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ねこだん!  作者: 藤樹
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008 異国の話と露店商

「ブローチ?」

「ん……懐中時計」

「おっ、嬢ちゃんよく知ってるな。こいつはプレバンティーン聖王国で作られた懐中時計だ。ここらじゃなかなか見かけることの無い一品だろう。どうだい一つと言いたい所だが嬢ちゃんの小遣いじゃあ無理だろうな。この辺りなんかはお薦めだ」



 この商人、元々は龍の山脈のさらに北にある半島の国、プレバンティーン聖王国で商売をしていたらしい。この国、人族至上主義なため獣人族や妖精族からとにかく嫌厭(ケンエン)されている。迷宮被害も自国で対処し何とか体制を維持した数少ない『王国』という体制を維持してはいるが、そのために全ての獣人奴隷が命を落とし、現在においては人族しか住んでおらず、さらには同じ人族を奴隷に使うような国である。本来、聖王国とは一切の交流を断った状態ではあるが、時折こうして龍の山脈を越える無謀な行商人が訪れる。



 休日の午前中、露店商の集まる市場でのこと。商人の薦めるのは、数々の髪留め、ブローチ、腕輪など。木製、骨製、銀製と様々あり、一見精緻な造りである。


「おっちゃん、これじゃ売れないよ」

「ん。商材はもっと考えるべき」

「こんな子供まで厳しいな。俺、もう泣きそう」

「あははは」

「んー……小物屋覗くといいかも?」


 もう見たからこの値段だと泣きが入るが、その三分の一以下でないと売れないと助言するリアーネ。そこまでかとガックリする商人は何か良い商売は無いかと相談する始末。



 こんなことになるのも理由がある。髭小人の細工物はどの種族の作る物より繊細で流麗だ。子供向けに片手間で作ったような物まで手ごろな値段で手に入る。その徒弟の習作のような物までさらに安く出回っているのだ。そのため聖王国産の細工物は値段の割にはできが悪く、良い細工物でも徒弟の作と同程度だと評価されてしまう。



「んー……この辺りに無い食材とか保存食、お酒なら商売になりそう」


 得られる食材や食文化は地域ごとに違うものであり、それだけで商売の種になるとリアーネは言う。


「あの山、越えるのどれだけ大変か解かるかい?」

「???」

「んーん」


 指さされた先を見て、双子はそろって首をかしげる。

 聖王国の船はどの港も入れてはくれず、山を越えるのが唯一の道だというのに、龍の山脈の半島側には一際高い山々が連なる。龍神様が言うには世界一の標高だ。聖王国の船が港を締め出されるのは、主に奴隷狩りのための船であるからで、入港拒否にも理由があった。

 荷物のほとんどが道中の食糧で占められるため、細々とした物しか持ってくることができなかったと商人は言う。


「んー……おじさん、料理はできる?」

「それなりにできなきゃ旅は無理だよ」

「ん。聖王国にしか無い料理かお菓子を作る。簡単な物ならなお良い。物珍しくて売れるかも?」


 こうしちゃいられん、組合(ギルド)に行ってみるよと慌ただしく店をたたむ。

 礼のつもりか双子の手にはそれぞれ背負った鞄と同じお魚と兎の髪飾りが一つずつ残されていた。



 ◇



 露店をたたんだ商人が、あちこちに聞きまわって着いたのは調理人組合(ギルド)


「すまん、屋台を出すにはどうすればいい」

「登録はされていますか?」

「いや、商人としてしか登録してない」


 奥の厨房で料理の腕を見るという。あまりに酷いと見習いからだと言われ、気合を入れて料理する。この国で手に入る食材を教わり、聖王国の屋台を思い出しながらこんな料理はあるかといくつかの候補を上げていき、自分で作れる物を三品ほど作っていく。そのうち一品は、ここらの人の口には合わないだろうと言われたが、幸いあとの二品であれば屋台も成り立つと判断された。そうして調理法も登録し、認証札(カード)を預け調理人組合(ギルド)でも無事に登録される。



 ◇



「髪飾りのおっちゃんだ!」

「ん。屋台になってる」


 あまりにも早い転身に双子は驚きの声を上げた。


「嬢ちゃん、一昨日は貴重な助言、本当に助かった。これは礼だ、食ってみてくれ」


 学院からの帰り道、先日会った露店商が屋台を出していた。物珍しいからかそれなりに繁盛しているらしく、客足もあまり途切れる様子は見られない。紙のように薄く削った木の容器に入れられた、十個程入った丸く焼いた菓子。丸い穴ぼこが沢山ある上下で挟み込む焼台から受け皿に向かってぽろぽろと落ちていくのは始めて見る物だった。


「なにこれ?」

「美味しい?」

「いい匂いなの」


 友人三人も一緒のようだ。お一つどうぞと、皆で焼き菓子を食べる。


「美味しー!」

「ん。なかなか」

「サクトロだ!」

「ぅまぃっ!」

「わ、すごいの!」


 表面はサクッとした歯触りで練乳の風味も豊か。そして中にはトロリとした甘い蜜が入っていて、食べた五人は笑顔を浮かべる。


 そんな焼台どうしたのかとリアーネが問えば元は売り物だったと言う。何を考えて、こんなニッチな商品を山を越えて持ってきたのかと不思議にならざるを得ないが、聖王国での祭りの際にはこの屋台を必ずいくつかは見る物だという。こちらの事情は分からずとも話の種にはなるとの判断だったらしい。何が救いになるか判らないものだと商人は笑う。



 なかなかに好評で、買って帰る五人であった。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。


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