081 寒い季節と猫人族
冬も深まり山を少し登ればちらほらと雪の積もった跡が見られる様になった。
「行ってらっしゃーい!」
「ん。レーア頑張って来て」
「って! 一緒に狩りに行くんでしょっ!」
双子の恰好は防寒対策も終わらせて、雪山だろうとこれで大丈夫とリアーネが自信満々に言っていたのだが、相変わらず狩りに出るのを嫌がるのだった。
「ほらー。温かい格好してるんだから大丈夫でしょー」
「目に入る景色が寒くて無理」
「ん。雪山行くとか意味わかんない」
そんな感じで何とか狩人組合まで来たはいいが、ストーブの前を動こうとしないのだ。
「あまり無理言っても仕方ないって。猫人族はみんなそんなもんだからな」
そう言って出かける準備を整えたウルマスが割り込んで来て部屋の中を示して見せれば、確かに猫人族ばかりが残っている。普段彼らは別の者達と班を組んで行動しているのだが、この時期は使いものにならないと諦められていた。
「なんじゃおぬしら、まだこんな所におったんか? なんでもルクハンスが今朝方魚を大量に仕入れたとか機嫌が良かったんじゃがな。さて儂も休憩ばかりではいられんのぅ」
組長の言葉を聞いた双子以外の猫人族は、一斉に耳をそばだてたかと思えば呼吸を合わせたような動きで、狩りの準備を始めたのだった。
「何が起こってるの?」
「なんだ、嬢ちゃんはルクハンスの飯屋には行ったことが無かったのか?『一日しっかり働いた者しかうちの飯を食う資格はない!』だったかな? あいつの信条は」
「んー? じゃあ、今日はお魚料理が出るってことかな?」
「リーネ!? 準備して!」
「ん。仕方なし」
周りの動きに着いて行けてなかった双子にも、ウルマスが理由を教えれば俄然積極的に狩りに向かおうと動き始めた。
「最初っからそうしてればいいのに……」
「まぁ、上手く付き合っていくしかないやね」
レアーナのこぼした呟きに、ウルマスが宥める様に言うのだった。
「ラーリは何狙いたい?」
「お魚!」
「そりゃ漁師のすることだって。うちら狩人が狙うのは陸に居るやつ」
「ん。選べるなら鹿が良い。放っておくと森ごと食べられる」
「それじゃあ、山羊は良いの?」
「山羊はもっと山の方に行かなきゃいないじゃない」
寒さを忘れるためなのか雑談が尽きる様子は無かった。
「柵の辺りも結構食べられてるねー」
丸裸になった低木が沢山目に入たのだった。
「ん。これから雪も積もるだろうし、もう罠が仕掛けられてないから仕方ない」
「あんまり積もらないでほしいよねー。一杯積もったら柵の意味なくなるし」
「ラーリはそんな雪塗れの所に行く気はないよ?」
「「「ん!?」」」
そこに白珠狼の遠吠えが三人の耳に届いてきた。
「近いね。この先か、どうする?」
「ん。警戒して近付く」
「まぁ、そうなるね。ラーリは先頭任せた」
それぞれが剣鉈や狙撃銃の準備を終わらせ、リアーネが『透明看破』を使ってから足を進める。何度か魔法を掛けなおしながら木の陰に隠れる様にして進むこと四半刻、前方に十角鹿が群れで移動している姿が見えて来た。
「ありゃ、狩りの最中だ。どうしよ?」
「んー……しばらく見てる」
「そこの木、登った方が良くない?」
レアーナの意見を採用し、ササッと登って身を隠す。十角鹿の群れは左手側から右手側へと横切る様に移動する。
狙撃銃を構えて照準器を覗いて見ていたリアーネは、発砲の前に聞いて来た。
「んー……どっち狙う?」
「鹿……よりも狼が先かな」
「そうだね。これだけ距離があれば、こっちに来るより前に何頭か行けるでしょ」
一つ頷き発砲すればガシャコンっと次弾の準備を整えて、弾倉全部撃ち切れば新しい弾倉を装填しそれも全て空になった。
「ん。行こうか」
「結構撃ったねー、リーネ。命中八割くらいだったね」
「狼三頭、鹿七頭って、魔法鞄に入り切るかなぁ……」
双眼鏡で見ていた二人の評価に満足しながら回収に行き、血抜きのために吊るしている間にレアーナが何やら取り出した。
「レーア? 何それ。車輪が一個?」
「ふっふーん! 手押しの一輪車作ってみた。上に大きな魔法鞄を括り付けてあるからいっぱい入るよ! 背負わないで良いから運ぶのも楽になるしねー」
「じゃあ、運ぶのはレーアに任せる。……で、なんで車輪が一個なの?」
「これ? 元は土木工事とか農業で使ってるやつだけど、森の中は二個以上車輪が付いてると使いにくいと思って」
そんな話をしながらも全部吊るして『脱血』し、次々に一輪車の魔法鞄に入れていく。
「リーネ、これいっぱい入るね!」
「んー……。この魔法鞄、五十リットルくらい入る大きさかな?」
「店売りで一番大きいの選んで来たからね。うちらじゃこの大きさのに一杯に入ってたら持ち上げられなくなるから使うことは無かったんだけど」
「ん。これならリーネでも運べそう」
「今日は一杯狩ったし、もう帰ろう!」
「ん! 帰ろう!」
呆れながらも仕方が無いと、諦めることにしたレアーナだった。
早々に獲物を引き渡せば、今朝方知った飯屋に駆け込み注文をして、香辛料がたっぷりで美味しそうなお魚の天ぷらが双子の目の前に並べられた。
「リーネ! 美味しいね!」
「ん! また来ようね!」
「二人とも早いよ……あー、うちにも同じのお願いします」
置いて行かれたレアーナも、機嫌良さそうに尻尾を揺らして口一杯に頬張っている双子と同じ卓について注文をした。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




