058 狩る魔獣と狩る者
北西の森の奥深く、枯れ草もいくらか見られる様になってきて、遠くにいる獣の発見も容易な季節になった。
「ん。血抜き終わった」
「周辺異状なーし。早く次のさがそう」
「ラーリ。あそこ、何かいるよ」
レアーナの指差した先を双眼鏡を構えて確認してみると、川岸に細顎鰐が数頭いるのが見えた。
「おぉー、鰐だ。大っきいねー。一、二、三……七頭かな日向ぼっこしてるね。リーネここから狙える?」
「ん。任せる」
拳銃じゃ無理だと笑いながら言うラウリーが聞けば、この距離なら楽に中てられると、リアーネは尻尾を楽し気に揺らしながら答えた。
狙撃銃に弾を込め遊底をガシャリと準備を終えて、片膝立ちで五十メートル程先に狙いを付ける。
ラウリー、レアーナの意識がリアーネに向いてしまい周囲への警戒が疎かになった時。
「防衛準備! 対象狼!」
今まさに引き金に触れようとしたところにパルヴィの警戒の大声が響いたのだ。
銃声と背中合わせに周囲を確認するのと、迫ってくる白珠狼の姿を捕らえるのは、ほとんど同時のことであった。
「うっわぁ! ったぁっ!」
ギャウンッ!
空気中から融け出してきたように現れた白珠狼を、ラウリーはとっさに身を捻りつつ剣鉈を引き抜きざまに振りぬけば、右後肢を何とか切りつけることができたのだ。
同じように声を上げながら転がって躱したレアーナは、転がった時に地面に突き刺し手放した剣鉈に代わって腰鞄から戦槌を取り出し構えを取る。
「ん! 迅速果断なリッシャォよ、威と速さをこの身にもたらせ………『敏捷強化』」
パルヴィの声に驚いて発砲していたリアーネは、白珠狼が近すぎて銃での応戦は向かないからと、四人の敏捷性を強化することで援護した。
パルヴィも剣鉈を抜き白珠狼に対して牽制をする。
「六頭確認! まだいるかも! うちは左側に当たる!」
間合いにも余裕のあったレアーナが、ざっと見渡し確認できた数だけ報告を上げる。
その間にもラウリーは白珠狼との間合いをはかり、じりじりと距離を詰め、リアーネは続けて『樹壁』の魔法で半円を書く様な大きな壁を作り、後方の安全を確保した。
「ありがと、リーネっ! これで対処しやすくなる」
「ん! 次行く! 天を奔る猛き輝きよ、衝撃をもって弾けよ………『雷球』」
レアーナが長柄の戦槌で白珠狼を寄せ付けない間に、リアーネの放った雷球を白珠狼が躱したかと思った時に弾けて広がり二頭の白珠狼を痺れさせた。
「せいっ! はぁっ!」
リアーネの魔法を追いかけるようにして駆けだしたラウリーが、右手の剣鉈だけではなく左手に短剣を追加して、痺れて動きの鈍くなった白珠狼に左右に持つ剣で一頭ずつ首を切り裂いた。
すると、形勢不利と判断したのか白珠狼は後退し始め、十分に離れてから周囲に溶け込む様に姿を消した。
「消えちゃった!」
「えーっと、本当に居なくなったのかな? また、襲ってこない?」
「ん……。姿を隠す光の帳よ、闇をもって暴き給え………『透明看破』。大丈夫そう」
白珠狼の使う光魔法の『透明』を見通す魔法で周囲を見渡して、危険の無いことを確認し、ようやく一息つくことができた。
その後、リアーネは脱砲し仕留めた白珠狼の血抜きも終わらせて、レアーナも戦槌を片付け剣鉈を回収した。
「『透明』使ってくる魔獣って怖いね」
「ん。先輩の声が無かったら危なかった」
「だねー。すっかり油断してた」
双子の耳も尻尾も元気をなくして萎れてしまっている。
「最近ちょっと慣れて来て、気が緩んだかな? そういう時が一番危ないのよ。今回は私が居たから良かった様なものの、あなた達だけで狩りに出るようになってもこの調子じゃだめだからね」
「「「はい! 気を付けます!」」」
「そういえば、鰐どうなったかな?」
「ん。そうだった」
狙撃銃の照準器で見てみると、未だにのんびりと日向ぼっこをしている細顎鰐が数頭確認できたが、どうやら先程の発砲では何も仕留めることはできていないようだった。
「まだいるんなら、一頭狩って帰ろうか」
レアーナの言葉に、リアーネは改めて狙撃銃の準備を整え狙いを付ける。
じっくり狙って放たれた銃弾はパシュッ! という音を響かせ、吸い込まれるように細顎鰐頭部に中り、ビクリと痙攣をおこして力が抜けたのが照準器越しに伝わって来た。
周囲に居た細顎鰐達も異変を感じて水中に身を隠しその場から離れて行った。
先程の白珠狼がまだ居ないとも限らないと、十分に周囲を警戒しながら水辺にたどり着き、仕留めた細顎鰐を回収する。
さすがに今日は緊張しすぎたからと、少し早めに切り上げることとなった。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




