079 統合編集と地図片
「やっぱり上級迷宮で登録されちゃったねー」
「ん。未攻略の迷宮はみんな上級扱いだから仕方ない。リーネ達はよその指導迷宮から始めるしかない」
「すぐそこに迷宮があるのに入れないって、ひどくない?」
「ルーナ……学院でも教わっただろ? 初期の迷宮探索者の多くがどうなったのか。狩人の経験が必須になったのだって、探索者を守るためのものなんだから」
「そうなの! ルーナは一人にしておくのは心配なの」
久しぶりに五人そろってゆっくりとできると集まった場所はなぜか狩人組合だった。
「嬢ちゃんらは暇してんのか? ならこっち来い」
受付の数人以外は、ほとんどが狩りなどに出てしまっていて閑散としていたところに、組長から声がかかった。
「はーい! 何か急なお仕事?」
ラウリーに続いてぞろぞろと向かえば、卓の上に置かれた物はどこかの迷宮の地図のようだった。
「ん、もしかしてこれって?」
「そうじゃ。ノイェトゥアの迷宮一層の地図じゃ」
「「「もうできたんだ!?」」」
「少々問題はあるが、これまでに無い程に正確な地図じゃ。お前さんには感謝せねばな」
そう言って、嬉し気に細めた目をリアーネに向けた。
「ん? どうして手書き? 印刷の魔導具使えばいいと思ったんだけど?」
「んぁ? あぁ、そりゃー、全てを網羅した地図が無かったんじゃ。じゃから、複数の地図を突き合わせて作ったんじゃよ」
「ん! そうかー……。片手落ちだった。補助の魔導具考えて来る」
「何じゃ? こっちは感謝してるんじゃが……お前さんらは判るかいのぉ?」
「「「わかんない」」」
褒められて機嫌のよかったリアーネが一転耳を倒して一人で外へ向かい、放っておけないラウリーは着いて行った。他三人はどうしようかと迷ったが迷宮の話が気になってそのまま組長の相手をすることにした。
錬金組合の受付で資料室と簡易工作室の利用を申請すれば、盛大に歓迎してくれたのは以前に通信の魔導具の時に手伝ってくれた狐人族のペトロネラと言う名の女性だった。
「今日は何? 欲しい資料があれば集めるのも手伝うわよ。どーんとお姉さんに任せなさい!」
「ん。ありがとう! 必要なのは……新聞や本の編集に使ってる魔導具なんだけど、そんなのってある?」
「えーっと? どうだったかしら?」
資料室に着けばすぐさま出版関連の魔導具の資料をかき集める。かなりの量になるようで端からリアーネが目を通して、要不要を選別してもそれ以上の速度で積み上げられた。
ザックリと目を通すだけでも一刻以上の時間が取られ、そこから精査を始めるのだった。
「ん。難しく考えなくて大丈夫そう。工作室へ行く」
必要な魔法と魔法陣を写して構成を考えているうちに、単純な造りで大丈夫そうだと当たりを付けた。
そうしてその日のうちに完成したのは、表示部分が地図作製機の丁度二倍の四十×三十センチ程もある大きな表示板だった。
「リーネ? 表示板の大っきいのだね」
「ん。でもそれだけじゃない」
「構造はほとんど変わらなそうだったけど、結局これって、何なの?」
「ん。撮像札を二枚入れて、こうして、画像をもう一方に写すことができる」
ペトロネラの疑問に答えながらもリアーネは実際に使ってみせることにした。
上下二画面に別れてそれぞれ画像が表示され、上の画像の一部をペンで四角く範囲を指定し『複写』ボタンを押してから、下の画面へと移動させ場所を固定するために『確定』ボタンを押したのだ。
「えーと? えー……?」
「それは、役に立つものかしら?」
「ん。出版組合も欲しがると思う」
その後、資料を作って錬金組合を出る頃には既に暮れ始めていた。
◇
「おぉーーっ! なんと言うことじゃーーっ!!」
翌日、狩人組合に顔を出した時にリアーネが新しい魔導具を組長に渡して使い方を説明すれば、大声で叫ばれてしまい耳を抑えて蹲ってしまった。
「うるさいぞ組長! 何があった?」
近くに居たウルマスが頭を押さえながら迷惑そうな顔で聞いてくる。
咳払い一つつき冷静さが戻った組長は、リアーネに渡された魔導具を使って見せた。
「ほれ、こことここに撮像札を二枚入れるじゃろ、そうすれば迷宮の地図が上下に表示される」
「うん? 単に二ついっぺんに使えるだけのでかくて邪魔な魔導具に見えるんだが?」
「儂も最初はそう思った。しかしここからがこの魔導具の本当の凄い所じゃ。ほれ、別班の探索者の地図じゃから、それぞれに不完全な場所があるじゃろう?」
そう言って、専用のペンの魔導具で一部を囲ってもう一方へと移動させ、欠けた地図を補完したのだ。
その説明をしている間に双子はさっさと準備を済ませ、今日の巡回へと出かけることにした。組合の建物から出ていくらもしないうちにウルマスの咆哮が放たれて、先に出ておいて正解だったと尻尾を揺らしながら思うのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




