091 習熟訓練と他の班
パパシュッ! カンッ!
リアーネ、ロレットの狙撃銃の発射音とルシアナの弓矢の音が響き、魔物は魔石を残し形を崩していった。
「もういないね?」
「うちらが相手する暇が無かったねー、もう少し棍の練習もしたいんだけどなー」
「そりゃ、ボクらの装備が強くなったんだから、近寄られる前に終わらせるよ!」
「ふふー。私もリーネのおかげで役に立てるの!」
「ん。装備の強化は正解。三層に来るのに一刻掛かって無い」
「いやいや。お嬢ちゃん達は早すぎるよ。新人が迷宮を進む速度じゃないって。まぁ、それもその装備のおかげなんだろうが……」
五人は各々強化済みの装備を身に着けており、探索用のゴーグルが周辺地形や索敵も担ってくれるために、魔物が角から顔を覗かせるや否や行動を起こす前に攻撃するせいで、危なげもなく進んできたのだ。しかも銃も弓も威力が上がっているために、上層の魔物はほとんどが一撃で仕留められていた。
「前方敵」
パパシュッ! カンッ!
小さな部屋に体長十メートル近くもある四匹の蛇の魔物が居たのを銃と弓で三匹仕留め、残る一匹が接近してきた。
シャーーッ!
「一匹来た! 任せて。フッ! ハァッ!」
ラウリーは迫って来た蛇を飛び越えざまに両の短剣を交わらせて首を切り飛ばそうとしたが、冠の様な特徴的な頭部の角を切断するに止まった。着地後素早く離れて警戒すると、リアーネの射撃によって倒されたのだ。
「ありゃ? 切り飛ばした冠角が残ってるよ?」
「おめでとう。この迷宮で魔石以外が採取されるのは珍しいんだぞ」
オスヴィンの言葉にラウリーは尻尾を振り振り嬉しそうに素材と魔石を回収した。
「んーー………、他の迷宮はどうしてる? ずっと魔物を狩ってると素材は獲れないよね?」
「あぁ、攻略済みの迷宮は年の三分の一くらいの期間入場禁止になる。そしたらまた素材が取れるようになるからな。その期間だけ狩人に戻る奴もいるし他の迷宮に行くやつもいる。それに、階層の多い上級迷宮なんかだと何層から何層までって感じで時期をずらしてるから、全く入れなくなることは少ないんだ」
「じゃあ、未攻略の所は?」
「そりゃ禁止期間なんぞ無いさ。とにかく迷宮核を発見して設定を変える魔導具を使うことが優先される。設定さえ変えちまえば魔物の出現数を制限できるから、そうそう氾濫なんて起こらなくなるからな」
そういう物なのかと解った気になったラウリー達は通路の先に見えて来た扉を指した。
「ね、扉だよ」
「任せて。魔物の警戒は頼んだよ!」
そう言って扉へ向かい罠と鍵の確認を始め、何もなかったのでそっと開けて扉の先を覗った。東西南北に扉の付いた部屋になっており、奥に階段を見つけることができた。
三層での戦闘は六回とほぼ最短で四層への階段に到達した。
「よっし、みんな入っていいよー」
「休憩にしようー!」
「んー、下層の確認してからがいい」
「そうなの! もし魔物が入って来たら危ないの!」
四層へと下って行くとそこは正面南に扉があり左右の通路の先の北側にそれぞれ扉を確認できた。
「魔物は居なさそうだから、今度こそ休憩だー」
灯りの魔導具で周囲を照らし小さな卓を出して軽食を並べるラウリーと、コンロに薬缶をかけお湯の準備をするリアーネ。
ルシアナはこの間に三つの扉を調べて何もないことを確認するが、南側の扉に着いた時に勝手に扉が開きだした。
「なっ!?」
とっさに跳び退ってから弓を構えて矢に手を触れたところで、扉の向こうから現れたのが他の探索者だったことに気が付き、詰めた息を吐き出した。
「びっくりしたー」
「そりゃこっちの言葉だよ! 危うく切っちまうとこだったっての」
「ははっ、お前は何余裕の無いこと言ってんだよ」
「そうそう。俺たちゃこんな指導迷宮で燻る様な器じゃないって」
「まぁ、そういうことだ」
口の悪い同年代の六人組に指導員らしき探索者が現れて、一気に迷宮内が煩くなった。
「そっちも新人探索者? ラーリ達四層に来たばっかりなんだ。どこまで行ったの?」
「こっちは休憩の準備してるけど、一緒にする?」
ラウリーとレアーナの言葉にどうしようかと目配せをして、一緒に休憩を取ることとなった。
「俺はこの班の班長アードルフだ。お前らこの携帯食そんなに手に入ったのか? 美味いんだけど手に入らないんだよな。ほんとに貰ってよかったのか?」
弓を肩にかけて卓についた森人の男性、アードルフが卓上に用意されているコップにお湯を注がれている携帯スープを指さして聞いて来た。
「いやいや、それよりその顔に付けてるの兜って感じでもないしいったい何だよ?」
剣と盾を傍らに置き狼人族の男性、ファイゲンが双子達のゴーグルが何なのかと疑問の声を上げる。
