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ねこだん!  作者: 藤樹
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065 周辺調査と魔力元

 一昨日の地震により被害の出た街中は住人総出で片付けに補修を行い、力仕事のできない者達は炊き出しを行っていたりした。

 そんな中、狩人(ハンター)組合(ギルド)に所属する狩人(ハンター)達は街周辺の調査のために方々へと向かっていた。


 双子も南の森の担当を言い渡されて向かっているところだ。


「街の方、大丈夫かな?」

「ん。心配。でも、周りの確認も大切」


 山が崩れていたりすれば今後の生活に多大な影響のあることも考えられる。何より他の街への街道が崩れている可能性もあり、周辺の街や村へ通じる街道へは今朝方何台もの魔導車(クルマ)が確認のために向かっていた。


 双子は元々、本日から正式な狩人(ハンター)として活動が始まる予定であったが、その最初の仕事が予定外の調査であることに何やら運命めいたものを感じなくも無かった。



 彼女たちの住むテルトーネの街は人口およそ六万人。周辺の住民を合わせれば十万に届かんとする大都市である。街は高さ十メートル程の壁と川を利用した掘で囲われ魔獣の侵入を阻んでいる。周辺には田畑が広がり大きな家屋が点在し、そのさらに遠方には放牧地や森林を見ることができるだろう。

 そして何より、一年を通して氷雪を頂く雄大な山々の姿が目に入ってくる。


 四方を山に囲われた深い森に抱かれたこの地では、狩人(ハンター)によって魔獣の脅威から守られていた。



 そして、一刻程かけて柵のある場所まで何事もなく到着した。


「この辺の柵は、問題無さそうだね?」

「ん、そうね。まずはここから東に向かって柵のチェック、始めよう」


 双子は南から南東へと柵が壊されていないか、その外側に仕掛けられた罠に異常が無いかを調べながら移動して行き、既定の範囲に問題の無いことが判ってほっと息をつく。


「大丈夫そうだねー。よかった」

「ん。なら次は柵の外だね」

「こっちは初めてだよね。ちょっと楽しみだね、リーネ!」

「ん。楽しみだね、ラーリ! でも、気を付けて行かないとね」


 二人の頭上のピンと立った耳は危険が無いかと周囲の音をうかがい、腰から伸びたしなやかな尻尾は楽しそうに揺れながらも、緊張しているのか時おりピクピクッと動く様が猫人族であることを主張する。


 ラウリーの瞳は金色で白い髪を肩程でそろえている。耳の先と尻尾の先のみ黒が主張しているようだ。狩人(ハンター)として動きやすい厚手の衣服と、革製の靴、手袋、腰鞄(ウェストポーチ)、軽鎧を着こみ、右手には剣鉈、抜いていない状態の短剣と腰の後ろに拳銃を身に帯びていた。


 リアーネの瞳は漆黒で黒い髪を腰程にまで伸ばしている。耳の先と尻尾の先のみ白が主張しているようだ。衣服はラウリーとほとんど同じで、鎧のみさらに簡易で軽量な物を身にまとっており、両の手で抱えるのは狙撃銃だった。


 二人とも身長は百五十センチと猫人族の成人と同じ程に成長していた。

 周囲の気配を探り、余計な音を立てずに日を遮られた森を進んで行った。


「ん? 何だろ?」


 道中、罠に掛かった藍鎧兎(ランガイト)などを仕留めたりしながら三刻程進み、そろそろ引き返そうかと考えていた頃にリアーネが何かを感じて足を止め、少し遅れてラウリーも周囲の警戒を強める。


「何かあった? リーネ?」

「んー……強い魔力の対流みたいなのがうっすら見える。流れからしてあっちかな?」

「魔獣? もしかして魔物だったりするかな?」

「ん。可能性は無くはないから、警戒するに越したことは無い。付いて来て」


 そう言って指さした先へと慎重に周囲を覗いながら、ゆっくり歩を進めるリアーネの耳は忙しなく周囲へと向けられている。ガサリと揺れた低木へ銃口を向けると、双子の緊張した気配を感じた藍鎧兎(ランガイト)の逃げる後ろ姿だった。


「ふー。びっくりさせないでよー」

「ん、同感。まだもう少し先っぽい。行こう」


 結局、四半刻程歩くことになり、ようやくリアーネの足は止まった。



 双子の目の前に現れたのは、地面を切り裂いたような大きな亀裂であった。優に二メートルは超えるだろう幅を持ち、左右を見てもどれほどの規模であるのか判然とはしなかった。また、対岸の地面が一メートルは低くなっており、亀裂には両側から崩れたであろう土砂で埋められ底までは三メートルも無い様に見えるが、だからと言って降りてみようと思える様なものでは無かった。


「うわーっ……」

「ん。ここみたい」

「この……、この、溝が?」


 恐る恐る近づいて亀裂の底を見ていたラウリーは、耳を伏せながらリアーネに確認した。


「ん。ちょうど、この亀裂の下から大量の魔力が噴き出してる。ラーリ、危険かもしれないから人を呼んだ方が良い」

「解った。何すればいい?」


 そうしてリアーネが腰鞄(ウェストポーチ)から取り出したロープを倒れず残っている木に張って、ラウリーがそのロープに赤い札を付けて行った。およそ十メートル程のロープの張られた領域ができ、その存在を主張した。『浮遊』の魔法で森の上から現在地を確認し、地図におよその地点を書き込んで、下草を払い目印を付けながら街へと戻った。



