055 銃の所持と狩り場
気配を消して草陰に身を潜め、獲物が近づいて来るのを忍耐強く待ち続ける。
離れた場所で草を食み、時おり周囲に耳をそばだて警戒している。
少しずつ少しずつ双子達の方へと近づいてくる。
「来た」
「ん。慎重に」
木を背に周囲を警戒しながら顔を覗かせ、確認するのは獲物である藍鎧兎だ。
餌となる飼料を撒いた辺りに藍鎧兎が来れば、何やら美味しそうなものがあると食べ始める。
パシュッ! と、軽い銃声が鳴る。
じっくりと狙いを付けていたラウリーの持つ拳銃から飛び出した弾丸は、藍鎧兎の首元に命中して一瞬逃げようと体が動くが、そのままドサリと倒れて行った。
「よっし! 中った!」
「ん。仕留めたと確認するまで気を抜かない」
「まぁ、そこは任せといてよー」
レアーナが鉈を手に藍鎧兎に近づいて行き、刃先でちょんちょんと突いてみても何も反応が返ってこない。そのまま後ろ脚を持ち上げて、仕留めていることを知らせて来た。
「一撃だったねー」
「ん。当たる距離まで我慢したから」
耳をピコピコ喜びを表すラウリーと、尻尾を揺らすリアーネであった。
ラウリーは回転式弾倉から魔筒を取り出し、弾が込められていないことを確認する。
その間にリアーネ、レアーナの二人は藍鎧兎の後肢にロープを結び、木の枝に掛けて吊るして、血抜きが終わるまでしばらく休憩にする。
「その兎、大っきいねー」
「ふふー。野生のはまた違った味が楽しめるよねー」
「ん。牧場のより肉質が良い。でも、脂が美味しいのは牧場の方」
血の出る勢いが衰えて来てから、リアーネが『脱血』の魔法で一滴残らず絞り出し『浄化』を掛けて綺麗にする。これらの魔法の使える狩人は数える程しか在籍しておらず、臭みの少ない肉を得られると組合内での評価も上々だった。
「ラウリーの銃の扱いも大丈夫そうね。正式な許可もすぐに出せるでしょう」
パルヴィの評価に尻尾をゆらゆら笑顔を返すラウリーだった。
この程、指導員の付き添いのある時に限ってだが銃の使用が開始され、北西の森の奥深くまで来ていたのだ。
藍鎧兎を魔法鞄に回収してから、狩りを再開だと足を進める。
先頭を歩いていたラウリーが止まれの合図を出して前方を指さした。
「いっぱいいるね。鹿だよね?」
「ん。十角鹿。んー……狼、白珠狼もいるみたい?」
「え!? どの辺?」
狙撃銃の照準器を覗き込んで見ていたリアーネの銃口の先を、腰鞄から取り出した双眼鏡で確認する。少しかかってレアーナが見つけた頃には、白珠狼の狩りが始まった。
「わぁっ! こっち来たー! どうする!? どうしよ!?」
「ん! レーアは『石壁』作って。一頭でも鹿を仕留めたら、狼はそっちを確保するはずっ!」
「任せてっ。はぁ……硬き大地の守りの力よ、その身を起こし盾となれ………『石壁』!」
焦りながらもリアーネの指示に従いレアーナは魔法を使って四人の前方に縦横一・五メートル程の石の壁を作り出す。
リアーネは身長程もあるその壁の上に勢いを付けて登ると、狙撃銃に弾倉を入れ遊底をガシャリと操作し構えた。照準器を覗き込み立派な角を持つ一頭の十角鹿に狙いを付ける。
最後尾を走る十角鹿の角が仄かに光を放つと、追い駆ける白珠狼が足をもつれさせた。
「ん?『樹壁』みたいなのでも使ったのかな?」
さらに近付いてくる十角鹿の横手から、湧き出す様に現れた白珠狼が襲い掛かるが十角鹿は躱して走り続ける。
五十メートルを切る程に、ほとんど真っすぐ走り寄る群れの中程に居る角の立派な十角鹿を狙って、慎重に引き金に触れる。
パシュッ!
狙撃が命中した十角鹿は足をもつれさせる様に倒れ、ようやく前方の壁に気が付いた十角鹿の群れは進路を変えて、わずか数メートル先を走り抜けていった。
追いついて来た白珠狼は倒れた十角鹿に止めを刺して、こちらを気にしながらも食べ始めた。
「はぁー……びっくりしたー。もう、大丈夫かな? どうしよっか?」
詰めていた息を吐き出して、汗を拭いながらこの後の方針を相談する。
「ん。ここから離れた方が良い」
「そうだね。あれ、何頭いるか判る?」
「んー……六頭? いや、あと小さいのが四頭、子供だね。まだ離れてる」
「少ないとはいえ群れごと狼の相手はできないよねー」
「十分警戒すること。離れてるって言ってもたいして距離は無いから、追いかけられたら逃げられないと思ってよ」
方針も決まりパルヴィの注意も聞いて、周囲への警戒を怠らずに来た道を戻って行く。白珠狼側の警戒も解かれる程に距離を取るのに半刻近くも掛かってしまった。
直近の危険も無くなり、ようやくリアーネも脱砲する。
「これからどうしよ? 別ルート行く?」
「ん……、他の班と被らないかな?」
「不用意に入り込んで誤射されたらたまんないし、今日はもう帰ろう」
賛成多数で切り上げることになった。
「まぁ、妥当な判断ね。帰り着くまで気を抜かない様に!」
「「「はい!」」」
予定のルートに寄せるように、帰りの道を選んでいく。
「ん? この辺、狐手袋がいっぱい。少し採って行く?」
「どれ? これ? リーネ、これ何の草?」
「ん、毒草。薬の材料にも使う」
リアーネが毒草と言った瞬間、ラウリーとレアーナは伸ばしていた手を引っ込めた。
「直接触って、大丈夫かな?」
リアーネは大丈夫だと言い、三割程を採取する。
その後も薬草、野草を採取して、帰り着くまでの道中で藍鎧兎を一頭仕留めることができた。
読んでいただけた方が楽しいひと時を過ごすことができれば幸いです。




