061 銃砲工房と調査隊
ここ数日、見習いが街壁の外に出ることは禁止され、狩人組合へ行っても射撃訓練や道具の手入れ、外の様子を聞くことくらいしかできることは無かった。
そして、山上への調査隊が返って来た。
「随分と上の方は荒れてるようだ。帰って来てから聞いた固体と同じかは判らんが、翼竜の姿も遠目に確認している。さすがにあれに対処できるような装備を持ってなかったからな、近付くようなことはしてないよ」
調査隊が持ち帰った情報には、翼竜の深緑色からも翼翠竜であろうということ、巣を作っているらしいことが含まれていた。
組合内でできることも少なく、先日の銃を見せに行こうと言うことになり、黒鋼銃砲工房へとやって来た。
「親方、こんちわー」
「はい、いらっしゃい。親方は今、工房に居るからちょっと見て来るわね」
卓と椅子と観葉植物に本棚と一見すると工房には見えない、商談用の店舗部分に居た髭小人の女性が扉の奥へ消えて行く。
しばらくして現れた時には、お茶菓子を手に親方を連れて戻って来た。
無理を言った小娘が返品にでも来たのかと、工房主である髭小人のクスタヴィは顔をしかめている。
「こないだの銃は、やっぱり使いこなせんかったか?」
「ん? 改造したから見せに来た。ちゃんと使えるように仕上げてある」
腰鞄から取り出して、卓の上にゴトリと置いた銃を手に取り親方は確認していく。
「ふむ。外装部分の形は変わっちゃいるが基本の構造はそのままか。お嬢ちゃんでも使える工夫は銃床のこれか?」
「ん。この二脚で銃を支えるから筋力に劣るリーネでも狙撃ができる」
他にも、銃床が体への負担を軽減すること、先端の消音機で発砲音の軽減と衝撃を斜め後方に逃すことでも衝撃の緩和と銃身の安定を図っていることを説明した。
「なるほどな、発砲時の衝撃を安定させるために使ってるのか。あと魔法陣はかなり変わっちまってるな。こいつは何をどうしてるんだ?」
「ん。元は『念動』『韋駄天』『防音』の三つだった、これを『回転』『加速』『防音』と強化したうえで『静寂』『魔力集積』を追加して、複合魔法陣を作った。銃本体の魔法陣もそれに合わせて変更してる」
「そんで、この銃口の所に付いてるこいつはこんなに大きさが必要なのか?」
「ん。それは安定させるためだけじゃなくて、音を抑えるためにその大きさが必要。魔法だけじゃ抑えきれなくて、凄い音がした」
「そうなんだよー! 近くに居るだけで耳がキーン! って、なっちゃったんだ」
「あれはほんと、凄かったよなあ。あんな大きな音、初めてだったよ」
「銃の試射してくれたウルマスさんもしばらく耳が聞こえなくなってたよね」
「そうなの! これじゃ使えないってリーネすぐに改造始めちゃったの」
どれだけ大きな音がしたのかを耳を倒れさせながらも双子は話す。
その時に使った銃弾がこれだと言って、卓の上に置く。
「見たところ変わり無さそうだが、こいつぁどう違うんだ」
「ん。『衝撃波』の威力が上がる様に魔筒に焼き込む魔法陣を変更した」
「これだけ見ても判らんな。射撃場でも行くか」
なんだかんだと言いながらも、親方は随分と楽しそうな表情を浮かべていた。
出かけて来ると言い置いて、双子達と狩人組合所有の射撃場へと場所を変えた。
一番端の一キロはある場所を陣取り、的の準備なども進めて行く。
まずは普通の銃弾で撃ってみろと言われ、リアーネは準備を整え射撃を始める。
シュッ!
「うん? 今、撃ったんだよな?」
軽い反動と甲高いが小さな音に髭をしごきながら親方が聞く。
「ん。間違いなく」
ガシャコンと遊底を操作して次弾を装填。
親方は立ち位置を変えてリアーネの後ろに移動して、発砲の合図をすることにした。
「撃ち方よーい。三、二、一、撃てっ!」
シュッ!
発砲と同時に銃が跳ね、微かな音を残して遠く離れた的に中ったのが確認できた。
「随分と静かだな。それだけでも今までの銃よりいいんじゃないか」
「そうだよね! これなら大型の銃を使う人と一緒になっても耳が痛くならないよ!」
ラウリーが尻尾をブンブンと振って嬉しそうに言う。
次は改造銃弾を使っての射撃に移り、リアーネは準備を整え引き金を引く。
パシュッ!
先程よりも跳ねる高さも音も、大きくなっているのが判った。
的の確認をしてみれば、威力が上がっていることもすぐに知れたのだ。
「本当に、お嬢ちゃんでも使えるんだな……」
「ん。伏せ撃ち限定だけど」
ガシャリと脱砲してから、得意そうな顔でリアーネは答えた。
「こいつは、いいな。鍛冶組合に登録しときな。そしたら誰でも使えるようになる。まぁ、その改造銃弾の出番は、翼竜騒動が収まれば無くなるんだろうがな」
「そうだ、リーネの使ってる狙撃銃は見せたの?」
「うん? 何かあるのか?」
「ん。忘れてた。これ」
そう言って取り出した銃を見た親方は、見慣れない形状に唸りを上げる。
そして鍛冶組合では、消音装置の構造が判り易いようにと半分に切った物と、リアーネの普段使い用の狙撃銃の構造の書類を合わせて持ち込み登録をした。
錬金組合でも新しい魔法陣を預ければ、銃器関連の改造も終わりと言える。
狩人組合に戻ってみれば、出る前と違って随分と騒がしくなっていた。
よくよく聞いてみれば、翼翠竜の巣からできるだけ離れて狙撃したいが、今ある銃では随分と近づかなければならず、危険ではないかと言うことだった。
五人が戻ったことに気が付いたウルマスが、リアーネを指して声を上げる。
「リアーネ! お前の新しい銃と弾なら行けるんじゃないか!?」
狩人組合中にウルマスの声が響き、皆の視線が集中した。
「にゃっ! にゃに!?」
「ん!? にゃん、の……こと?」
急に注目が集まったことに驚いた双子の尻尾の毛が逆立ちぼわっと膨らんでいた。
「あー、悪い悪い。何だ、こないだ俺が試射した大型の銃。あいつがどの程度の射程があるか知らんが、今までの奴より遠くから狙撃できるんじゃないかと思ってな。どうだ?」
ウルマスの言ったことにより、更にリアーネに注目が集まることになる。
「ん。弾丸の威力を強めたから、その分だけ射程が伸びてる……はず。確認はできてない」
「だよな! だったら確認すればいいだけだ!」
街の中では狩人組合の射撃場以上に距離を取れる場所が無く、どこで試射すべきかと言う話が街周辺の地図を見ながら始まったが、双子達は意見を挿めるでもなくポツンと取り残されてしまった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