 日暮れ前に街へと帰り着き、狩人(ハンター)組の組長に報告が集まる。

 組長の前に広げられた地図には、南北に走る谷に沿うように亀裂の範囲がおおよそ描き込まれており、端から端まで五、六キロ近くはありそうで、その中心近くに双子の見つけた場所はあるようだった。


「ふむ。大規模な亀裂に関しちゃ他からも報告があったが、大量の魔力ねぇ……何か思い当たることのある者は居るか?」

「でかい魔石が埋まってるとか?」

「在りそうなとこだな。他だと死んだ大型魔獣が埋まってる、くらいかね」

「なんだそりゃ? 魔獣の墓場みたいなもんでもあんのか?」

「魔法金属の鉱脈でも在れば言うこと無しなんだがな」


 適当なことを言い合う狩人(ハンター)達だが、ここで考えられることはその程度であった。


「どう思う? お前らが見つけたんじゃろ」


 新人でしかない双子にも意見を募るのは、何も気を使ってのものというわけでもない。

 リアーネは学院時代から数々の魔導具を開発、研究してきた経歴がある。卒業後の希望した先が狩人(ハンター)を主体とし、錬金術は片手間に活動すると言うもので、錬金組合(ギルド)の者達からは随分と恨み言を聞かされていた。そんな魔法、魔導具に精通する少女に対し期待を込めた質問であった。


「ん。推測でしかないけど、それでいい?」

「もちろんじゃ」


 組長の柔和な顔に眼光だけが鋭さを帯び、一言すらも聞き逃すまいと注視する。


「ん。例えば、紡績工場の大型魔導具。全機全力稼働させると同程度の魔力濃度を観測できると思う。ただ、森で見つけた魔力元には亀裂があるだけで魔導具などを発見できたわけではなく、地中から噴き出していると思われる。どの程度の深さに埋もれているかは判らないけど深ければ深い程に規模、能力のある魔導具と言える。聖樹程じゃないけど凄い魔力量だった」

「考えたくは無かったんじゃが、見当が付いておるのか?」

「さすがリーネだねっ!」

「ん。ありがと、ラーリ。推測に推測を重ねるようなものだし、実物を見たことは無いから断言はできないけれど、可能性は二つ。霊脈の噴出口、魔力溜まりとも言われる場所。これなら良いのだけど、もう一つの方が問題で……迷宮核があるかも知れない」

「「「なっ!! 迷宮核だと!!」」」


 冷徹とも感じ取れそうな調子で予測を語るリアーネに、一気に組合(ギルド)の中が驚愕の声に包まれた。


「たしかに魔力溜まりなら歓迎じゃが、どうして、その結論に至った?」

「ん。迷宮氾濫(スタンピード)以前、ここには集落すら無かったから魔力溜まりの可能性は低いと考えられる。もしそうならもっと強い魔獣が発生しててもおかしくはない。対して、ここは南の玄関口とも言える地域。龍神様のお膝元である聖樹の近くに迷宮核を仕掛ける計画が有ったとしても不思議とは言えない」

「もし、トゥッカーの負の遺産じゃとしたら中は大変なことになっておらんかね? ……三百年、誰にも知られること無く閉ざされ続けた迷宮……全ての魔物が受肉しているはずじゃ」


 その推測には、皆、驚愕をもって言葉を封じられてしまった。


 およそ三百年の昔、大陸の南の果てにある国が侵略兵器として開発したと考えられている迷宮核。これを世界中の大都市に秘密裏に設置し、大きな迷宮が形成された頃を見計らって閉ざしていた出入り口を開放した。日時を合わせて行われたそれによって、都市中に魔物が溢れ出し兵員のみならず平民にも多数の死者を出すことになる。


 その迷宮氾濫(スタンピード)により多くの街が滅びることとなり、多数の街から安全を求めて避難し辿り着いた場所の一つがこのテルトーネであった。


 人の生存権の確保の戦いは続けられ、半数近くの迷宮が攻略されたと言われる現在において、未発見の迷宮などと言うものは、ついぞ聞いたことも無いものであり結論を出すべきものでは無いと、この場の者達を抑える声が上がった。


「まずは調査が必要じゃろう。錬金組合(ギルド)からも人手を出してもらった方が良いじゃろうな。地面の掘削もしなきゃならんじゃろうから建築組合(ギルド)の人員も必要か。もちろんうちからは護衛の人員と嬢ちゃん達には案内を頼むことになる。誰か、錬金と建築の組合長(ギルドマスター)に連絡を、集会所で部屋を確保して待っていると伝えてくれ」

「全く、ただでさえ地震の後始末で大変だってのに……」


 嘆いていてもどうにもならんと組長に一括されて、今後の対処について話が始まる。

 何やら大事に発展し、どうするべきかと様子をうかがっていた双子は、帰って体を休めておけと追い払われた。


「リーネ、ほんとに迷宮核?」

「んー……七割くらい? 何かしらの魔力を保持した素材の可能性もあるけど、最悪は想定しておくべき」


 大きな心配と小さな期待で二人の尻尾は変調を繰り返すように忙しなく振り続けられた。


 読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。

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