085 バスの旅と輸送隊
フシャラハーンから西へと進路を取り谷底近くに造られた道を一日長距離バスに揺られて、夕暮れ時に到着したのは、龍の山脈より南にある連峰の麓の街プナィニョキだった。
周囲を山に囲まれて幾筋もの川を利用した水運によってこの地で採掘された大量の鉄の一部がテルトーネへも運ばれていた。
街の門の外に見える山肌の垂直に切り立った姿が視線を引き付ける。鉄鉱石を切り出した跡であり、夕日に照らされてより一層赤く映える美しい縞模様を見ることができた。
到着して休む間もなく牽引魔導車を切り離し、別に用意されていたトレーラーへと繋ぎ変える作業を早々に終わらせていた。翌朝には準備万端出発できるというのだから輸送隊というものは凄いのだなと感心しきりの五人であった。
まずはバス利用者向けの宿を取り、荷物を置いて出かけることにする。
この街は木材も豊富に取れるようで、木と石で作られた建物を多く見る。
鉄鉱石から鉄を抽出した後の石材を利用した物らしく建材以外にも使われている。
この地の狩人組合に顔を出して軽く挨拶し、迷宮のことを聞いてみると中級迷宮だと教えられる。この先のヴァローペアは下級の迷宮だから、移動予定地に含まれる指導迷宮のある街はラスカィボッツが最初になるのだった。
事前に聞いて知っていたこととはいえ、五人は少々残念に思いながらも早く着かないかと楽しみにするのだった。
それはそれとして、この地の狩りに参加しても良いのかと聞いてみると、よっぽど危険な魔獣でも現れたら手伝ってもらうこともあるだろうが、案内に人を付ける余裕も無いし、周辺の把握や他の狩人との顔合わせなどで実際に狩りに出るまでに三、四日は掛かるだろうと言われれば諦めるよりほかは無かった。
「おや、見ない顔だな。嬢ちゃん、用は何だい?」
錬金組合へと入って早々に受付に居る髭小人の男性に声を掛けられた。
「ん。魔法陣を預けに来た。手続きお願い……数が多いから別室が良いかも?」
「リーネ、五十個くらいあるんだっけ?」
「そんなにあるんだっけ? 魔法陣がちっさいことしか覚えてないや」
「ん。五十は無い」
首を傾げながら魔法陣の数を聞くラウリーにリアーネは軽く訂正する。
「……そ、それは多いな。解った、別室で見よう」
ずいぶんと沢山持ち込むのだなと驚きながらも双子達は促され、応接室のソファに着いて腰鞄から魔法陣の収められた箱と資料をまとめた本を取り出した。
箱の大きさから五十も入っているのかと不審に思いながらも髭小人の男性は留め金を外して蓋を開けた。
中には支持用の枠に収められた直径五センチ程の球形の微細に作られた魔法陣が沢山入っていた。
「こ、れは………見事というより、触るのが怖くなる代物だな」
「ほら、リーネやり過ぎなんだよ」
「ん? でも小さい方が無駄を省けるし、小さな魔石にも焼き込めるよ?」
「おじさん、魔法陣の周りに枠が付いてるの。摘んだ程度で壊れたりしないの」
ロレットの言葉で意を決し、魔法陣の一つを摘み上げた。
「おぉ、本当じゃな。しかし、こんな魔法陣、見たこと無いぞ。似た様なのはあったが、あれか? 複合魔法陣か」
「ん、そう。同系統の魔法は複合すると重複個所ができるから、そういうのを削って簡素化してある。今おじさんが持ってるのは、腕輪に付ける発動体用の火属性魔法陣」
睨み付ける様に目を眇めて見ているところへ、リアーネが何の魔法陣であるかを解説すると、当然疑問が出て来ることになる。
「なに? そんな物まであるのか? なんでまた各都市に既にある様な物まで用意したんだ?」
「それに変えてから苦手な属性の魔法でも、腕が上がったと錯覚するくらい使いやすくなってるよ。ボク火魔法とか苦手なんだけどね」
「一通り組合でも試作して試してみたら驚くこと間違いなしだよ」
「なるほどなぁ。で、この本が……仕様書になってると。登録の書類は?」
「ん。テルトーネで書いて来た」
パラパラと本に目を通しながら聞いてくる男性に、準備してると言って魔法陣の数だけある書類の束を差し出した。
その多さにうんざりとしながらも、魔法陣と突き合わせて確認した物から署名していく。
「利用料はどうするね。毎月でも出せるが?」
「ん。年に一度テルトーネの錬金組合のリーネの口座に振り込んでくれたらいい」
「年一回で良いのか? そりゃこっちとしても助かるが、これだけの物だ、結構な収入が見込めるだろうに」
「ん? すでにそれなりの収入はあるし、これからは探索者としての収入も見込める」
「嬢ちゃん魔導具師じゃなく探索者なのか!? これだけの物作っておいて?」
それらの魔法陣で作った魔導具も順に取り出し見せて行けば、男性は次第に自身の貯金を気にしだした。
五人は「自分も欲しくなったんだな」と生暖かい目で見るのだった。
その次に鍛冶組合では狙撃銃などの構造を登録し、食品組合、製紙組合にも話を通し錬金組合に魔法陣を預けてあることを知らせておいた。
変わった所では調理人組合で、プリンのパイ包み焼きなどいくつかのレシピの登録もした。新しい料理や菓子の登場に期待しての物でもあった。
空腹を訴え始めたので目に付いた食堂へと入ることにした。
食堂でも髭小人が多く、そのほとんどが酒を片手に宴会でも開いているのかという賑やかさだった。料理もそれに合わせてあるのか、品書きには味の濃い物が多く並んでいた。
薯と乾酪、腸詰めがよく使われているらしく、フォークでなんでも突き刺し食べる印象を受けながら、沢山盛られた量の多さに驚きつつも美味しさに笑顔になるのだった。
◇
プナィニョキを出発し道中、休憩所として作られた宿泊所で一泊する。
こういった施設は遺棄された町や村のあった場所を利用して、運輸組合が整備と管理をしており、バスや輸送隊が安全に夜を過ごすために運営されているのだという。
周辺に柵は作られているが道路を全て遮ることもできずにいるため、魔獣が入ってくることもあるという。
翌日の移動開始早々に金華猪二頭が魔導車の前方を遮るように現れたため、先頭の魔導車に乗り合わせた狩人によって仕留められた。
川沿いの道を長距離バスで二日掛かって到着したヴァローペアは、立地としてはプナィニョキに非常に似ており髭小人の好む地という物をよく表していた。
ただしこの地で一番多く採掘されるのは軽銀であり、山を崩して掘り下げられた大きな穴は軽銀鉱石の赤土色の岩肌を見せていた。鉄もそれなりに抽出できるが、多くは軽銀素材や白磁として加工される。
建材にも白磁のタイルを張り付けて、真っ白な家が立ち並んでいる。それに対して屋根には黒い板瓦が使われており、違う街に来たのだと強烈に印象付けられた。
その割に食事は髭小人の好みなのか、この地方の食糧事情か、先日と似たような料理が出るのだった。
日が暮れる前に各組合に顔を出し、魔法陣と本を預けて登録などを終わらせた。
さすがに疲れもあって早々に食事を済ませて宿で休むことになった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




