090 武具改良と新装備
迷宮内の状況の報告を受けた組合は新人探索者の入場を制限し、迷宮の状態を確認するために人を向かわせるから数日は体を休めておけと帰されてしまった。
「で、リーネは何を作るの?」
「ん。迷宮内で必要になりそうな魔法が判って来たから、それを魔導具にする」
ルシアナ以外は面白そうだと集まって作業を手伝う。
「ん。魔物が居ることを事前に知ることができれば、対処がしやすくなる」
「魔物探査みたいな魔法ってあったっけ?」
「そんな魔法聞いたこと無いの。感知系の魔法と言えば『水探知』『音探知』『方向探知』『鉱物探知』『金属探知』『幻覚感知』『敵意感知』『植物探知』『動物感知』『精霊感知』『毒探知』『生命感知』『食料探知』『魔力感知』『魔法感知』『危険感知』……けっこういっぱいあるの」
「ん。あと『空間測定』『位置確認』『透明看破』『感知防御』『感知防壁』も感知系に含まれる」
「そんなにいっぱいあったの? で、何を使えば魔物を発見できるんだ?」
「普通にラーリでも見つけられる方法を魔法に置き換えるだけじゃダメなの?」
「うちらの能力を強化しようってことでしょ」
「ん。『生命感知』で魔物自体は捉えられた。植物か動物かが判れば何に反応したかを切り分けられる」
「じゃあ、後必要そうなのって敵意や危険があるかかな」
「魔力と魔法も判れば更に危険を減らせられそうなの」
「ん。その辺りをまずはひとまとめにしようと思う」
「ってことは、まだあるの、リーネ?」
「ん。リーネ達の夜目の効かない暗さとか透明に幻覚も厄介になる」
「後は、初日のリーネが地図作ってた時って魔物も一応捉えてたよね」
「そっか、空間を見れば動いてる物が判るの!」
「ラーリ達に判らないくらいの音とかもあるかな?」
「さっきロットの言ってた魔法だと……毒とか危険だよね」
「ん! そこは考えてなかった。レーアお手柄!」
魔物や生命、魔力などを感知する魔法をひとまとめにした魔法陣と、迷宮内の状況を読み取る機能をまとめた魔法陣を新しく作り出し、残りは地図作製機でも使った分析用、読み取り用、魔力集積用の魔法陣を利用して、一つの魔導具に仕立てていく方針を立てた。
軽銀の砂粒で目を覆う形状に整形し、魔法を重ねると白くなり透明に変わって行く。
魔石を薄く層にして極限まで細くした真銀で魔法陣を形成し、挟み込む様に軽銀で覆ってそこもまた透明にしていった。純度の高い魔石を使っていることもあり、一見すると全て硝子でできているように見えるのだった。
そして視界の邪魔にならない場所に五つの魔石を取り付けて、後頭部で止めるためのベルトを付けて完成した。
「ん。索敵ゴーグル完成。これで、地図作製機をいちいち確認しなくても大丈夫!」
「え? 地図も?」
「ん? 地図の保存はできないけど、周辺の確認ができるようにした。作成機は起動させて背負い鞄にでも入れておけば大丈夫」
昼食はレアーナの祖父母に叔父夫婦、従兄弟と共に摂ることになった。
食後のお茶の準備が始まったところで祖父のヴィヒトリが聞いて来た。
「そういやー、レアーナ達はまだ狩人用の武具を使っておったな。探索者になりたての新人としちゃ仕方のないことじゃが、この先探索者を続けて行くのなら武具の強化は考えねばならんぞ」
「そうなの爺ちゃん? えっと、リーネ知ってる?」
「ん? リーネも詳しくない。教えてくれる?」
レアーナは困ったように聞くが、リアーネは武具のことは鍛冶師に任せるつもりだったために詳しいことは知らなかった。
ヴィヒトリは今でこそ魔導車の大工房主だが、昔は探索者用の武具も沢山作ったのだと聞いて、教えを乞うことになった。
