。そしてリアーネの『静寂』によって全ての魔物が壁にぶつかり落ちたのだった。
驚きに声を上げている様だが一切響くことは無く、ラウリーとレアーナは落ちた魔物に苦も無く止めを刺していくのだった。
「ん。蝙蝠が出るんだね」
「あっ! 聞こえるようになった! 良かったー」
「リーネ、先に言ってよ。びっくりするじゃない」
「そうなの! 魔法が使えなくなるの!」
「ん? 別に無詠唱でも使えるよ?」
「そうだったっけ? の割にリーネも毎回詠唱はしてるよね」
「ん。その方が魔法が安定しやすいし効果も高い。それに聞いてたら何の魔法を使うのか判るから、ラーリ達も動きを合わせやすいでしょ。だいたいリーネ達の詠唱は短縮版だよ?」
「「「そうだったの!?」」」
「学院でそんなこと教わった覚えないんだけど?」
「私は習ったことあるの! 古典魔法なの」
「うちら、その授業は選択しなかったなー」
「ラーリ達、リーネに選んでもらったの以外は、魔法授業、最低限しか受けてなかったねー」
「あとは、ボクらが気になったものだけね」
魔石の回収も終わって先へと進み、何度かの戦闘の後に七層への階段を発見したのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




