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ねこだん!  作者: 藤樹
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X04 リアーネの夢語り

 とある猫人族の村に白と黒の双子の女の子が生まれた。

 白の娘は元気いっぱいに、黒の娘は少し控えめに、仲良くいつも一緒に行動する。


「リーネだいちゅき!」

「ラーリだいしゅき!」


 ギュッ! と、よく抱き合い笑っている姿は愛らしく、両親も愛おしそうに見守っている。

 しかしそんな双子ではあるが、黒の娘は少々変わったところがあった。

 随分と早くに言葉を話すようになったし、周囲の色々な物に興味を覚えた。

 とても好奇心旺盛で、三歳になる頃には白い娘に本を読んであげるようになっていた。


「リーネ、このおうさま、どうしてこんにゃことしたの?」

「ごめんにゃさいができない、こまったひとだったからかにゃ?」

「そっかー。ラーリはごめんにゃさいできるよ?」

「ん。ラーリのほうがえらい」


 褒められたと、黒い娘に抱き着くことになる。

 そんな黒い娘は四歳の頃、魔法の本を熱心に読むようになる。

 村の錬金組合(ギルド)には沢山の魔法の本、魔法陣の本などがあり、どうやって魔法を練習するのか、どんな魔法があるのかと随分と入り浸るようになった。


 好きな事柄は上達も速いと言うが、四歳にして基礎魔法全てを使えるようになったのには、両親はもとより錬金組合(ギルド)の職員も大変驚いたのだった。

 このまま成長すれば村の学校で教えることが何もなくなると考えた両親は、学校に通うようになる六歳になれば高等部もある街の学院へ通わせると決めたのだった。


 ◇


 リアーネは色々と思いをめぐらす。

 この世界のこと。

 そして知識にだけある、こことは別の世界のこと。

 なぜ自分はそんなものを知っているのかを、朝日が顔を覗かせる少し前のまどろみの中、夢うつつに思い出している。


 ◇


 彼女は結婚し一人の女の子をもうけ成長し嫁いで行き、これから夫とゆっくり暮らせると思ったところで先立たれた。


 寂しさを紛らわせるように猫を飼い始め、お婿さんも迎えなきゃと増えていき、可愛らしい子猫が生まれた。足先と尻尾の先、耳の先が色違いになった白と黒の子猫は可愛いらしいが、子猫三匹は手に余ると二ヶ月程してから知り合いに二匹引き取ってもらった。



 その日、彼女の住む地域は大きな地震に見舞われた。

 広範囲で停電が起こり、仕事場から帰るための電車も止まり、長蛇の列のタクシー乗り場を経て、やっとの思いで帰り着いた集合住宅は、周囲と同じく闇に包まれていた。


 夏の暑い日のことだった。


 まだまだ幼い子猫のためにも、仕事に出かけている間にも部屋には緩やかに空調を入れたままにしていたのだが、この停電でそれも途切れてしまっているだろう。体調を崩していないかどうか心配で、何としてでも帰るのだとようやく自宅のドアの鍵を開けた。


 予想通りに、熱い空気が室内に満たされている。

 急ぎ子猫の姿を探すと、居間の中央近くで親猫二匹が心配そうに鳴いている。

 見るとそこにはぐったりとした子猫の姿があった。


 蛇口を捻るも水が出てくる気配もなく、温くなった冷蔵庫から浄化水を取り出して、風呂場へ行って手拭いを湿らせてから軽く振り回す。多少は冷たくなったのを確認し軽く絞って子猫を包み込んで抱き上げる。籠に入れていつも診てもらっている動物病院へと向かうことにした。


 集合住宅を出ようとした時、大きな余震に足を取られて尻餅をついてしまう。痛みにうめいているところに上から大きな音が響き、そこで意識が途切れるのだった。


 ◇


 現実感の無い淡く優しい光に包まれた場所に子猫を抱えて佇んでいる。

 ああ、瓦礫に押しつぶされて死んでしまったのかと、冷静に考察する。


『ええ、その通りです』

(死後の世界と言うことは、これから閻魔様の裁きでもあるのかしら?)