「まず、よくあるのが魔獣や魔物の素材に魔法金属を使った武具じゃ。これは普通の金属素材とは違った特性を持つようでな、切れ味が鋭くなったり、俊敏に動けるようになったりと元になった魔物なんかの特性を残すことができる。まぁ、武具職人の腕でどれだけ引き出せるかは変わってくるがの」
「んー……、本で読んだ気がする。魔導具の効力を高めることができるって」
「おぉ! そうじゃ。それと同じじゃな!」
「ラーリが剣鉈と短剣、レーアが戦槌、ルーナが弓矢、リーネとロットが狙撃銃だから、どうしたらいい?」
「まず、お嬢ちゃんは同じ型の短剣二本でそろえた方が良いじゃろう。そのうえで何か属性を付与するなりひたすら切れ味を追求するなり、強化の方向性を決めることじゃな。これは嬢ちゃんの戦闘方法に深くかかわってくる」
「うーん? ラーリの戦闘方法って言われても……」
「ラーリは身軽でしょ。とにかく躱して飛び跳ねて手数で攻める。その分一撃は軽くなってるっぽいけど」
「じゃあ、更に早くするか一撃の攻撃力を上げるかなの!」
「爺ちゃん、手っ取り早いのは麻痺させることじゃないの?」
「うーむ、一概にそうとも言えんのぅ。下層の魔物は毒や麻痺が必ず効くとも言えんからのぅ。相手に合わせられればそれに越したことは無いんじゃろうが、迷宮内でとなると難しいのぅ」
「ん。ラーリは敏捷強化と、切れ味を増す方向が良いと思う」
「俊敏で切れ味鋭いとなれば、最高峰は亜竜の中でも刃竜と呼ばれる奴じゃろうが、中型の翼竜じゃ。素材も無しに買うとなると大金貨が必要になるじゃろうな」
「うーわー……、リーネどうにかなる?」
「んーー………、厳しい」
「うわっ! 無理って言わない!? どんだけ収入あるんだよ!」
まだ見ぬ素材に思いをはせて、口座にあるお金のことへと意識を飛ばしたリアーネに、ルシアナは友人がいつの間にか思いがけない程に収入があることに驚きの声を上げるのだった。
「まぁ、刃竜も色々じゃ。運良く幼体が狩れれば中級迷宮くらいなら十分通用する性能になるじゃろう。今はそれ以前のことを考えにゃならんがな。幸いここは鋼の地底都市じゃ。魔鉱石の類も豊富に採掘されるから、そいつを使えばええじゃろう」
魔鉱石とは真銀を初めとする魔法金属の多く含まれている魔力鉱全般を指し属性を持つ鉱石なども含まれる。ラスカィボッツでは特に真銀の産出量が多く、各地の供給元になっていた。
「ん。風属性鉱石の翠晶と鉄竜石があれば使ってみたい」
翠晶は透明度の高い美しい翠の宝石としても扱われるため、少々値の張る素材である。
鉄竜石は重く強靭で粘りもあるために主に工具として重宝される金属が含まれていた。ただこれは非常に重い金属であるために大型の獣人が好む金属でもあった。
「わっはっはっはー! いきなりそれか! 一流どころが使うような素材じゃぞ。はぁー、解っておるんじゃろうな?」
「え? うちそれ知らないけど、硬銀より扱いづらいの?」
「そうじゃのう。鉄竜石は鉱物系素材ではおそらく一番強度があるじゃろうな。その分扱いも難しくなる。まぁ、やってみるとええじゃろうが……重い金属じゃから短剣に使うのはどうかとも思うがのぅ」
「ん? 重いんだ………じゃあ、筋力強化も必要になる」
「はっは。さらに強化するか! じゃがそこは、分けて考えた方がええのぅ。筋力が必要になるのは重い武器を使う時だけじゃ。しかし俊敏性の補助はそれ以外でもあれば嬉しい物じゃろう」
「そっかー。じゃあ、短剣に筋力強化、鎧か靴に敏捷強化って感じだね!」
「そういうわけじゃ。よくよく考えて装備をそろえるんじゃな」
