062 有効射程と遭遇戦
テルトーネの西南西の尾根沿いを登り山頂付近に到着した双子達は、先導してきた先輩方を気にしながら休憩を取る。
組合での話し合いで決まったのは、ここから一つ北の山腹に的を用意して試射しようということだった。
現在、別の班が的を持ってそちらの山に設置に向かっているところである。
近い場所から、一キロ、一・五キロ、二キロ、二・五キロとおよそ五百メートル毎に的を準備するというのだから大変なことである。
「そろそろ良い?」
簡易コンロでお茶を入れて口にしているとパルヴィが聞いて来た。どうやら的の準備が整ったらしく、ゴクリと飲み干し準備にかかる。
厚手の敷布の上に腰鞄から大型銃器を取り出せば、出発前にも見ているにもかかわらず「おぉ」と、皆が声を上げる。
双眼鏡で的を確認し銃の設置場所を微調整。
伏せ撃ちの体勢になり照準器を覗き込んで更に調整。
キラリと的が光を弾き狙いが付け辛いと、黒眼鏡を出し装着する。
ラウリーが観測手となってリアーネの傍に位置取ると、周りの皆も双眼鏡で的付近を確認していく。
赤と白の旗を手に双眼鏡を覗きながら連絡を付け、両者準備が整ったことを知らせ合う。
弾倉を装着しガシャリと遊底を操作する。
続いて照準器を覗いて狙いを付ける。
息を飲むような静寂の中、ついに引き金にリアーネの指先が掛かった。
パシュッ!
「リーネ、右三メートル、上方一・五メートル修正」
「ん。左に三点、下に一・五点」
カチカチッと照準器を調整してから次弾発射。
パシュッ!
「弾着!」
「「「おぉーーっ!」」」
今度は的に命中し威力も申し分ないと期待がかかる。
赤白の旗で連絡を取り合い一・五キロ、二キロと的を変え、順調に二キロの的まで中てられる様になったが、二・五キロの命中率は一割を切るものだった。
「狙って中てられるのは二キロってところね。それでも今までの倍近い距離なんだから凄いことよ」
「えへへー。リーネ凄いって!」
「ん。ラーリもありがと」
双子の尻尾はブンブンと元気よく振られていた。
この試射の間に照準器は二キロを中心として調整をした。
「カァーッ! なんで中んねぇかなぁ……。よし、もういっちょ」
その後はウルマスが二・五キロを命中させるのだとリアーネに代わって射撃しているが、一・五キロの時点で五割を切る命中率しか出せなくて、ムキになっていた。
他数人も射撃をするが、リアーネが一番命中率が高く、本番にも参加の流れになって来た。
そろそろ街へ帰ろうかと言う時に、周囲から声が上がり、瞬く程に短い間、太陽の光を影が遮った。
ンギャーーグゴオォォーー……!
バサリバサリと、翼を鳴らしてその存在を見せつけた翼翠竜は、ラウリー達を飛び越えて北側の斜面に設置した的を目指す様に飛んで行ったのだ。
その近くに陣取っていた狩人達は、慌てて岩陰に身を隠して様子をうかがう。
「ちょっと! どうするの!?」
「クッソ! 仕方ない。準備不足だがそんなことも言ってらんないだろっ!」
銃を向けて射撃体勢を取ろうとするウルマスにラウリーが待ったをかける。
「リーネの役目!」
「ん。任せて」
「だがな、お嬢ちゃんに任せっきりにはできないんだよ」
苦し気な表情で声を絞り出すウルマスに、リアーネは強い意志を持って任せろと言いきる。
「ん。こっちに気付かれたら危険になる。だから、その時は……守って」
「………はぁ。わかった。その時には絶対守ってやる」
そうして、リアーネが位置につき、属性弾を準備する。
観測手には先程と同じくラウリーが付き、照準器を覗き狙いを付ける。
「翼竜は二・五キロの的の近くよ。焦ることは無いわ、じっくり狙いなさい」
「ん」
狩人の存在に気付いた翼翠竜は上昇、下降を繰り返し、狩人達を執拗に挑発する。時には大きく口を開けて『風刃』か何かを使っているようで、隠れた岩の周囲が引き裂かれていく。
翼翠竜が上昇に転じた時を狙った狩人の一人が『閃光』の魔法を、翼翠竜の目の前で炸裂させた。
「まぶしっ!」
双眼鏡越しにその光を見てしまったラウリーの悲鳴を聞きながら、黒眼鏡のおかげで影響を受けなかったリアーネは、照準器越しに体勢を崩して動きの鈍った翼翠竜へとしっかり狙いを定めて引き金に触れた。
パシュッ!
ガシャコンと、遊底を操作し次弾を装填して狙いを付けなおす。
「命中っ! 右翼!」
ラウリーに代わってウルマスが弾着報告をした。
パシュッ! と、発砲したならばすぐに次弾を装填し発砲準備を整える。
「命中! 尻尾!」
「にゃー! ラーリの役目なのにー!」
ウルマスの弾着報告とラウリーの声が聞こえて来た時には、翼翠竜はドスンと山肌に体を打ち付けていた。
「どうなったの!?」
「ん。麻痺が効いたのかも」
そう言った切り、発砲準備を整えて狙いを定める。
「リーネ、あいつ、まだヤル気みたい。どこから攻撃されたのか探してるんだと思う」
「ん。動けないうちに、終わらせる」
そう言うと、ブワリと尻尾を膨らませたままにリアーネは引き金に触れ発砲し、ガシャコンと次弾装填してまた発砲。弾倉内の弾丸を撃ち切ると弾倉を交換してまた撃ち切った。
北側斜面からも狩人達が銃を構えて発砲する音が聞こえてくる。
「多数命中っ! 頭から血が出てる!」
十発近くが頭部に命中し、痺れながらも周囲の様子を探ろうと上げていた翼翠竜の首は、ビクリとした後、地面へと投げ出されて動かなくなった。
ラウリーの弾着報告に、ようやくリアーネは脱砲して双眼鏡で様子をうかがう。
山の向こう側では狩人達が翼翠竜の様子をうかがって、念には念を入れて置こうと銃創に剣鉈を突き刺している。
反応の無さから翼翠竜を仕留めたと確信し、ようやく安心したのか周囲から歓声が上がった。
「やったね! リーネ!」
「ん。やったね!」
そう言って、双子はお互いに抱き着いて、尻尾を振り振り喜びの声を上げたのだ。
その後は、狩人総出で翼翠竜を切り分け、いくつもの魔法鞄にいっぱいに詰めて、街に持ち帰ることになる。できるだけ素材は大きなままの方が良いと、苦労して解体がなされていった。
その光景の初めの頃を双子はチラリと目にしたが、街に帰った後はしっかり休めと返された。
その日の晩は狩人組合のほどんどの者が参加して宴会を開いていたという。
後日、双子には特別報酬だと言って、翼翠竜の素材の一部をもらうことになる。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




