076 道具の差と探索者
雨の季節も過ぎ去った頃、以前より各方面へと呼び掛けていた探索者が、ちらほらとやって来た。
双子が狩人組合に顔を出すとそんな者達を多数見かける。
「お嬢ちゃん達、見習いか? 何なら俺が指導員引き受けたってかまわねーぞ」
「阿呆か。お前に務まるかよ。ってわけで、俺なんかどうだ?」
「はいはい。変な絡み方するんじゃないわよ。彼女達もう見習いじゃないわよ」
気にしないで良いから、用事済ませちゃいなさいとパルヴィが間に入ってくれた。
「おぉー。現役の探索者さんだー。迷宮どんな感じ?」
「ん。迷宮探査で困ったこととか、失敗談? 教えてほしい」
新しい話が聞けると双子は絡んできた探索者に声を返した。
「なんだ、探索者目指してんのか? よしよし、それなら俺様が……」
「お前の自慢話なんざ聞きたくねえよ。困った話なぁ。それならあれだ、荷物が重い。これに尽きるだろ」
「ダッセーな、荷運びくらい雇えよ。そんなんだから二流なんだよ」
「んだとコラ! ヤルか!?」
二流呼ばわりした相手に顔を近づけ睨み上げる様に凄んで見せるが、特に気にすることも無く双子は疑問を解消するため話を続ける。
「荷運びって困る? 魔法鞄使ってないの?」
「ん。これで解決」
そう言ってリアーネは腰鞄をポンと叩いた。
「迷宮で一々そんな何が出て来るか判らん物なんざ使ってられっかよ。あれは素材回収にしか役に立たねえ」
同意の声が上がる探索者に対して、どうしてそんな評価なのだろうと双子は疑問に首を傾げるが、探索者の答えにパルヴィが魔法鞄に対する印象の違いの原因を看破する。
「あー、そうか! まだ、あなた達知らないのね、新型の魔法袋。てっきり前線でも売り出されてるものだと思ってたんだけどねー」
「新型? なんだそりゃ?」
「ん? これ」
リアーネが下げていた腰鞄を取り外し、蓋を開けて突き出した。
「このちっこいのがか? うおっ!? 何だこりゃ!」
鞄の開いた口に指先を近付ければ、目の前に表示される内容物の一覧に驚いたのだ。
「狙撃銃も入ってるのか。出して良いか? よし、これでいいのか?」
もたつきながらも取り出した狙撃銃を手にして、周囲も感心するような声が漏れた。
「凄いなこれ、取り出したい物が選べるのか。……にしても、何だ? これが狙撃銃か? こっちも始めて見るな」
「この街じゃ魔法鞄はただの回収袋じゃなくなってるのよ。欲しかったら買いに行ってきなさい」
いい店を教えてくれと声が上がり、こぞって組合を出て行った。
「そんで、この銃はどこ行きゃ手に入るんだ?」
そんな中で狙撃銃を手にしていた探索者の男性は銃を構えて照準器を覗いて具合を確かめながら聞いて来た。
「ん? 黒鋼銃砲工房なら何丁かできてるのが置いてると思う」
「そうかそうか。後で行ってみるかな」
「おー、リーネの銃の使い手がまた増えるね!」
「ん。小柄な種族にはだいたい好評」
「なんだ? お嬢ちゃんが作ったのか?」
男性の言葉に機嫌よく尻尾を振りながら腰鞄を付けなおして、そうだと答え銃も受け取る。
「この娘、期待の新人なんだから。いやー、いつも錬金組合の人達がよこせってうるさいのよ」
「うん? 鍛冶組合じゃなくてか?」
「魔法鞄もこの子の作った物よ。何年前だったかしらね?」
「七歳の時ー!」
「ん。高等部の進級課題に提出した」
リアーネが褒められて嬉しいラウリーの尻尾は機嫌良さげに振られ、リアーネの耳は心持ちピンと張っていた。
「な……!? はぁ。何もんだこの嬢ちゃん?」
疲れた様に言う男性にパルヴィは、さぁ? と、肩をすくめただけだ。
その後は、迷宮での困りごとを話してくれたが、おおむねセレーネに聞いたことと一致する。
「そうだなー、後は、武器が壊れた時なんかのために予備の武器を持って行くんだが、あくまで予備でしかないからなぁ。身を守るのが精一杯で戦力にはなれないんだよ」