「レーアの戦槌は迷宮内で使うには少し長いかのぅ」
「そうなの? 振り回してても大丈夫そうだったけど?」
「狭い迷宮もあるってことなの?」
「聞いたところではそうじゃの。じゃから予備として短い物を用意するか、棍にした方がええかも知れんのぅ。強化自体は堅く重くして筋力強化でもして威力を増す方向で良いんじゃないかのぅ?」
「爺ちゃん、棍って?」
「ただの棒じゃ。まぁ、迷宮で使うんじゃ、金属製なり魔物製の棒になるがの。そこそこの長さの物でも中心付近を持って両端で攻撃してもええし、端の方を持って間合いを伸ばすこともできるんじゃから戦い方に幅が出る」
「棍も使うとして、戦槌の強化で爺ちゃんのお薦めってどんなの?」
「戦槌の強化なぁ……、翼炎竜や翼岩竜の素材を使った物かのぅ」
「ボクの弓はどうすれば良い? それとも矢の一本一本を強化するのかな?」
「ふむ。弓自体も強化の対象じゃな。むやみに強くすれば引くことができなくなるから、よくよく考えねばならん。筋力強化も付けるのが手っ取り早い方法じゃな」
「ルーナのよく使う『雷撃手』みたいのを弓に付加しておくと良いの!」
「では、雷属性の付与かのぅ。あるいは苦手な属性を付与しておくのも有用ではあるんじゃが」
「や、ボクそこまで器用じゃないから」
「弓の構成はどうしたもんかのぅ。軽量化と金属と……くらいか。生命樹を弓幹に雷華狼と蜘蛛糸を弦に使えればえぇんじゃが、ここらじゃ蜘蛛の糸くらいしか手には入らんしのぅ」
小柄なルシアナのことを考えると弓の大型化は無理だろうなと頭を悩ませるのだった。
「後は私達の銃なの! 強力にし過ぎると反動で撃てなくなるの」
「ん。この威力強化弾が精一杯」
弾用の鞄から取り出した弾丸を卓上にバラバラと置く。
「ふむ。これなら属性弾を多数取り揃えておいても運用で何とでもなるじゃろう。後は弾を重くする、早くする。くらいじゃろうか? 銃弾は重くすれば威力が上がるが、鉛より重いとなるとどれも希少金属になる。鉄竜石もそうじゃが使い捨てるのはもったいない。切り札として用意しておくのは良いじゃろうがな」
「んーー………、なら、『重量増加』で大丈夫そう?」
「おぉ! 嬢ちゃんはそんな魔法も使えるのか。確かにそれなら銃弾製造用の魔導具、いや、銃の方に付けるべきか? 何にせよ改良で何とでもなるじゃろうな。嬢ちゃんの銃にはどんな魔法が使われておる?」
リアーネは首を傾げながらも対処策を出してみれば、思った以上に良案だった様だ。
「ん。『加速』『回転』『防音』『静寂』『魔力集積』。これだけ」
指折り数え上げるリアーネをヴィヒトリは髭をしごきながらどうすれば良いかと考えながら聞いている。
「聞きなれん魔法もあるが、なかなかのもんじゃのう。そこにまだ魔法を加える余裕はあるのかの?」
「ん、大丈夫。まだ小さな魔石一つしか使ってないし、容量に余裕もある」
「それにその銃ならば、まだ銃身を伸ばす余裕もあるじゃろう? その分『加速』も『回転』も効果を高める余地があるはずじゃ。魔物素材で強化するなら、例えば雷皇竜の角を使えば雷撃強化になる。疾風鷹の切り羽なら銃弾の加速の助けにもなるじゃろうが、まぁ、手に入ってから考えればえぇことじゃな」
そうして、五人の装備の改造に三日程掛かることになる。
レアーナも鍛冶について祖父の手解きを受けて嬉しそうにしていた。
その間に迷宮の確認が行われていたために無駄に過ごすということにはならなかった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




