063 喧騒の街と深い雪
翼翠竜騒動から季節が廻り冬の寒さが身にしむようになった頃、寮の室内をストーブで温めて炬燵に肩まで入り込んでいるラウリーと同じようにして本を読んでいるリアーネが居た。
「二人とも出かける準備ができてないの!」
「そうだよー。ボクらと出かける約束でしょー」
「そうそう。甘味処が待ってる」
「買って来てくれるとラーリ嬉しい」
「ん。こんな寒い日に満月を待つなんて考えられない」
「はいはい、満月は待たなくていいから。それよりも甘未処!」
そう言ってルシアナはストーブを消し、炬燵布団を捲り上げてしまうのだった。
「お祭り、お祭り。ラーリもリーネも楽しみにしてたでしょ」
着膨れた双子に劣らず皆も沢山着込んで動き辛そうに歩いて行く。
「なんで雪降ってるし」
「ん。外に出るのは非常識」
寮から一歩踏み出して、降り積もる雪に信じられない物を見た、とでも言わんばかりに双子は嫌そうな顔をし、戻ろうとする。
「いやいや。それ言い過ぎだって」
「でも街中で雪降るなんて初めてじゃないかなー?」
「きゃっ! もう。歩きにくいのー。ルーナありがとーなの」
雪に足を取られて滑らせたロレットは間一髪転びそうになったのをルシアナに助けられた。
普段見ない様な屋台に露店も沢山で、街中人通りも多く賑わっていた。
そして、到着したのは中央公園の東にある、最近できたばかりの甘味処である。
繁盛しているらしく店内は客で賑わっていることが、通りまで伝わって来た。
「中入れなさそうだねー」
「ん。屋台出してるからそれでいい」
「そっちもいっぱいだねー。早く並んじゃおう」
「ほらほら、屋台の前にはストーブもあるんだから」
「はぁー。待ち遠しいのー」
思ったほどには待つことも無く屋台の前に到着してみれば、最近露店街で見なくなった顔が出迎えた。
「よぅ、お嬢さん達。久しぶりかな? 屋台は久しぶりに出すからなぁ」
そう言ったのは、聖王国から来た元行商人の男性、マルセロである。
「おひさー。みんなに一つずつ頂戴ー」
「種類はどうする?」
「ん。一杯種類ある……別々のが良い。みんなで分ける」
「了解。いやー、ここのところ、この店出すのに掛かりっきりだったからなぁ。それもこれもお嬢さんに出会ったことが始まりだ。感謝感謝だよ、本当に。ほれ、おまけしといた。お祭り楽しんできな!」
「「「ありがとう!」」」
立地的にも近くだった神殿前には歩くのも困難になる程に沢山の人が詰めかけて、舞台上には十人の見習い少女神官が歌舞を奉じており、民衆も思い思いに歌い、踊っていた。
「だっはー。やっとまともに歩けるー」
「ん。凄かった」
「あー、今年の神官見習いの娘たち、妙に人気あるよね?」
「すっごい迫力だったね、応援の声そろってたし」
「うぅー。怖かったのー」
五人は神殿前の人込みを離れて一息ついていた。
「ね、あそこの茶屋行こう!」
ラーリの指差したそこではちょうど席が空いたところだった。
お茶とお菓子をそれぞれに頼んでようやっと人心地ついたのだった。
お待たせしましたと配膳されて、一口ずつ分け合って食べて行く。
「にゅふふー。おいひーねー」
「ん。ラーリの可可は最高の菓子。でも寒い日はリーネの選んだ温かいのが良い」
「ほらー、だからこっちのパイ包み焼きにしたら良かったんだってー」
「ルーナはそれ好きだよね。美味しいけどなんか違う」
「そうなの。みんな甘未を求めてるの!」
「んー……だったらプリンでも入れれば、いいんじゃない?」
「「「それだ!」」」
リアーネが何気なく呟いたことに対して、皆の鋭い反応に思わずビクリとしてしまうのだ。
後日、試作のプリンのパイ包み焼きを絶賛することになった五人は調理人組合に調理法を登録し、いくつかの馴染みの店が増えることになる。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




