089 多い魔物と罠の中
双子達一行は迷宮一層の南側の探索を続けるも、三十近くの部屋に広間を巡るがどの通路も行き止まりで、最初に開けた扉の部屋まで戻って来ることになってしまった。
この間に現れた魔物は五十センチ程ある蟻の魔物に、六十センチ程の甲虫の魔物、翅を広げた大きさが一メートル程の蛾の魔物、糸や石などで巣を作り天井からぶら下がっていた芋虫の魔物だ。
オスヴィンに聞いたところ元になったと思われる虫の名を取って、農耕蟻、鋼虫、雨傘蛾、雨傘蛾の幼虫で雨傘虫と呼んでいると教えられた。迷宮の魔物は他の地域でもおおむね元の魔獣などの名前で呼ばれることが多いのだという。
「ちょっと休憩しよー」
「ん。わかった」
警戒の魔導具を設置してから、行動食の準備を始める。
「えーっとね、迷宮に入ってから三刻くらいかな?」
ラウリーが腕にはめた時計を確認して言った。
「結構経ってるの。道理でお腹も減ってるわけなの」
「ちょっ、お嬢ちゃん? その時刻はどのくらい正確なんだ?」
「さぁ? リーネ?」
「ん。神殿の鐘より正確な自信はある」
「はぁっ!? そりゃ、他の何より正確な時刻ってことになるんじゃないのか?」
「まぁ、リーネの作ったものだし。んぐんぐ」
「だよねー。んぐんぐ。その時計冬の間に作ってたよね?」
行動食という名のお菓子を食べながら、レアーナとルシアナは適当に答える。
「テルトーネに来た探索者、みんな買ってたね。んぐんぐ。リーネも何人か頼まれたりしたの? うちも筐体の製造依頼が結構来てたみたいだけど」
「ん。最初に作ってあげた探索者の仲間の人と、パヴィルにウルマス、えっと……事務方のヘンリッキに、探索組の組長、くらいかな?」
カップに溶かしたスープを口にする頃にはオスヴィンはもう言葉も無くしていた。
休憩を終えてから東の扉の先を確認するも短い通路と罠を発見しただけで、東側にある北の扉を進み十以上の部屋を抜けて、ようやく下層への階段を発見した。
「やっと二層に行けるね」
「ん。思ったほど広くは無かった。学院の運動場くらいかな?」
リアーネは維持したままの地図を見て今まで調べた範囲から、迷宮のおよその広さを計算した。
「え? そんなもの? もっと広いかと思ってた」
「結構時間経ったよね?」
「今日はもう終わりにした方が良いよね」
皆の意見が一致して、本日の探索は終了となった。
リアーネは紙を取り出し、ここまでの地図を『転写』した。
「お嬢ちゃん……何でもありだな………」
「地図があると、すぐに行ける距離だって良く判るねー」
「ん。半刻も掛からず戻って来た」
日が暮れる前に組合に戻って来た双子達は、組長に報告するオスヴィンの評価を気にしつつも、待合室でのんびりとする。
しばらくしてやって来た組長が話しかけて来た。
「おぅ、嬢ちゃんの作った地図は見せてもらったが、ありゃすげえな。測量の魔導具やら大量に準備して作った地図と寸分違わねえできだった」
そう言って、組合所有の一層の地図と地図作製機とリアーネの『転写』した地図を卓に置く。
双子達も地図を見比べて改めてリアーネの魔法の制御力や魔導具の性能の高さに、ラウリーは誇らしく、他三人は感心するのだった。
「こっちの魔導具も大したもんだ。返しとくよ。それでだ、嬢ちゃん達の使ってる魔導具について教えてくれないか?」
「ん。錬金組合に魔法陣と本を預けたから、同じ物が作れるようになってる」
「おぉ! そうかそうか。って、ありゃー本人が組合に出向く必要があったはずだが、一緒に錬金術師が来てたのか?」
「リーネが作った魔導具だよ」
理解の追い付かない沈黙の後に本当のことかと大音声が轟いて、双子達は耳を抑えて蹲ることになってしまった。
◇
翌日、一層同様リアーネの誘導に従って迷宮を進むことになった。
リアーネの地図作製能力が評価され、魔導具の使用の許可が出たので『生命感知』の魔法を維持して行動することとなった。
