082 山の斜面と餌不足
「なんで、こんな日に狩り行かなくちゃいけないの……」
「ん。もう帰って良い?」
「ダーメ! どうしてこう二人ともこうなんだか……他の班と連携しなくちゃいけないんだからね」
街から離れて北西の森を少しばかり山に踏み入ったその場所は、昨晩から降り始めた雪によって覆われていた。
どうしてこんな雪の中に嫌がる双子が来ているのかと言うと、前日に飛熊を目撃したが逃げられたという報告がされ、狩人総出を言い渡されて泣く泣く参加をしていたからだった。
「昨日逃げられたの誰なのー。ラーリぬくぬくしてたかったのに……」
「ん。熊もゆっくり冬眠してたら良かった」
「文句は良いけど、ちゃんと周りも気にしててねー。聞いてるー二人とも?」
少し移動しては立ち止まり双眼鏡を目に当てる。杖を手に山を登って二刻程した頃、遠くから銃声が響いて来た。
「今の銃声だったよね?」
「ん。結構距離あった」
「左の方? ってここより下じゃない。見えるかな?」
それなりに起伏に富んではいるが、森がちな中を見通すことはできそうになかった。
それからも何度か銃声と笛の音が響き、少しずつだが近付いて来ていた。
「ん、上から見て来る。自由な風現れよ、力強き風は我が身を共に空へ運べ………『浮揚』」
リアーネはしばらくの間照準器を覗いていたかと思うと、首に下げた笛を吹き鳴らしてから高度を落として木の枝に着地した。
「リーネ? やっぱりこっち来てる?」
「ん! レーアは戦槌用意して。だいぶ近付いて来た」
「よっし、いつでも行けるよ!」
ドウンッ! パンッ! パパンッ!
グォオオオーーッ!!
銃声と飛熊の雄叫びが聞こえたかと思えば、三人の待ち構える場所のすぐそばに狩人が走り込んできて転がる様に木の陰に身を隠し、すぐ後を追うように滑空して来た飛熊が追い越して行った。
パシュッ!
グガァッ!
着地の際にリアーネの発砲した銃弾を前肢に受けた飛熊は躓く様に体勢を崩し、レアーナは近づきながら振り上げた戦槌を振り下ろした。
「セイッ!」
ドッガァンッ!
戦槌の尖った側が飛熊の鼻先を掠め悲鳴を上げて一瞬怯みを見せた。そこをすかさず横手から近付いて来たラウリーが剣鉈と短剣で連撃を突き込んだ。
「ハァーーッ!! タァッ!!」
「お前ら下がれ!!」
「ん、射線空けて! 後ろからも来てる!」
木の幹に身を隠していた狩人が膝立ち射撃の体勢で叫ぶと、リアーネからも注意が飛んだ。
二人の声にラウリーとレアーナは左右に分かれて距離を取る。
グガォオオォオオオォッ!!
振り向いた飛熊は後肢で立ち上がり振り上げた両の前肢の先までで四メートルはありそうな姿で威嚇の叫びを迸らせた。
パシュッ! パパンッ! ドウンッ!
リアーネ他数名の狩人が今が好機と射撃が集中し、頭と心臓に着弾した。
しかし、少しばかり仰け反っただけで倒れる様子は見られずに、更に怒りを募らせたように身を屈めながら突進してくる。
それを転がる様に躱した狩人は、斜面を滑る様に落ちて行った。
「レーア、行くよっ!」
「当然っ!」
声を掛け合い飛熊に向かって間合いを詰める。二人はそれぞれ後肢に狙いを付けて、剣と戦槌を振り下ろした。
「かったーい!」
「仕方ないって!」
グッ……ガァアアアーーッ!!
怒りに吠えて振り向き様に、ゴウと渦巻く風をまとわせた腕を振り回す。
飛び下がって躱す二人と、そこに合わせるリアーネの射撃。
捻った体を正対させるように足を踏み出した所に銃弾を受け、体勢を崩した飛熊は先に滑り落ちていた狩人が登って来ていたすぐ脇を転がる様に斜面を落ちていく。
「うおわっ!? 気ぃつけろっ!」
「「「ごめんなさーい!」」」
三人の謝罪の声に後方からの射撃が続き、逆側からも射撃音が響いて来た。
「ん。これで決める!」
脱泡してから雷属性の弾丸を直接装填し射撃した。
グゥ………ガハァ………。
転落を止めて体を起こしていたところへと属性弾が着弾し、ようやくその身を横たえる。
「よくやった! だがまだ仕留めきれちゃいねぇぞっ」
「ん!」
弾倉を交換してリアーネと先程の狩人含めて射撃を続ける。
「発砲やめっ!」
そう言って手信号でも合図を送り倒れた飛熊に近付いて、仕留めたことを確かめた。
しばらくしてから、別方向から三人と四人の狩人がやって来て、お互いの健闘を讃え合う。
その頃にはリアーネも木から降り立っていた。
「おぅ、ご苦労さん。嬢ちゃん達もやるなぁ!」
「褒められたー」
「はぁー、大きくて驚いたよー」
「ん。大物だった」
「さって、血抜きするか。手伝ってくれ」
その後は苦労しながらも『重量軽減』の魔法も使って木に吊るし、『脱血』を掛けて回収をした。
「これでのんびりできるね、リーネ!」
「ん。心置きなく」
「狩りもしようよ……」
嬉しそうにのんびり宣言をする双子に対してレアーナは溜め息が出るばかりだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




