084 夢見た先と歩む道
「忘れ物無い? ちゃんと持った? 道中気を付けてね」
「大丈夫だよ、マリー姉!」
「ん。みんな魔法鞄に詰め込んだ」
「ボクが付いてるんだから大丈夫だって!」
「ちっこいルーナに言われてもなぁ。任せられないって」
「そうなの。ルーナじゃなくて私がちゃんと見てるから大丈夫なの」
成長の遅い森人のルシアナの身長は百二十五センチ程で、髭小人のレアーナに至っては百十六センチと更に小柄であった。対して猫人族と狐人族の三人は百五十センチと百五十一センチとほぼ変わらないが、耳の大きさの違いによってロレットの方がずいぶん身長が高く見えるのだった。
新年祭を終えてから五人は探索者となるために、指導迷宮のある街へ行くことにしたのだ。
長くも短い時間を一緒に過ごしてきた間柄であるマリーレインは、子を送り出す様に気に掛けていた。
五人にとっても頼れる姉であり母の様な存在であるマリーレインと別れることは自身で決めたことであっても、寂しさを無くすことはできずに目を潤ませてはいるが、笑顔で行ってきますと告げるのだった。
「解ってはいたが、嬢ちゃん達が居なくなると思うと寂しくなるのぅ」
長距離バスの停留所は街門近くにあるために、出る前に狩人組合にも顔を出すと、そう言って狩人組の組長が探索者になるための紹介状は忘れず持ったかと確認した。
「近くに迷宮が見つかったのにラーリ達は入れてくれないのが悪いー」
「ん。仕方が無いから指導迷宮のある街に行く」
「この二人こんなこと言ってるけど、ほんとはあちこち行ってみたいだけだよな」
「うちは爺様と合ってくるし。色々教えてもらうつもり」
「錬金組合にも頼まれたの。予定先を回るだけでも一年は帰れそうにないの」
仕方なく他の街へ行くんだと、自分を誤魔化す様に言うのは寂しさを紛らわせるためだろう。
「一年か……嬢ちゃん達のことじゃ、帰ってきた頃にはノイェトゥアの迷宮にも入れるようになっておるんじゃろうなぁ。楽しみに待っておるわぃ」
期待と不安に尻尾を揺らした双子を中心に、五人の旅が始まるのだ。
テルトーネから長距離バスに乗り込み、まず向かったのは双子の故郷でもあるフシャラハーンだ。
南東の湖を目指しいくつかの峠を越えて日が暮れてきた頃ようやく到着した。
「「ただいまー!」」
「「「お邪魔しまーす」」」
玄関の扉を開けて声を掛け、久々の実家に双子はゆらりと尻尾を揺らしていると、トタトタと勢いよく走って少年が抱き着いて来た。
「ねーちゃ! おかえりー!」
「弟君可愛いなー。初めて会った頃のリーネにそっくりかも?」
「いやいや、リーネみたいに髪伸ばしてないって。ラーリより短いじゃない」
「ふふー。髪の色のせいなの。リーネとお揃いなの」
「ねーちゃ? だれ?」
知らない人を見てラウリーの影に隠れる様にしながらも、興味があるのか尻尾を振りながら聞くのだった。
「おかえりなさい二人とも。そちらはお友達ね? いらっしゃい」
笑顔で迎え入れ、さて夕飯はどうしようと困り顔をしながらも喜んでいる母だった。
◇
翌日、魔法陣と本を預けるために村の錬金組合に行ったのだ。
村の中心地近くに建つ古い石造りの建物は、昔の姿を留める様に佇んでいた。
「お久しぶりー!」
「ん。ここは相変わらず」
「あら! まあまあ! 本当にお久しぶりね。大きくなったわね。街の学院はどう?」
「卒業したの去年だよ?」
「ん。狩人一年やった後」
「あらあら。もう、そんなになるのね。さぁ、入って入って」
招き入れたのは明るい茶髪の猫人族の女性だ。組合長などと肩書はあれど、もとより少数の組合員しか所属せず最高齢であるからと皆がお任せしますと押し付けられたような物だった。
しかし、リアーネにしてみれば幼い頃より資料庫を開放し好きに本を読めるようにしてくれた相手でもあり、もう一人の祖母の様にも感じていた。
「それで、今日はどうしたの?」
皆を卓に案内し、お茶の準備をしながら聞いてくる。
「リーネの用事」
「ん。街の錬金組合から頼まれた。これの保管をお願い」
そう言って、腰鞄から魔法陣の収められた箱と本を取り出した。
一言断りサッと本に目を通し、著者名を見て笑顔を浮かべ、箱の中身を確認すれば魔法陣のできに驚きの表情へと変わる。
「凄いわねぇ。もう私よりも立派な魔導具師ね。小さな頃は一日中本を読んでるような子だったものね」
「リーネ、今でもそんな日あるよ」
「ん? 他のこともしてる」
久々の帰郷で数日をのんびりと過ごしてから、次の街へと五人は向かう。
この先利用するバスは、テルトーネ、ラスカイボッツ間の定期便で、トレーラーによる輸送隊と隊列を組んだものだった。
村の端の街道近くには輸送隊の利用できる宿泊所が用意されていた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




