073 安全確保と建設場
「ね? なんでこの道、真っすぐじゃないの?」
「ん? ほんとだ。なんでだろ?」
道路舗装予定地は切り株なども取り除かれて、今では砕石を敷き押し固められている道を歩きながら、真っすぐに作られていないことに疑問を持った双子だった。
「おぅ、それな! そこの先、見てみろよ」
建築業者の土木作業員の言った場所に目を向けると、そこには一際立派な木が生えており、小さな家屋が飾り付けられていた。
「おうち? ちっちゃいよね? ……あっ! 森小人!?」
「ん。そうか。だったらもう少し離れたところにした方が良かったんじゃ?」
「俺っちもそう思うんだが、気が付くのが遅くてな。こればっかりは仕方がない」
作業員は、十センチ近くも敷き詰めて押し固めた砕石の表面に『石変形』の魔導具を使って平らにしていく。できた道路の表面は滑らかでありながらも小さな穴が多数開いた物だった。これは街中でも使われている、水捌けのよい舗装であった。
「挨拶してこよう!」
「ん。挨拶は大事」
双子は木の住居に近づき声を掛けると、腰程の高さにある住居の扉が開かれ、真っ白な髭をたっぷりと蓄えた森小人の老人が出迎えた。
「何か御用かの?」
「ラーリ達、今そこでやってる道路工事の周辺警戒やってるの」
「ん。困ったことがあれば言ってほしい」
「そうだよ! 何か困ったことはある?」
双子が聞けば老人は髭を触りながら考える。
「そうじゃな。いくらか距離を開けてもらったが、道から近いんで不安があるのぅ」
「ん? 道路との間に壁を作った方が良さそう。すぐできるけどどうする?」
「そうかい? そいつは助かる。儂らがやると、時間ばっかり掛かるからのぅ」
木に住む森小人の老人と相談しながら、弧を描くような高さ五十センチ程の石壁の土台と一メートル程の柵の変わりに木を模した石の柱を作り上げる。表面を多孔質に整えていき、苔を植えれば綺麗になるだろうとリアーネは言う。
「こりゃー立派な壁じゃのぅ。ふむ。苔も良いが蔓草も植えればいい感じになるかいの? 楽しみができたわい」
「綺麗な花の咲くのが良いよね!」
「ん。それか、食べられる実が生るのが良い」
「そうじゃな。みなにも相談せねばなぁ。今日はありがとうよ」
「どういたしまして!」
「ん。またね」
お互いに笑みを浮かべて手を振り別れる。
「リーネ、これってたしか……?」
作業現場に戻る時にラウリーが気になった物は、以前にも手にしたことのある魔導具で杭の様に地面に突き刺していた。
「ん。これは警戒の魔導具。魔獣が近付いたら知らせてくれる」
「あぁー……、なんかそんなこと聞いた覚えが、ちょっぴりとある」
道路敷設の作業現場付近には数台の警戒魔導具が稼働していた。これによって狩人の護衛の人数の少なさを助けていた。
「んー……そういえばセレーネ姉も言ってたかも」
帰郷した際に聞いた話を思い出し、稼働中の魔導具に手を当て魔力の流れや魔法の構成を読み始めたリアーネが効果を高める方法を考えていると、ラウリーが遠くで低木の葉擦れの音を捉える。
「うん……? リーネ!」
「ん。何か居る! 対処してくる」
双子は近くに居た作業員に対して言い放ち、音を捉えた方向へと駆けだした。
「ん……、世界に満ちる魔の源よ、その脈動を示せ………『魔力感知』」
走りながらも魔法を使い、周辺魔力の揺らぎを捉えて目指す先を見定める。
手前で足を止め周囲を確認。
「あった! この足跡」
「ん。猪だね。かなり大きい」
ガサリと離れた場所から聞こえ、跳び退りながら剣鉈を構えて対処の体勢を整える。
シャーッ! カッカッカッ!
興奮した息を吐き出し大きな牙を打ち鳴らす艶のある黄色に黒い筋模様のある金華猪が、地面を蹴って飛び出してきた。
「うっわぁ! ピリッと来たー!?」
「ん! 雷撃をまとってる! 触っちゃダメ!」
突進してきた金華猪を剣鉈で弾くようにして間合いを取ろうとしたラウリーが、金華猪の毛先から発生している雷撃によって右手を痺れさせ、剣鉈も取り落としてしまった。
大きく回り込みながらも機敏に向きを変え金華猪はラウリー目指して突き進む。
「はぁっ! とー。びっくりしたー。迅速果断なリッシャォよ、威と速さをこの身にもたらせ………『敏捷強化』」
木の幹を蹴り枝に取り付き左手一本でぶら下がると、その下を通り過ぎた金華猪は足を突っ張り急停止した。
その間にラウリーは自身の敏捷性を上昇させる魔法を使ってこの後に備えた。
パシュッ!
プギィーーッ!
「リーネ、やったね!」
ラウリーが対峙していた間に狙撃の準備をしていたリアーネが放った銃弾が、動きを止めた金華猪の右前足に着弾した。
足を引きずる様に向きを変え、ぎこちないながらも今度はリアーネに向けて突進する。
次弾の準備の終わっていたリアーネが発砲するも右の牙に中ってしまった。
「んにゃっ!」
驚きながらも金華猪を飛び超えて振り向いた時には、ラウリーが手を放して飛び降り左手の短剣を抜き放ちざまに金華猪の首を切りつけた。
「ひゃーー……。じびれ、る……」
ラウリーの脇をいくらも進まぬ内に足を止めた金華猪は向きを変え、走り出そうとしたところにリアーネの射撃が右のこめかみを撃ち抜きつんのめる様にドウッと、身を横たえた。
「ん。大丈夫、ラーリ?」
「だ……いじょば、ない……」
「ん。肉体を従える眩き御霊よ、戒めを解き癒したまえ………『解痺』」
ピクリピクリと震わせながらも答えるラウリーの様子を見て、リアーネは魔法で治療した。
「はぁーーっ。ありがとっ、リーネ!」
疲れた声でお礼を言って、仕留めた金華猪を回収し、元居た場所で警戒の続きだ。
「ん……見つからない様にすればいいかな?」
「なに? リーネ?」
「ん。警戒の魔導具のこと考えてた」
「そっか。見つからない……ってことは、聞こえない、見えない、臭わない?」
「ん。そうだね、ラーリ。それだけできれば、かなり安全になると思う」
数日後、リアーネは敵を検知するだけだった警戒の魔導具に、魔法防壁や身を隠す機能を付け加えた新型を完成させた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