「リーネが居れば大丈夫だね」
「ん。少々の破損だったらすぐ修理できる」
「はぁ。全く頼もしいねー。んなことできる探索者なんてほとんどいねえぞ」
「全くだな。しかし、まだ気を付けるべきことはあるぞ」
それまで近くで聞き役に徹していた人物からも声が掛かった。
「探索中も狩りと一緒で定期的に行動食を口にしてるんだがな、時刻の判らない迷宮内で緊張状態が続くとペースが乱れて来るんだ。それが続けば、休息をとるべき時間ってやつにも乱れが生じる」
「あぁ! そりゃ確かに気を付けにゃならんな」
何を言いたいのか理解して男性はうんうん頷きながら同意の声を飛ばした。
「だろう? でだ、予定より早く切り上げることになるんなら構わないんだが、逆の場合が怖いんだ」
「そうだな。気付かんうちに体力が尽きて、帰るに帰れないなんてことになれば危険だからな」
「『時計』の魔法でだいたいの時刻が判ると言っても、使い手次第で結構大雑把なもんだしな」
「まぁ、無いよりゃ良いって感じだな」
迷宮内でも時刻と共に明るさに変化はあるが、明るい階層や暗い階層がある上に一部だけ明るさの違うような場所まであって、正確な時刻を知ることは難しいのだと探索者二人で話が弾む。
「んー……。そう言えば以前、学院で魔石一個で作る魔導具の課題で時計を作った娘が居た」
「「なに!」」
「そいつは買えるのか!」
「んー……? さぁ? 錬金組合に登録されてるかな? 構造は簡単だから作れるけど?」
「「ぜひ作ってくれ!」」
組合の待合室の中心にある大き目の卓の一つに素材を広げて早速作業を始めるリアーネ。
「んーと。『時計』『時報』『方向探知』『幻影』『魔力集積』。これくらいあれば良いかな?」
五つの魔法陣を次々浮かべて合成させて、最適な形を探って行く。納得のいった時点で真銀粒を袋から取り出して、『金属変形』で魔法陣を作って魔石に焼き付けた。
軽銀を取り出したかと思えば丸く薄い板を作り出し、『成分添加』によって次第に白くなり『成分均一化』『結晶化』と続けて使えば透明になった。そこに魔石を薄く張り付け真銀で魔法陣を施し、硬銀で作った本体に魔石を組み付け半刻掛からず完成した。
表示板には淡く発光する二十の刻限が刻まれて、こちらも発光する長針と短針が時刻を示し、南北を指す針もあった。十刻の位置には六週六日を表す属性色の窓が作られ、簡易のカレンダーの役割を果たしていた。表示板の周囲には回転式の枠があり、時報の設定ができるようになっている。
「んー……よし、こんなものかな?」
でき上がったばかりの二つの腕輪型の時計を見て、リアーネは納得の声を上げる。
「「「………」」」
始めて見る探索者達はポカーンとした表情で一連の作業を見ていた。
「リーネ、綺麗だねそれ。ラーリも欲しいかも?」
「ん。今度作ろうか」
「ちょっ、え? なに? そんな簡単そうに……」
「すげーもん見たわ。で、それ、譲ってくれるのか?」
「ん。いくらぐらいかな? 材料費が大白銅貨六枚くらいかかってるから、一つ銀貨二枚くらい?」
「「買った!」」
「ん。売った。錬金組合に登録しに行って、色んなとこが作り始めたらもっと安くで手に入るかも知れないけど。いいの?」
腕輪を手渡しながらも聞いてみる。
「いや、目の前でいいもん見せてもらったしな」
「ああ。思い付きで作ったって代物じゃないできだ。前々から構想自体はあったんじゃねえのか?」
時計自体は自宅に置き時計として作ったのがあるとリアーネは答えたのだった。
その後は一緒に昼食も摂り、午後には買い物に出かけていた探索者達も魔法鞄を手にして帰って来たのだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