「ん。地図の準備も大丈夫」
最短コースが判っていると、魔物との遭遇回数も減るために四半刻程で二層への階段にたどり着いたのだった。
二層への階段を下りた先は広めの部屋となっており南に扉が付けられていた。
ルシアナが調べて扉を開けて、その先を覗っていたと思えば弓に矢をつがえて引き絞る。
「見た感じ変わんないねー」
「まぁでも、気を抜いていいわけじゃないみたいだよ。天を奔る猛き輝きよ、我が掌より宿りて放たん………『雷撃手』」
魔法を唱えるとルシアナの両手からは細かな雷が周囲へ弾け、弓矢へとまとわりつく。
バジジッ! っと、放たれた矢は飛んできていた鋼虫に命中したとたんに鋼虫は落ちて通路の床を転がって来た。十字路の中心付近に来たところで突然天井から槍が降って来て止めを刺してしまった。
「えっと……? なに?」
何が起きたか判らずに見ていると、槍は天井に空いた穴の先へと引き込まれていった。
「罠、かな?」
「ん。ちょうどそこに罠の踏み床がある」
地図を見ながらリアーネが指をさした。
分かれ道では行き止まりの確認もして何度か魔物も狩って進んで行って、何度目かの扉が姿を見せた。
「リーネ、この向こう判る?」
「んー……沢山いる反応がある。広い部屋かも知れない」
ルシアナが扉を調べるも鍵も罠も発見されず、魔法の事前準備を終わらせ静かに押し開いて行く。
「暗くて見えない」
これまでと違って光源となる物が一切ない様で、夜目の効く双子達にも扉の隙間から差し込む少ない灯りの届く扉周辺の僅かな範囲を見ることしかできなかった。
「ん……、暗く静かな闇を揺蕩うモノよ、闇夜を見通す目を授けよ………『闇視』。これでどう?」
「見えるようになったよ、リーネ! さすがだね」
足を忍ばせ静かに扉を潜り周囲へと警戒の視線を向ける。
「この部屋、壁がボロボロだね」
「壁の隙間に隠れてるみたいなの」
「ん。何か居る。あの尻尾は鼠っぽい? とすると岩鼠かな?」
狙撃銃の照準器を覗いていたリアーネが尻尾を除いて六十センチ程ある魔物の正体を告げた。
短い通路の先には南に長い部屋が有り東に通路が続いている。
「ん。気を付けて。いくつかの部屋を繋いだ広い空間に沢山の反応がある」
東の通路の抑えに回ったリアーネ以外でまずは部屋の中の対処が始まる。
ヒュッ! パシュッ!
ルシアナ、ロレットの射撃によって数を減らしていくが、どれだけいるのかなかなか数が減らずに、接敵される。
「セイッ! ハァッ!」
「トリャーッ!」
ラウリーとレアーナが近付く岩鼠を切り裂き、潰し、弾いて行く。
「何だこの鼠の数は!? 俺も手伝おうか?」
「まだ手伝いが必要な程じゃないけど、自分の身は守ってて」
遠くの岩鼠を射撃で仕留め何とか対処をしていると、リアーネの側から光が漏れて来た。
「「「えぇっ!」」」
チラリと目を向けその光景に思わず声を上げながら飛び退ってしまい、岩鼠が噛みつこうとしたところを意識せずに偶然躱していた。慌てて切り捨て、ラウリー達は確認のために声を上げた。
「リーネ! そっち何やってるの?」
「ん? こっちからも鼠が来たから、『炎壁』を倒して通路に敷き詰めただけだよ?」
そこでは、駆け寄って来た岩鼠の魔物が火を避けようと飛び跳ねて、しかし飛べるわけではない岩鼠が何度も『炎壁』に着地する度、体が炎に嘗められて炎の中に倒れていっていた。
その中の数匹が『石柱』の魔法で足場を作り難を逃れるが身動きができなくなっていた。
岩鼠は近付くのを諦めて『石弾』の魔法で攻撃してくる。
「ん。自由な風現れよ、向かい風をもって盾となれ………『風壁』。こっちは任せて」
そう言ってリアーネは『風壁』で『石弾』をそらしつつ石柱上の岩鼠を狙い撃ち、炎の範囲を制御して通路を先へと移動する。広間に出ると火勢を強めて、広間一面に広げて行った。
その頃にはラウリー達の方の対処も終わり、魔石の回収も終わらせた。