「なんか迷宮の確認だとかで足止め喰ったけど、この階層には今日来たばかりだよ。え、君らも? じゃあ同じだね。三層までの探索に十日は掛かったけど、君らいつからここの攻略始めたの?」
銃を背負った人族の男性、ナッチーニが上手そうにスープを飲みながら地図の作製は難しいとボヤキながら聞いて来た。
「迷宮入るのは三日目だよね、リーネ?」
「うっそ!? まだ三日目!? 地図は? まさか適当に突き進んだんじゃないだろうな」
斧槍を脇に置いた虎人族の男性、エッカルトはラウリーの答えにナッチーニに地図を出せと卓に広げて、双子達の地図も見せてほしいと頼み込んだ。
リアーネはオスヴィンに預けていた地図作製機と『転写』した地図を差し出して、どういった物であるのかを説明した。
「うっわ、何だこの魔導具!? ずっけぇなー。って、え!? 自分で作った? 嘘だろ!? おま、それぜってー探索者やんなくても魔導具師やってる方がいいって!」
長槍を足元に置いた鷲人族の男性、カジェタノは、魔導具の性能に驚きを表す。
「お、お前ら、ちち、ちっこいのばっかりで、だだ、大丈夫なのか?」
戦棍を肩にもたれ架けさせた猪人族の男性、ディーターは、双子達が探索者として続けるためには、大型の獣人を仲間にした方が良いんじゃないかと心配を告げる。
思いのほか話が弾んで長めの休憩となったが、両者共に探索を再開するということで共同で先に進むこととなった。
「東も南も行き止まりだ。残るは西のみ。扉の確認は?」
「ボクが終わらせたよ」
「なぁ、お前ら灯りはどうした?」
「このゴーグル掛けてると灯りが無くても見えるようになるんだ」
「お、おぅ。そうなのか。すげーな」
そして、少しだけ扉を開けて迷宮の先を確認すれば、T字路の西に広間と魔物の反応を捉えたのだ。
「ん。東はずっと行って行き止まりみたいだから、西側の魔物の排除、誰がする?」
「何匹だ?」
「んー……一匹だね」
「ほんとかー? まだ扉出たばっかなんだけど?」
「まぁまぁ、ここはお手並み拝見と行こうじゃないか」
疑り深そうに言うエッカルトをアードルフが宥めて、双子達に先を譲る。
「じゃあ、ボクらが先に行くよ」
そしてT字路の角を盾に顔を出す様にして射撃して、鹿の魔物を早々に仕留めてしまうのだった。
「倒したの! リーネどっち行くの?」
ゴーグルを使うようになってから、リアーネは地図作製を魔法で行うようになっていた。
「ん。……南西の方へ行けばいいみたい」
「ほんとかそれ?」
「ん。扉や行き止まりまで、つながった空間は時間と魔力を掛ければ見通せる」
リアーネの掲げる手の先には四層のほとんどを描き出した地図に、自信を表す光点と不明な存在を表す光点を見ることができた。
「何だこりゃ!? え? 魔法ってここまでできるのか?」
「俺に聞くなよ。アードルフ、どうなんだ?」
「いや、俺でもここまでの魔法は聞いたことも無い。凄いもんだ。これは何をどう使ってるんだ?」
「ん?『空間測定』と『持続光』を魔力操作してるだけ」
「はぁっ!? え? だけって……。いや。うん。……ありえない」
リアーネの答えに頭を抱えて蹲るアードルフに、オスヴィンは仲間を見る様な目を向けた。
「ん。前方広間、敵二体。かなり大きい」
目視で確認できる距離まで近付くと、その魔物の姿を捉えることができた。まるで鎧をまとったような大きな蜥蜴が行く手を遮っている。
「今度は俺達が見せる番だ。行くぞっ!」
「凍結されし生命の終焉、凍てつく刃で刺し貫け………『氷剣』」
バスンッ!
まず放たれた魔法と銃弾が一体の鎧蜥蜴に殺到し、その頭部を撃ち抜いた。
それに遅れず残りの三人が武器を構えて走り寄り左右に別れ、鎧蜥蜴を引き付けたところに長槍を構えた鷲人族のカジェタノが飛んで突っ込み片目を潰した。すかさず離れ鎧蜥蜴を挑発。その内に残り三人で斬撃に打撃を打ち込んめば、それだけで仕留めきったのだった。
「出番無かったー」
「俺らだってそうだったんだよ。そんな声出すな」
分かれ道で、他方の警戒と進行方向の魔物の排除を交互に分担し、危なげもなく半刻程で五層への階段にたどり着いた。
「なんだこれ。早すぎだろ……」
「あぁ、これじゃお前らのためにはならんなぁ。お互い連携を取ること自体は経験できたんだ、共同の探索はここまでにした方が良いだろう」
指導役の探索者の言葉に同意を示すアードルフ達とは別れて、双子達の本日の探索は五層の扉の先を確認しリアーネが地図だけ作って帰ることとした。
五層から先の探索は泊まりを前提として行動した方が良いだろうと、街で食料、弾薬素材など野営準備の買い出しをすることとなった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




