074 夏の狩りと農耕蟻
南東の森の新しい管理区にはここの所よく来ている。
柵の設置と並行して多数の罠も仕掛けているが、空いた穴を埋める様に巡回先が割り当てられた。
「リーネ、蟻の行列だよ」
「ん? これ、農耕蟻だね。踏まないように行こう」
いくらも行かないうちに、双子の前に立ち塞がる物があった。
「うおっとっ! あっぶなーい。リーネ、ここ蜘蛛の糸がある」
「ん? ほんとだ。良く気付いたねラーリ」
先を歩いていたラウリーの腰程の所を斜めに走る極細の蜘蛛の糸。ただ細いだけでは無い様で、一歩引いたラウリーは眉間にしわを寄せ睨み付けるように見ていたのだ。
「んー……。ラーリ、あそこに居るの判る?」
「どれ? えーっと……、あっ! ほんとだ、蜘蛛が居る! なんで気付かなかったんだろ?」
「ん……っと、あれはたしか……冥冥蜘蛛だったはず。闇魔法で幻惑して姿を現すことはほとんどない。動かないうちに狩ってしまおうか」
そう言うとリアーネは十メートルは離れてから、狙撃銃を構え照準器を覗いて冥冥蜘蛛の位置を確認してから立ち位置を調整し、遊底を引いて水属性弾を一発直接装弾した。狙いを付けて、パシュッ! と、発砲。狙い過たずに頭胸部と腹部の間に命中し、力なく巣にもたれ掛かる様に冥冥蜘蛛は倒れ込んだ。
「やったね! 一撃だ」
「ん。回収に行こう」
「ね、この糸玉、なんかあるかな?」
「ん? どうだろ? 一応持って行く?」
大きな巣には三つの糸玉が吊るされており、触ってみても動く様子は見られなかった。
気を付けながら巣を払い、胴体だけで四十センチを超える冥冥蜘蛛と糸玉を回収する。丈夫な頭胸部は軽量な鎧などの素材となるのだ。
「中ったとこ凍り付いてるねー。それにしても、とげとげが痛いね」
「ん。冷凍を付与した弾だったからね。棘は足に多いのかな? 気を付けないとね」
「蜘蛛獲るの楽だったねー。もっと居るかな?」
「ん。そこそこいるとは思うけど、楽だったのは気付いたから。気付かず糸に触れてたら楽に獲れなかったんじゃないかな」
足を進めること半刻ほど、ケケケケケッ! と、右手の方から鳴き声が響いてくる。答える様にケケケケッ! と左手側から鳴き声が聞こえた。
双子は足を止めてラウリーは右を、リアーネは左を中心に様子をうかがう。
「何だっけあれ?」
「んー……? 鷹っぽい? けど、木の上じゃないし、何だっけ?」
しばらく様子をうかがっていると、右手側から下草をかき分ける音がする。
いつでも対処できるようにとラウリーは両手に剣鉈と短剣を、リアーネは狙撃銃に直接弾を込めいつでも撃てる準備をする。
姿を現したのは、発達した後肢二本で歩く体長五十センチはありそうな暗い緑と茶色の斑模様の潜影蜥蜴だった。物陰から物影へとさっと走り抜けては足を止め、周囲の様子をうかがいながらも足元にある何かを啄む様な行動をする。
「どうする、リーネ?」
「ん。もう一匹いるはず」
潜影蜥蜴の移動の様子を静かに見ていると、先程左手側から聞こえた声の主だろう潜影蜥蜴が現れた。そこには体長七十センチ程と四十センチ程ある二頭の姿を確認できた。
「リーネ、一番大きなの任せるね。ラーリは右側のから行く。迅速果断なリッシャォよ、威と速さをこの身にもたらせ………『敏捷強化』」
「ん。判った」
ラウリーは俊敏性を強化して、リアーネの発砲と同時に走り出した。
気付いた潜影蜥蜴は後方へと飛び跳ねて、暗く光ったかと思えば黒い刃がラウリーに迫る。
右手の剣鉈で受け流す様に飛んで躱して間合いを詰めれば、左の短剣を突き出した。しかしラウリーの短剣の下を潜る様に間合いを詰めて、大きな口を開け噛みついて来た。
「わぁっ!」
とっさに剣鉈で遮る様に振り抜けば、潜影蜥蜴の上顎を切り飛ばした。
動きに勢いが無くなったところで首をはねて止めを刺す。
「ん。天を奔る猛き輝きよ、衝撃をもって弾けよ………『雷球』」
ラウリーが短剣を突き出していた頃には、追撃に放った雷球が炸裂し、頭部に着弾してふらりとよろめいた潜影蜥蜴ともども倒れ伏しピクリピクリと痙攣していた。
「リーネ、そっちは?」
「ん。今終わった」
二頭にきっちり止めを刺してから、リアーネは答えるのだった。
「この蜥蜴って、なんか言ってなかったっけ? 気を付けろって」
「ん。数頭で行動することが多いのと、陰に隠れて行動するからだったはず?」
「じゃあ、まだいるのかな?」
三頭の回収をしながら周囲を覗うが、それらしい気配は感じられなかった。
「何かお腹減ってきちゃった」
乱れた蟻の行列に目を落としながら、ラウリーがお腹を押さえて耳を萎れさせる。
「ん。今日の行動食はこれ」
そう言ってリアーネの取り出したものは、手のひら大の可可たっぷりソフトクッキーだった。
「おぉー! これ、楽しみにしてたんだ!」
「ん。自信作。あむ……んぐんぐ。ん、おいし」
「んふふー。パサパサしないからいいよね」
元気が戻った双子は尻尾を振り振り巡回を続ける。
「ね、リーネ。この辺誰か畑にでもしたの?」
ラウリーの指摘通りに周辺の少し盛り上がった場所に沢山の蒼紫蘇が茂っていた。
「ん? 何だろ? あー、これって農耕蟻の作った物じゃないかな」
そう言って示した先に蟻の行列があり、沢山の葉を巣に持ち帰る姿に気が付くのだった。
「へー、蟻が蒼紫蘇育てるんだ。採って行って大丈夫かな?」
「ん。少しだけならいいんじゃないかな」
そう言って、綺麗な葉を選んで採取する。
しばらくすると、それ以上採るなと抗議する様に農耕蟻が集まって来た。
「わっ、いっぱい来た。もう採らないからこっち来ないで!」
思わず声を上げて離れて行った。
その後も、金華猪や丸鹿を狩ってこの日の巡回は終わりを迎え、新しい管理区を柵で囲み終えたと聞かされた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




