075 分布調査と寒冷雨
迷宮の扉の発見され新しく街の作られる予定地は、広く森が切り開かれて直径一キロの円形に作られる予定である。
このことにより近年議論されていたテルトーネの街の拡張工事は中止され、採石場で切り出し作業の始まっていた大量の石材が流用されて、新しい街を取り巻く高く分厚い街壁の建設が進められ大詰めを迎えていた。
それが終われば、北西側に迷宮の出入り口から外周に沿って左回りに南東まで続く壁を作り通路とする予定であった。この通路は、万一魔物が氾濫しても安全に対処するための物で、両側の壁の上部に銃眼も設けられる予定である。
「もうすぐできるんだねー」
「ん。壁ができれば、警戒に人を割かなくてよくなるね」
既に新しい管理区域に柵も設置し終わり、その周辺には多数の罠を用意して巡回場所となっている。柵の中にも危険な魔獣は確認できなくなっていた。
雨の季節と分かっていても、天候が思わしくなく今にも降りだしそうな暗い雲に双子の足は重くなるのだった。
「つらい。もう雨は嫌」
「ん。同感。外套だけじゃどうもならない」
柵の外側を調査しているときに、とうとう煙る様な雨が降り出した。
山がちで起伏の激しい場所でもあり、足元が川の様相を見せる場所もある。
管理区を広げた影響が魔獣の分布に出ているかどうか調べるためにも多数の狩人が参加しており、双子はウルマスともう一人の四人で行動をとっていた。
「雨だけは俺らでどうにもならん。狩人続けるんなら慣れるしかない」
「ウルマスの言う通りだ。まぁこの時期は、装備品は毎日同じ物を使ってたら乾く暇が無いから何組か用意しといた方が良いぞ」
「魔法で乾かしてるけどそれじゃダメなの?」
ウルマス達の言葉に対するラウリーの疑問はもっともである。
「悪くはないがな、それでも一日休ませてやると物の持ちが違うんだ」
「そうそう。二、三組用意しておいた方が長持ちするのは狩人の常識だ」
「ん。判った。魔法鞄や銃器もかな?」
「流石に、そこまで用意してる奴はいないんじゃないか?」
時おり見かける魔獣は、金華猪に銀狐、白珠狼に十角鹿と潜影蜥蜴に多数の鳥と、この周辺でよく見かける物である。どの魔獣も雨を避けるために木陰、岩陰で身を寄せる様にしていた。
そんな中でも単体で行動していた金華猪を二頭と鳥を数羽仕留めていたが、雨が気配を消してくれるので狩りそのものは楽でもあった。
「はぁ、お前らの外套が薄すぎるだけじゃないのか?」
軽く震える双子を見てウルマスが原因を口にした。
「ん。ずっと打たれてると寒い」
「でも、重い外套だと動けなくなるんだよ」
「難儀なことだ……仕方ないか。休憩にしよう」
木にロープを結んで雨除けの布を張ったら『乾燥』と『暖房』の魔法を使って、双子はようやく震えも収まり、行動食に持って来たクッキーを齧りつつ温かいお茶を飲んで、元気と余裕も戻って来た。
「リーネ。中止して」
「ん? どうしたの? ラーリ」
休憩も終わり狩りを再開してから十分離れた位置に金華猪を見つけ、照準器を覗いて狙いを付けていたリアーネは、何があったのかと双眼鏡で確認していたラウリーに問う。
「山猫が狩りの途中」
「んー……ほんとだ。じゃあよそに行くか」
双子が見つけたのは白雨山猫と言う体長一メートル近くもある魔獣である。白雨山猫は賢く人を襲うことが無いために、狩人も狩りの対象からは外しているのだった。
「さすが、雨の女王。美人だったね」
「ん。美人の猫だった。家に来てくれないかな?」
「はっは。人に飼われるのはお気に召さんだろうなぁ。森にあってこそじゃねぇか?」
「「そうかも」」
白雨山猫は特に雨の中での狩りが得意であるため、狩人達に雨の女王などと呼ばれていた。
「先行くぞ」
「はーい。……はぁ、もふりたい」
「ん。同意」
少しばかり残念そうに視線を向けて、ポツリと呟く双子だった。
「大っきいのが居る。木の上、蛇!」
「ん! 何あの大きさ!」
動揺しつつも銃の準備を進め遊底を引き狙いを付ける。
「ん。準備できた」
「雨が降ってる今なら、蛇の動きも緩慢だろう。じっくり狙って大丈夫だ」
「そうそう。俺も準備終わってる。ラウリーは周辺警戒」
「わかった!」
ウルマス達から焦る必要は無いと言われて、じっくりと狙いを付ける。
「行くぞ、三、二、一、撃てっ!」
パババシュッ!
ラウリー以外の三人が続けて発砲し、紅斑蛇はドスンと地面に落下した。
「近くで見たらますます大っきいねー」
「ん。十メートルくらいある?」
「さぁ、ちゃっちゃと回収しようや!」
血抜きをして回収すれば、今日の狩り兼調査は終了となった。
「お前らの外套な、雨の中る所だけでも厚みを持たせたらいいんじゃないか?」
「ん! そうかも! 帰ったらやってみる!」
「リーネ? 雨、平気になる?」
「んー……今よりはましになる、と、思う?」
「はははっ。まぁ頑張れや」
帰る道ではリアーネを焚き付ける様に、ウルマスの話が続くのだった。
外套を改造してからは雨の日の狩りの辛さもいくらかマシになった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




