069 推定迷宮と解決案
この数日は魔力元まで往復する様に何度も足を運ぶことになった双子は、切り裂かれた様な伐採跡が森に真っすぐ走っている。
木の根の処理はまだこれからであるようだし、道幅もまだまだ狭く今の倍以上は伐採を進めるのだという。
それでも、先を見通せ真っすぐに目的地まで移動できるようになったおかげで、移動時間が短縮された。
着いたそこには半円の巨大な石の塊が鎮座していた。
「大っきいねー……」
「ん。大っきい」
「来たわね。待ってたわよ、リアーネ、ラウリー」
そう言って迎えたのは錬金術師のユスティーナだった。
彼女に案内されて、丸い石の反対側へと向かうと、ぽっかりと開いた入り口がある。
着いて入って行くと、中には照明の魔導具が数基壁際に設置されて内部を照らし出していた。
「「ふぉぉーー………!」」
見えて来た光景に尻尾の毛を逆立てながら、思わず声が漏れだす双子に、ユスティーナはくすくすとした笑い声を隠す様子も無い。
目の前に穿たれた穴は上部直径およそ二十メートル、階段の幅は一・五メートルはあり、延々と下って行く。穴の底の広さは肉眼では判然とせず、針の先の様にも思える程で、手すり越しに見下ろすと深い穴底に設置された照明の光が確認できた。
「この穴、ほんとに底があるの?」
「ん。どれくらい深いのか見ても分からない」
「ふふふ。そうよねー。確か四百メートル近くあるって言ってたわよ。凄いわよねー」
「「四百!!」」
双子は出て来た答えに、耳をピクリとさせて驚きとも呆れとも取れる声を出した。
「土建の人達、ひとまず街の修理とかに戻っちゃったけど、伐採が終われば道路の舗装とか予定されてるし、その先にはここに街を作るって話も出てるわね」
「ラーリ達呼ばれたのはどうして?」
「ん。なぜ?」
「いやー。ここの発見者に見せてあげようと思ってね。この穴の底」
「「おぉー!!」」
そして三人は『浮揚』の魔法で穴の底に降り立ち、一方の壁にある巨大な扉の様な物を目にすることになった。
「これって、もしかして?」
「ん。凄い魔力が噴き出してきてる。まず間違いない」
「えぇ、そうね。残念ながら、リアーネの予想通りの物だと思うの。この扉、実は扉じゃなくて本当はただの壁なんだけどね、魔力量が膨大でこの壁の先一メートルも無い所から大きな空間が広がっているみたいなのよ」
黒く艶めいた光さえ放つ壁面にはいくつかの魔法陣が彫り込まれており、見つめる双子の尻尾の毛は逆立って膨らんでしまっていた。
「ん。この魔法陣、凄い。土、光と闇……それから無属性の、隠蔽障壁……?」
「さすがね。この壁を保持するために慌てて仕掛けることになったのよ。封印を解いたら、魔物に気付かれてしまうかもしれないわね」
「じゃあ、どうするの?」
「各地の探索者に応援を呼び掛けて集まってもらうのよ。地上部に探索者を支援できるだけの設備も必要になるしね。準備が整ってから開けることになるわ。安全を確保してからになるけれど、ここには扉を付けることになるわね」
「ここに迷宮の扉ができるんだ?」
「ん。階段の途中にも扉を付けた方が良いのかな?」
「もちろん。ここ以外にも階段にも何か所かある踊り場に扉は付けられる予定だそうよ」
双子は目に焼き付ける様に見てから地上へと戻って行った。
地上部周辺を改めて見てみれば沢山の天幕が立ち並んでいる。
もし迷宮の扉が解放されでもしたら、対処のために人を向かわせるまでに相当数の魔物が迷宮から溢れ出ることになってしまうだろう。そのために現地には周辺の魔獣狩りの人員だけでなく見張りの人員も常駐していた。
テルトーネの街から魔力元までは森を切り開いただけの今で約三刻弱。この先、道が整備されても徒歩で移動すれば二刻半は掛かるだろう。たとえ魔導車を使っても四半刻は掛かることになるのだ。
「でさー、何がつらいかって、まともな料理が食えないことに、寝床が堅いこと。まぁ、今はいくらかマシにはなったんだけどな」
「だから、ラーリ達が料理してる!」
「ん。見張り、ご苦労様」
双子は迷宮の扉を見た後に天幕の前で調理中であり、ウルマス以下数名の狩人の愚痴を聞いていた。狩人として彼らも多少の料理はするのだが、基本的に男の手料理や切って焼くだけの簡単な物しか作れない様な者達である。野菜に穀物、調味料を普通に使っただけの料理でさえも、こんな場所では喜ばれるのだった。
ユスティーナは研究者の例にもれず食べられれば問題無いという考えであり、常に同じ料理しかしないので狩人達には不評であった。
「ほんとに、もうちっと街との連絡が簡単にできれば、俺も安心なんだがなぁ」
「ん? 確か、組合間では魔導具で連絡できるはずだけど、ここは無理?」
「あぁ、あの魔導具なー……。良くは判らんができるんなら既にどうにかしてるだろ? だから無理なんじゃねぇのかな。お前さんの方が詳しいだろ。何か考えてくれや」
「リーネやったね! これなら狩人組合と錬金組合の仕事がいっぺんにできるよね!」
「ん! ラーリ天才! 両方に役立つ仕事になる! 何ができるか考えてみる」
「そうかそうか! 頼んだぞ! で、昼飯はまだできないのか? もう食えんだろ?」
嬉しそうにパタパタと尻尾を振る双子に対して、ぐぅぅーー……と、盛大に腹を鳴らすウルマスが耳を倒して情けの無い声で聞いて来た。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




