077 迷宮地図と作成法
「んー……地図見てて、現在地が判らなくなったらどうする?」
「リーネに聞く!」
「うちらはそれでいいかもだけど、他の人達がどうするかってことじゃないの?」
錬金組合の簡易工房に陣取って、資料を前に考え事をしながらのリアーネの質問に対して、ニコニコ笑顔で答えるラウリーの考えの無さに、すかさずレアーナが突っ込みを入れた。
「ん。レーアの言う通り」
「じゃあ、周りの地形とか、調べるのかな?」
「だよねー。後は時刻と太陽の方角かな?」
「ん。迷宮内ではどうやって調べる?」
「え!? ……迷宮って、迷路になってるんだよね? 太陽も分かんないよね?」
「うーん、道順とか? 部屋の位置とか? そんなので確かめる? のかな?」
リアーネが迷宮内と限定すると、途端にどうすればいいのか明確に答えが出せなくなった。
「ん。レーアの言ったようにするしかない。で、未完成の地図の見本がここに十枚ある」
「おぉー、いっぱいだね。えーっと。どこの地図?」
「へぇー、結構色々な所かな? 見本で手に入るんだから、指導迷宮とかのかな?」
「ん。指導迷宮で新人の探索者が課題で描いた物。これ全部、同じ迷宮の同じ階層」
「「え……? えぇーーっ!」」
リアーネの差し出した地図を見比べ、ラウリーとレアーナは驚きの声を上げた。改めて比較してみても全く別物にしか見えない地図に困惑の表情を浮かべることになる。
「ん。地図の作製は相当な技量が求められる。こんな地図を見て現在地を調べるのは無理だと言いたい。多分余計に迷うことになる」
「「そうだよねー」」
まったくもって同意しかできずに相槌を返す二人は、気を落ちつけようと卓に置いた茶菓子に手を伸ばした。
「ん。風属性には方位や空間、位置を調べる魔法があるけど、使いこなせなければ精度の低い情報しか得られない」
「そっか! そこを魔導具にやってもらえばいいんだ!」
「でも、魔導具で調べてどうやって地図にするの」
「ん。これが使えると思う」
そう言ってリアーネが得意げに腰鞄から取り出したのは、大型表示板だった。
測定用、分析用、地図作製用、表示用の魔法陣を取り出して、リアーネは次々魔石に焼き込んでいく。
「リーネ? この魔法陣うち知らないんだけど?」
レアーナがもの問いたげな目を向けた。
「リーネ結構前から作ってたよ?」
「ん。夏頃から色々調べて作った」
「ほんと、いつの間に……他にも何か作ってたりしない?」
「ん……。まぁ、色々?」
じっと見つめて来るレアーナに対して、ついーっと視線をそらして答えるリアーネの尻尾は、要らないことは言わないでほしいとラウリーに抗議する様にペシペシと当てられていた。
「……どうりで。作り始めたらすぐにできるから、そんなことだと思ってたけど……」
そんな話をしながらも作業を続け、形ができ上がって行く。
硬銀の太い枠のある筐体に表示板に魔石を納めて完成した。
「ね、どうしてこんなに大っきくしたの?」
「ごっついよね。もっと軽くもできたんじゃない?」
「ん。迷宮内で使ってると、放り出されて落ちたり踏まれたりするかも知れないから」
「おぉー、そうかー。魔物が居るんだもんねー」
「そこまで考えてなかったなー。さすがリーネ!」
その後も何やら作業を続けていたリアーネだがそちらも完成間近なようだ。
「ん。後はこれで」
「リーネ、そっちは何?」
「ん? 表示した地図に書き込む専用のペン。よし。こっちも完成」
地図を保存するたに撮像札を差し入れて、起動させた地図作製機の画面に映る、『作図開始』の表示を押せば、たちまち部屋が描かれていき、そこにペンで『簡易工作室』と書き込んだ。
「やったね! リーネ!」
「ん。大丈夫みたい。移動してみよう」
地図作製機が問題無く想定通りに動作する様子を、ひとしきり尻尾を揺らしながら見つめた後に、工作室を出て錬金組合の建物内の散策を始めた。
「「お邪魔しまーす!」」
そう言って研究室に入って行けば、当然の様に何の用かと問われることになる。
「あら? 三人して、どうしたの?」
「魔導具の試験……で、良いんだよね、リーネ?」
「ん。今のところ問題無し」
そうやって研究室を訪問する度に見物人が増えて行った。
「リアーネさん! これ! 凄いわね!」
一通り組合の見取り図が完成して、ペンで書き込みしていた時に何やら作図漏れした空間を発見した。
「ん? この部屋、何かある?」
見取り図の一点を指さして疑問の声を上げるリアーネに、古参の錬金術師が教えてくれる。
「そこには地下への入り口があるんだがよく判ったな? 今は使われていないから案内もしてなかったんだが」
「あー、ほんとだね。この見取り図に先があるって出てるもん」
どれ見せてみろと人が集まり、なるほど、凄いなといった声が上がる。
「ん。これで迷宮探査が楽になる」
迷宮の扉の封印が解かれる前にと、沢山の地図作製機が作られることになった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