 周囲に意識を向けると、自分以外にも多くの気配を感じるとこに気が付くのだ。

 自信と話している相手はそれを一度に行うことができる様な存在らしい。


『裁きはありませんが、貴方のこれからの要望を聞くことはできますよ』

(要望、これから……? それは仏教的な輪廻転生のようなものかしら?)

『概ねその理解で間違いは無いでしょう。魂は沢山の経験を積み、より上位の存在へと至ることができるのですから』

(そう。この子には世界の広さ、楽しさ、まだまだこれから体験させてあげるはずだったのに、可哀想なことになってしまったわ。できれば一緒にいてあげたいのだけれど、そういう要望もありなのかしら?)

『可能ですよ。なんでしたら同族になることだってできるのですから』

(それは、楽しそうね)


 相手の姿は漠然とした光としてしか感じることはできないが、受ける印象は女性のものだった。

 腕の中の白い子猫もしきりに周囲へ目をやっている。時おり何やら見つけた様に何もないと思われる空間に目をやっている。神様らしきものがいるのだから、本当に何かを目にしているのかもしれないと思うと、楽しくなってくる。


(どんな所があるのでしょう?)

『およそ、考え得る以上にあると思って間違いはありません。あなたの知識にある物では、例えばSF。例えばファンタジー』

(あら、ファンタジーなんて素敵ね。楽しそうだわ)

『ふふ。それこそ、剣と魔法の世界、と言ったものもあるわね』

(この子は猫であってほしい。おとぎ話のように猫の特徴を持った人なんかはいるのかしら?)

『ええ、もちろんよ』

(なら、私とこの子。猫の人? の双子の姉妹なんて大丈夫かしら?)

『それくらい問題ないわ。もっとない?』

(じゃあ……ファンタジーと言えば、魔法。魔法を使ってみたいわね)

『他には?』

(まだ良いの? そしたら……地球程ではなくても、それなりに技術が発展したところがいいかしら)

『それに合致するのなら、この世界はどうでしょう』


 そう言って、映像が目の前に現れる。少ないながらも車が走り、武器を携えた者達が剣や槍、銃に魔法を使って狩りをする姿が見て取れる。


(この、戦っているのは何でしょう?)

『以前この世界には、迷宮を作り出した困った人達がいて、それの対処に三百年近く経ってるの。まだ半分も終わってはいないわね。そのせいか、他の世界に比べて技術は随分と発展してるわね』

(なら、ここでお願いします)

『もう少し我が儘言っても構いませんよ? 例えば現在の記憶を持ったままとか』

(それなら、記憶……と言うより知識だけでお願いします。生まれ変わったら、この子と一緒に成長して、人生楽しみたいものね。持っていく『想い』はそれだけで十分だわ)

『それなら後は、魔法の資質を高くしておきましょう。次の人生、存分に楽しんでくださいね』

(はい。ありがとうございます)

 その言葉を最後に、周りの光も自身の姿も薄れて行った。


 ◇


 ラウリーと広い世界をこの目にする。

 そんな目標のため今は力を付ける時。


 時々、そんな『想い』が頭をよぎるが、前世の自分と魔法の資質をくれた神様には感謝している。


 知識だけを引き継いだから。


 思い出は引き継がなかったから。


 この生を存分に楽しめる。


 知識にある道具の数々をどうやって魔導具で再現するかを考えるのも楽しい。

 大人の自分は想像でしか知ることはできず、楽しみも悲しみもラウリーと分かち合える。

 何よりそれが嬉しかった。


 程よい眠気がやって来て、もう一眠りするために布団に潜り込む。


「ラーリ、リーネ、朝だよー」


 と、布団が剥がされ悲鳴を上げる。


「「にゃーーっ!」」


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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