「えっと、リーネ? ラーリ達の出番は?」
「ん? 魔石の回収お願いしていい? ルーナとロットは射撃、手伝ってほしい」
「あー、うん。わかった」
「ははは。これ、狙い易すぎだね」
「ただの的になってるの」
炎と『風壁』を維持したまま射撃をしては先へと進み、ついには全ての岩鼠を倒したのだった。
途中、広間の北側に扉が付いていたが、そちらに魔物の反応は無さそうだったので後回しにされていた。
魔法を消して地図を確認しているリアーネは、首を傾げながらも入って来た扉のあった広間に戻り、この罠を調べてほしいとルシアナにお願いするのだった。
「罠? いいけど。えっと……これが、こうだから………。よっし、解除終わり。って何だこれ?」
そこは落とし穴になっていたのだが、穴の底から石が積み上がり岩鼠が姿を隠すところだった。すかさずリアーネは炎の魔法で穴の中を燃やし尽くした。
「「「うわぁーー………」」」
あまりの光景に皆、声が漏れてしまった。
「んー………、やっぱり。オスヴィンさん? ここ、下の階層まで穴が開いてそう」
「はぁっ!? いや、確かに尋常な魔物の数じゃないとは思ったが、穴がある? 確かか?」
「んー……。じゃあ、生命育む清き流れよ、衝撃をもって弾けよ………『水球』」
特大の『水球』がはじけると穴の中は水浸しになり時間と共に水かさが減って行く。
「ん。これで、下の階層が水浸しになってたら穴が開いてることの証明になる……かも?」
「まぁ……そうか、な?」
自信なさそうに耳が倒れ気味に首を傾げて言うリアーネに、オスヴィンも自信なさげに同意するのだった。
一応、応急処置をしておくと言ってリアーネは『浮揚』で穴の中に降りて行くと『石変形』で沢山積まれた石礫を穴を塞ぐように平らに均して行ったのだった。
それから、一つ放置していた扉を超えて少し進んだところに三層へと降りる階段を見つけることができた。
「さっきの下だけ確認しようか?」
ラウリーの言ったように塞いだとは言え気にはなるため確認に向かうことになった。
「んーっと、南か西に行けば付けそうだけどどっち行く?」
三層へと降り立つとそこは広い部屋であり、東西南と扉が付いていた。
リアーネは二層の地図を見て行くべき先の予測を立てた。
「じゃあ、取りあえずは西行ってみよう!」
「ハイハイっと。えっと……うん、扉に罠があるのって初めてかも? っと、よし、解除っと」
「この扉って、組合が付けた物じゃないの?」
「そうだが、組合で付けた物でも迷宮核が変質させるのか、罠が仕掛けられることもあるんだ。だから開けるたびに調べるようにした方が良いな」
「そ、そうなんだ。覚えておく」
「ん、この先、魔物の反応多数。魔法の準備する」
「えっと、リーネ? さっきの奴?」
頷くことで返事としたリアーネの様子をうかがい、頃合いを見て隙間程に扉を開ける。
機を見て放たれた『炎壁』は扉の向こうを焼き尽くし、炎の範囲が奥へと移動するのに合わせて扉をあけ放ち、ようやく移動できるようになればリアーネは『風壁』を追加する。
「分かれ道なの。どうするの?」
「ん。こっちが正解だったみたい。もう一つ『炎壁』と『風壁』を作ってせき止めておけば大丈夫」
リアーネが先頭になり炎と共に歩みを進め更に一つ分かれ道に『炎壁』と『風壁』を設置し、『石柱』を作って難を逃れた岩鼠を射撃して移動を続けた。
「ん。ちょうどあのあたり」
指さした先は分かれ道となっており、沢山の石が積み上げられて濡れそぼっているのが遠目にも判る程だった。
「ほんとに濡れてたねー」
「じゃあ、今日はもう帰るか」
「はぁー。こりゃ報告しとかなきゃいかんなぁ。他になきゃいいんだが………」
一層と違って最短距離で三層への階段を発見するに至ったが、思わぬ状況に先が不安になる一同だった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




