066 巨大な穴と道案内
「それじゃあ、気ぃ付けてな!」
狩人組合の前で組長が調査隊に声を掛けた。
これから、先日見つかった亀裂の魔力元の調査に向かうのだ。
探索者経験のある者を含む狩人に守られて、安全に穴を掘るために地盤工事の得意な者をそろえた建築業者に、魔力元の調査のために魔導具の研究者を錬金組合から出されていた。
双子はそんな一行の案内人の様な立場でもあった。
できる限り一直線に魔力元へ向けて進むこと三刻弱。当初の予定より早く到着できたのは、双子が昨日下草を切り掃いながら帰って来たからでもあるだろう。
「はぁーー。こいつはまた……魔力が渦巻いて凄いことになってるな」
錬金術師の森人の男性、セヴェリの言葉に他の錬金術師三人も同意の声を上げた。
「あんたらには、ここが魔力的に他と違うことが見えてるんだな?」
それに対して狩人を代表してウルマスが聞いたのは、見ただけでは崩れて埋まった亀裂に、周囲の木が倒れている様子しか判らないからだ。
「ああ、そうだな。魔力視や魔力感知の能力なり魔法が使えなきゃ判らん感覚だ。リアーネ嬢ちゃんが居なかったら、ここの発見は無かったかもしれん」
「わかった。なら、俺達は周辺の警戒だ。双子はこの周辺で警戒しててくれ。セヴェリの旦那は指示を頼む。モーリッツは穴掘りを任せるが急がんでいいぞ。怪我なんぞしてもつまらんからな」
「はっは。わかってるよ。心配なんぞ要らん、こっちはこれが本職なんだ」
そうして狩人は周囲に散って、牛人族のモーリッツを筆頭に建築組合員が交代で大ぶりなショベルと土魔法を使って穴を掘り、周辺を補強し、降りるための階段を形成していく。
穴を掘る位置に関しては錬金術師が指示を送り、それを囲うように双子が手にした魔獣の接近を知らせる魔導具を設置していく。
「リーネ、結構深くなってきたね」
「ん。噴き出す魔力も凄いことになってる。これだけ魔力を浴びてたら、魔石や魔法金属も見つかるかもしれない」
「全くね! しかしよく見つけたわね、こんな所」
耳を萎れさせながら恐々と穴の縁から作業の様子を見ていた双子に対して、森人の女性錬金術師、ユスティーナが声を掛けて来た。
「そうだよねー。リーネが何かあるーって着いてったら、ここだったんだー」
「ん。魔力が強くて離れてても流れが見えた」
「はぁー。私なんて見える範囲じゃないと気が付かないのに。ほんと、こっちに来てほしかったわ」
「ん……そう言われても……」
困り顔に更に耳を伏せるリアーネに、残念ではあるがそんな風に困らせたいわけじゃないと軽く謝り言葉を続ける。
「一応錬金組合にも所属してくれてるからいいけどねー。それはそうと、リアーネ。あなたの開発したり改造した魔導具を本にまとめなさい。原理や構造だけでなく、考察や今後の発展、新しい道具の着想から開発時に気を付けることなんかもあるといいかも。すぐに、とは言わないけれどね」
「ん。わかった。相談に乗ってくれるなら」
「いくらでもどうぞ。待ってるわよ」
くすくすと笑いながら、掘削されていく様子を静かに見守る。
時おり離れた場所から銃声や魔獣の声が聞こえて来るが、双子達の周辺にまで現れることは無かった。
掘削の続けられる穴の上部は直径二十メートル程もあり、深くなるに従い少しずつ階段の分だけ狭まって行く。
穴の底に降りて作業する者は魔法鞄に土砂を詰め込み、上部で待機する者がロープで引き揚げ周囲に積み上げる様に出して穴の下に魔法鞄を降ろしている。
積み上げた土砂は周辺で採取した竹を加工し骨組みに使って『土変形』で固めて壁を作り『石化』して、穴の周囲を囲っていく。
穴の外周付近では『土変形』で、限界まで押し固めてから『石化』で石に変化させる。『石化』させる厚みだけでも十メートル程もあるため随分と時間のかかる作業となっていた。
それも、この地下に迷宮核があった時のことを考えてであるから、十分な強度を持たせているのだった。
数人いる鼠人族や兎人族の土木要員は、穴の対面に一つずつ作られていく階段周りに手を入れて、段差や幅に手すりの高さと細かな規定に従うように定規を当てながら形成していた。階段の踏み面をよく見てみれば、細かな凹凸や溝が彫られて滑り難い様な加工もされている。
外周に作られた階段がおよそ一周したときには、テルトーネの街の時計塔程も掘り下げられていた。その頃には既に日が傾き始めており本日の作業は終わりとなった。
「セヴェリ。どんな感じだ?」
「あぁ、問題なく掘り進んでくれたよ。魔力の噴出はまだまだ下からだな。いったいどれほど深くまで掘ることになるのか、ぞっとするよ」
作業の進展を聞いたウルマスは、そう言って顎で穴を示すセヴェリに従い見下ろした。
「全くだな。今日はもう撤収する! 準備を始めてくれ!」
掘り返された土砂は穴の周囲を覆うのに利用され、厚さ十メートルはあるだろう石に外周だけでなく上部も覆い隠されていた。この穴に入るための場所は南西へ向けてその口を開けており、底の広さは直径で十メートル程になっていた。
皆が信じたくない物がその姿を現したのは、十日程をかけて時計塔八本分にもなろうかと言う深さの穴が穿たれた後のことだった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




